第65回ベルリン国際映画祭で監督賞となる銀熊賞を受賞し、ポーランドのアカデミー賞であるイーグル賞で主要4部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞)を受賞した映画『君はひとりじゃない』。
今作を撮ったポーランドの俊英女性監督マウゴシュカ・シュモフスカが先月来日した際に、『君はひとりじゃない』についてや、ベルリン国際映画祭で受賞した時のお話、そして人生で影響を受けた映画などを伺いました。

母親を亡くし心身を病んでしまった娘と、
喪失感でいっぱいの父親の“愛と再生”の物語

ーーとても独創的なストーリーですが、どのようにアイデアを思いついたのでしょうか?
「拒食症をテーマにした映画を創ろうと思いましたが、もう少し広げて、“オルガ”(娘)というキャラクターを軸に、父と娘の関係性を描くものにしようと思いました。私の父は13年前に亡くなりましたが、映画の父娘とは違ってとても仲が良く、自分の経験を反転させたかったのもしれません。
また、ちょうど脚本を創っている段階で、アンナのような女性に出会い、それが面白かったので父と娘を繋ぐキャラクターとしてセラピストを入れました」

画像: オルガ役のユスティナ・スワラは今作で女優デビュー。

オルガ役のユスティナ・スワラは今作で女優デビュー。

ーー母の死を機に摂食障害に陥るオルガ役には監督がFacebookで見出したユスティナ・スワラを抜擢していますが、父役のヤヌシュ・ガヨスやセラピスト役のマガ・オスタシェフスカといったベテラン俳優も起用されています。
「ヤヌシュ・ガヨスはポーランドの中ではベストと言っても過言ではない役者です。普通、ポーランドで役者というと舞台役者を想像します。ヤヌシュも舞台中心に活動していますので、映画の作品選びはかなり厳しい。だから私の作品に出演してくれるというのを聞いた時は本当に驚いたし、一生懸命取り組んでくれたのでとてもうれしかったです。その後彼はポーランドの映画賞を総なめにしました。マヤもポーランドではかなり有名な女優で、2人ともビックネームですが、実力も素晴らしい2人でした。オルガ役については…私自身はSNSには疎いですが、SNSが得意なアシスタントがいますので、彼を頼ってオルガ役をFacebookで募集したんです。その中にユスティナ・スワラもいました。ユスティナは拒食症を患っているわけではないですが、大きな目など見た目が面白いと思いました。撮影に合わせて5キロ落としてもらいました。でもそんな彼女は、実際はファーストフードばかり食べる子なんです(笑)。撮影後はみるみるうちに太っていきました。今は2人の子供がいるんですよ。ユスティナのような新人俳優と共演することは、ベテラン俳優の2人にとって新鮮な体験になったのではないでしょうか。ユスティナにプロの2人が合わせなければいけない部分もありましたが、ユスティナ自身はカメラの前に立っても非常にナチュラルにふるまえる素晴らしい子でした」

画像1: 母親を亡くし心身を病んでしまった娘と、 喪失感でいっぱいの父親の“愛と再生”の物語
画像2: 母親を亡くし心身を病んでしまった娘と、 喪失感でいっぱいの父親の“愛と再生”の物語

ーー最愛の人を失った人々がどう傷を癒し、前に進むのかが描かれていますね。日本ではグリーフケアという言葉もあります。
「そうですね。喪失とその回復を描いていることは間違いないのですが、それと同時に現代において人と人がいかに向き合えてないか、コミュニケーションがとれていないかということを描いています。この父と娘を見ていてもわかりますよね。それぞれが悲しみに打ちひしがれていて、お互いを見つめ合えていない。アンナも自分の子供を失ったことにさいなまれていて、他の人とのコミュニケーションがうまくとれていない。喪失ばかりに目を向けるのではなく、いまこの瞬間、現実に眼を向けることが大事なんです。非常に仏教的な事を描いているんだと思います。つまり‟禅“的なことですね」

画像: 父親役はベテラン俳優のヤヌシュ・ガヨス。

父親役はベテラン俳優のヤヌシュ・ガヨス。

画像: オルガはセラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)の元で変わったリハビリを受けることに…。

オルガはセラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)の元で変わったリハビリを受けることに…。

ーー本作でベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞したときはどのようなお気持ちでしたか?
「本当にびっくりしました。ポーランド人の監督がベルリンのコンペに入ること自体が15年ぶりだったんです。だからコンペ入りを果たしたことがそもそも驚きだったのに、銀熊賞をもらって更にびっくり! ポーランド人で賞をもらっているのはクシシュトフ・キェシロフスキだったり、イエジー・スコリモフスキ以来だったので、こんなに光栄なことはないと思いました。そしてその後は審査員として招かれて、メリル・ストリープと一緒に審査をしました。その時は、昔私のアシスタントをしていたポーランド人監督に賞を与えることになりました。ある意味、ポーランドのフィルムメーカー達に門を開けられたかなと思うので、私の人生の中では本当に大事な経験となりました」

ーー次回作の構想はすでにあるのでしょうか?
「次回作は『MUG(原題)』という7本目の長編の作品となります。ベルリンやベネチアの映画祭を狙っているんですが、さぁどうなるか、という感じですね。それ以外では1本短編を撮ろうとしていて、色んな女性監督が短編作品を撮って作品にするオムニバス作品です。LAにある「WE DO IT TOGETHER」というフィルムメーカーの組織がありまして、その一環として取り組んでいます。これは2018年のカンヌ狙いです。私の作品にはジュリエット・ビノシュが出演します。フランス人監督の作品にはイザベル・ユペールが出演予定になっています。そしてペネロペ・クルスが監督として参加します。他にはポーランド映画で脚本を練っているものがあって、1年半後には撮影に入っている予定です。また、英語での作品のオファーも来ています。まぁ、どれが実現するかもわからないけどね」

ーー影響を受けた映画監督や作品を教えて頂けますか。
「昔のヴェルナー・ヘルツォーク、アンジェイ・ワイダ、クシシュトフ・キェシロフスキのような巨匠たちの作品を振り返りながら作るので、そういった方々から影響を受けていると思います。私は映画を何本も観るタイプではないですが、過去の作品は参考にしていて、キェシロフスキ監督の『デカローグ』などには特に影響を受けました。それ以外にもポーランドの共産党時代に作られた“旧式の映画の作り方”を参考にしています。『君はひとりじゃない』は作品的にはクシシュトフ・キェシロフスキを意識して、それに“皮肉”を加えました。私が意識していることはキェシロフスキ作品を脱構築することなんです。だから若いポーランドの批評家からは「彼女は革命的な事をしている。」とウケがいいのかもしれないですね。日本人では黒沢清監督は一番好きな監督の一人で、この作品に入る前も黒沢監督の映画を観ていましたよ」

ーーこれから今作をご覧になる方へメッセージをお願いします。
「日本で公開してもらえること、とても誇りに思いますし嬉しいです。『君はひとりじゃない』はキリスト教であっても仏教であっても無宗教であってもそれらすべてを受け入れるような懐があります。異文化と言えど日本の皆さんにも共感してもらえるとこがあるのではないでしょうか」

【STORY】
突然、母親を失ったオルガ(ユスティナ・スワラ)とその父(ヤヌシュ・ガヨス)。オルガは心身を病んでしまいちと屋に対して心を閉ざす。ヤヌシュは喪失感を拭えず、検察官として事件現場に立つも人の死に対して何も感じなくなっていった。オルガは父を、そして自らの体を嫌悪し、日々、やせ細っていく。父と娘の間には埋められない溝ができていた。そんな娘を見かねた父親がセラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)の元に通わせる。オルガはそこでリハビリを行っていくが、アンナのセラピーは、普通では考えられない方法だったー。
監督:マウゴシュカ・シュモフスカ/出演:ヤヌシュ・ガヨス、マヤ・オスタシェフスカ、ユスティナ・スワラほか
2015年/ポーランド/カラー/デジタル/ポーランド語/93分/原題:BODY/映倫区分:G指定
現在公開中
配給:シンカ 提供:東宝東和 宣伝:スキップ 後援:ポーランド文化広報センター
(C)Nowhere sp. z o.o., KinoŚwiat sp. z o. o., D 35 S. A., Mazowiecki Fundusz Filmowy 2015 all rights reserved. 

画像: 映画『君はひとりじゃない』 youtu.be

映画『君はひとりじゃない』

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