1990年近い長い歴史の間でも、例のない珍事が起きてしまった第89回アカデミー賞。
クライマックスの作品賞発表でプレゼンターに受賞者封筒を渡し間違えたことが世界的なニュースとなり、反トランプ色が濃く、数々の記録を塗り替えた歴史的セレモニーは、混乱のうちに幕を閉じる結果になりました。

のっけから司会のキンメルがトランプ新大統領を皮肉るトークが炸裂

2017年2月26日、日曜日のハリウッドは朝のうち雨が降っていたものの、お昼までには止んでレッドカーペットが浸水する様なこともなく、ドルビー・シアター前の深紅の絨毯行事は無事に進行。ウールが欲しい寒さだったが、スター達は高揚しているせいか上半身露わでも鳥肌ひとつ立てないことにいつもながら感心してしまう。

夕5時半、その前に靴を履き替えていたジャスティン・ティンバーレークが楽しそうに歌曲賞候補の『トロール』の主題歌を歌って、踊って授賞式がスタート。「ラ・ラ・ランド」風な出だしを故意に避けて(ゴールデングローブ賞で使われたし、誰もが予想するのを裏切ってのサプライズ)ジャズっぽいテンポでバックのダンサーより切れの良い動きを見せて、さすが、かなり練習を重ねたに違いない。「ミッキー・マウス・クラブ」の同級生ライアン・ゴスリングに負けていられない根性見え見えだったが、途中でライアンとがっちり抱き合って微笑ましかった。

画像: オープニングはジャスティン・ティンバーレークのシング&ダンス

オープニングはジャスティン・ティンバーレークのシング&ダンス

放映局のお抱え深夜トーク番組の司会者、ジミー・キンメルが登場して、まずこの夜最初のトランプへのプチ批判をちくりと刺した後、ちゃっかりトランプのモットーなど繰り返しているのである。
『僕、アカデミー賞初めてなんです。今夜のセレモニーは225カ国に向けて放映されますが、これらの国は今やアメリカ嫌いなんですよね。ま、色々言いたいことはあるでしょうけれどアメリカ人としてポジティブに行動して、アメリカを偉大にしましょう!」

ジミーはマット・デーモンを目の敵として扱うことをお笑いのルーティーンにしていて評判で、この夜も例外でなく「マットがポニーテイルにして出てくる中国の映画は最悪だよね!」などと15分に1回ぐらいの割合で、「マットいじり」のゲームを突っ込んでくる。

おまけにこの夜は大女優メリル・ストリープにもジミーは相次いでジャブをかまし「過大評価で全くインスピレーションを湧かせない、どうでも良いキャリアを経たメリルが目の前に坐っているのですよ!」

大統領のツイートを皮肉ったこのジョークに会場は大喜び、メリルは椅子に深く座って顔を隠したり、妙に少女っぽい動作をしてジミーに対応していた。

画像: シャーリーズとシャーリーが手渡した外国語映画賞は代理の女性が受け、監督のメッセージを読み上げた

シャーリーズとシャーリーが手渡した外国語映画賞は代理の女性が受け、監督のメッセージを読み上げた

入国禁止令に反発し出席をボイコットしたイランの監督が痛烈な批判の受賞コメントを

さて今回のみどころ第1弾。アリシア・ヴィカンダーが「助演男優賞はマハーシャラ・アリー!」とアナウンス。4日前に娘が産まれたばかりというアリーは「お婆ちゃんにこういうときは上着のボタンをちゃんとかけなさいと言われてきたからね」とまず服を正してから、大勢の教師に恵まれたというスピーチを、嗚咽を抑えながらこなしていた。

第2弾。マーク・ライランスが英国劇場のベテランらしい、落ち着いたよく通る声で「ヴィオラ・デーヴィス」と助演女優賞を読み上げ、真っ赤なドレスのヴィオラは、ゴールデングローブ賞でも披露した堂々の古典劇のセリフの様なスピーチをして、すかさず司会のジミーが「このスピーチだけでエミー賞もの!」と誉め称えるのであった。

第3弾。外国語映画賞をアナウンスしたのはシャーリーズ・セロンとシャリーズの憧れのスターだったシャーリー・マクレーン。受賞作「セールスマン」のアスガー・ファルハディ監督はトランプのイスラム諸国民の入国禁止令に反抗して欠席し代理のイラン女性が、恐怖や不安を生む政治に反対すると監督のコメントをアピールしていた。

こうした式の途中に、この日のために激しいダイエットをして来た多くの出席者がこの頃になるとほっとして空腹を感じるのを察知したジミーの知恵で、天井からスナック菓子入りの袋があちこちに舞い降りて来たのが実験的でビジュアル的にも新鮮だった。

作品賞のアナウンスを間違えるという前代未聞の大ハプニングにステージは大混乱

第4弾。マット・デーモンとベン・アフレックが脚本賞をアナウンスし始めると、音楽の音が異常に大きくなりマットの声を消そうとしているようで、よく見るとジミーが指揮棒を振るっているという、またもやのマットいじめ。さて脚本賞はというと「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケネス・ロナーガンが受賞。マットが制作、ベンの弟ケーシーが主演だけに3人の喜びようは感動的だった。

第5弾、アフロへアが凄いイメチェンのハリー・ベリーが監督賞を「ラ・ラ・ランド」のデーミアン・チャゼル(史上最年少記録)に手渡し、第6弾、ブリー・ラーソンが主演男優賞はケーシー・アフレックと読み上げると、髭もじゃのケーシーが感極まってぶつぶつとつぶやいてのスピーチで、これもまた彼の素直で飾らない人柄がにじみ出ていた。ちなみにブリーはケーシーを固く抱きしめたりしなかったのだが、これは彼のセクハラ行為の前科を嫌がっていたからだそう。

第7弾。レオナルド・ディカプリオが颯爽と現れ、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンに像を手渡す前にそっとキッスしたのが爽やかだった。エマは「ライアン(ゴスリング)がいつも笑わせてくれて気持ちがほぐれて助かった」と目を輝かせ、会場ではエマの元恋人アンドルー・ガーフィールド(主演男優賞候補)がそっと涙を拭っていたのである。

第8弾は午後9時。「俺たちに明日はない」が50周年ということで、ウォーレン・ビーティーとフェー・ダナウェーが作品賞アナウンスに現れた。ウォーレンが封筒を開けて、おや?という表情でしばらくカードを見つめていたら、フェーが早く言いましょうよ、とカードを覗いて「ラ・ラ・ランド」と読み上げ、壇上には「ラ・ラ・ランド」チームが集まって祝っていると、様子が変わり突然「受賞作は『ムーンライト』です。冗談ではないのです!」と力強い訂正の声が上がり、慌てて「ムーンライト」グループが舞台へ。

ジミーがアドリブで「みんな僕のせいです!」となだめに回ったが、しばらくの間ショック旋風が吹きすさび、これはのちに、受賞者の封筒を扱う会計士とステージプロデューサーの人為的ミス(二通存在した主演女優賞の封筒を作品賞と間違えてウォーレンに渡してしまった)と分かったものの、妙な後味が残る結果となってしまった。

「ラ・ラ・ランド」チームと「ムーンライト」チームが入り乱れた作品賞受賞のステージ

男性の会計士がマット・デーモンに似ていたために彼のトリックだ、と言う人や、「俺たちに明日はない」のボニーとクライドの最後の犯罪だ、とか、M・ナイト・シャマランが「あのエンディングは僕のアイデア!」とツイートしたり、トランプ大統領が「僕がホストをしたらもっと面白いショーになったのに!」とツイートしたり、マットが「ジミーの大失敗だった。もう2度とオスカーの司会には呼ばれないよね」という逆襲のコメントを吐いたり……という永遠に歴史に残るエンディングの授賞式となったのである。

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