ライブ・コンサート向けの大規模かつ高品質な音響装置を使って、作品の持つ音の世界や可能性を極限まで探求し、高品質な大音量で映画を観て、聴く「爆音上映」は2004年、吉祥寺のバウスシアターで誕生した。爆音上映が常時可能な設備の整った劇場(ホーム)として企画を支えたバウスシアターは、2014年5月に閉館。しかし、「爆音」ならではの映画の楽しみ方がファンに支持され、東京・名古屋・大阪・京都・仙台など場所を変え、年々広がりを見せている。
画像: 『聖地』吉祥寺バウスシアター閉館後、残された“爆音映画祭”の行方―

聴覚から入った刺激が、視覚に影響する

「爆音映画祭」の主宰者である樋口泰人(ひぐち やすひと)は、元々バウスシアターに客として通っていた。映画上映だけではなく、ライブや演劇も行う多目的施設として街の中に存在していたバウスシアターは、表現者たちにとって門戸が広い自由な場。現在のシネコンのように、座席が決まっておらず、80年代当時はガラガラのときは横になって映画を見ることができたりもした。

90年代後半以降は次第に「映画館」として機能し始めたが、それでもまだ十分に開館当時の自由な空気が流れていた。そこから生まれたのが「爆音上映」だった。

きっかけは、「『羊たちの沈黙』を黒沢清さんが爆音で聴いたら、『聴こえない音がいっぱい聴こえた。映画の空気感がそこにあった』」と言っていたのを思い出したこと、そしてバウスシアターがライブ用の音響装置を所有しており、機材を扱える『人』がいたことだった。別々に話していたことが符合したとき、爆音上映を行う「場」として最上の場所と気付き、企画が生まれたのだ。

第1回目は、ニール・ヤングのライヴ・ドキュメンタリー「イヤー・オブ・ザ・ホース」、同じくニール・ヤングが音楽を担当した「デッドマン」、ダライ・ラマ14世の半生を描いた「クンドゥン」、パンク系のミュージシャンが大量に出演した異色のマカロニ・ウェスタン「ストレート・トゥ・ヘル」の4作を上映。中でも「クンドゥン」は、ダライ・ラマがお経を読む声の迫力におののき、さらに舞台となったモンゴル高原を賭けていく馬の蹄、戦い時に高まっていく鼓動などを感じることができた。全く違う映像として目の前に現れたことに驚き、「マーティン・スコセッシの頭の中に入ったよう」と感激した。

「聴覚から入った刺激が、視覚に影響すると知った。爆音で観ると自分の体が変わり、映画の見方も変わる。映画とは何かという疑問も生まれた」と振り返る。

画像: 「爆音映画祭」の主宰者である樋口泰人氏

「爆音映画祭」の主宰者である樋口泰人氏

お客さんと一緒に作品を育てることができた

「映画とは何か」。爆音上映を続けて行くにあたり、新しい目的を見つけた樋口は、自分が気になった映画を次々に上映していく。「バウスには機材も、真夜中までかかる機材の調整に付き合ってくれる、“面白がり”のスタッフもいた」。上映作品を決め、音調整のため映像と向き合うたびに、「こんな音が隠されていたのか!」とわくわくする。「みんなにも聴かせたい!」。ピンクフロイドの音楽が流れるサーフィン映画「クリスタル・ボイジャー」は、最初人の入りが悪かったが、「劇場が海になった!!」と口込みで客が増え、初年度は20人程度しか埋まっていなかった座席が、3年目には超満員になった。

「バウスでやっていたときは、人が来る映画ではなく、好きな作品をかけることができたので、お客さんと一緒に作品を育てることができた」。

1984年3月に開業したシアターは、建物の老朽化が進み、改修を余儀なくされたが建て替え後の経済的な展望が見えなかったことから閉館が決定。拠点を失った「爆音上映」は、新しい場を探すことになった。上映出来る「場」があっても、ライブのような爆音で使用できるスピーカーがない。音響装置があっても、機材を使いこなすことができる「人」がいないなど、ホーム探しは想像以上に困難だった。

最も難しいのが機材調達で、毎回開催が決まることは嬉しいが、繊細な機材を搬送するための経費などに悩まされている。客が集まっても利益に繋げるのは難しく続けていくためには、「自治体から助成金をもらったり、公共施設などで行われる催しの中に予定をしてもらえたり」と道のりは険しい。
「大音響でなければ聴こえてこない音で映像を観ることによって、視覚までもが変容して作品そのものが違って見えることを多くの映画ファンに伝えたい」。その熱意が樋口を動かしている。

画像: お客さんと一緒に作品を育てることができた

環境を整えれば、人は映画館に足を運ぶ

悲観してばかりもいられない。上映する場所の特色に合わせて作品を選ぶことを思いつき、機材がない広島では、ガレージロックや、パンク映画のドキュメンタリー、ホラー映画などをセレクト。繊細な音響設備ではなく、ざらざらとした音を鳴らした方が臨場感を味わえると発想の転換をし、マイナスを強みに変えた。

理想は音響環境が整った“ホーム”を再び持つこと。「バウスの様な拠点をまた持つことができれば、そこで得たものを、地方や海外での上映の際に活かすことができる」と意欲的だ。

昨今のシネコンでは、どこでも同じタイトルの映画を上映し、差別化を図ることが難しく、その分、競争も激しい中、9月に新宿ピカデリーで開いた爆音上映のイベントでは、170席分のチケットが2分で完売。その人気ぶりを聞いた樋口は、「プレッシャーだった」と苦笑いするが、「環境を整えれば、人は映画館に足を運ぶのだ」と自信になった。

「映画が持つポテンシャルの最大値を引き出すことができるのが爆音上映。観る側も、流されるままに追いかけて、作品を解釈するのではなく、いくつかのそれまでは気づかなかった音への気づきによって、観ることに対して能動的になる。何度も繰り返し観た映画も、爆音で体験するとそれまで観ていたものと全く違って見える」と魅力を語る。

「様々な権利問題などをクリアするのは大変だけれど、映画館で上映される映画が『通常上映』と『爆音上映』と選べるようになるといい。爆音での上映が未来に広がるように尽力して、『これを爆音で観たい!!』という欲望だけで、映画祭を開きたい」と展望を語った。        

文:西村 綾乃

各地での「爆音映画祭」開催予定

・丸の内ピカデリー爆音映画祭(東京) 会期:開催中~11/10(金)

・第4回新千歳空港国際アニメーション映画祭内、爆音上映(北海道) 会期:11/2(木)~11/5(日)

・爆音映画祭 in 109シネマズ名古屋(愛知)  会期:11/10(金)~11/12(日)

 ・爆音映画祭 in MOVIX京都(京都)       会期:11/17(金)~11/19(日)

・爆音映画祭 in MOVIX堺(大阪)         会期:11/23(木・祝)~11/26(日)

・爆音映画祭 in 松本(長野)                会期:12/1(金)~12/3(日)

・爆音上映 in パルテノン多摩vol.2(東京)       会期:12/15(金)、16(土)

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.