フランスの映画作家ジャック・タチはコメディーを撮らせれば唯一無二といっていい存在だった。特に“ぼくの伯父さん”のシリーズはいま見ても新鮮さ、斬新さを感じさせる。タチと“ぼくの伯父さん”のシリーズについて考えてみよう。
画像: ジャック・タチのコメディー「ぼくの伯父さん」の笑いとは一体なんなのか?

タチの代表作は「ぼくの伯父さん」

フランスにジャック・タチという映画作家がいた。チャップリンなどと同じように脚本・監督・主演をこなし、優秀なコメディアンでもあった。1940年代末から60年代にかけて活躍した人で、残念ながら1982年に73歳で亡くなっている。代表作といえば「ぼくの伯父さん」(1958)が挙げられるだろう。

「ぼくの伯父さん」は、プラスチック工場の社長の息子が母親の兄である伯父さんになつき、社長はそれをこころよく思わないが伯父さんと息子は仲良く遊びなかなか社長の思うようにならない、というストーリーの有って無いようなコメディーだ。

残念ながら手許にはカラー写真が一枚しかないのでそれ以外はモノクロを使うが、実際はカラーのきれいさも特筆に値する。そしていかにもフランス映画らしいエスプリに満ちた描写が続き、思わずクスリと笑ってしまう場面が次々現われる。

いかにも機械文明・物質主義に踊らされているような社長とその奥さんに対し、伯父さんはのんびりとして実に庶民的だ。息子は息のつまるような自分の家庭より、伯父さんのそんなところに惹かれているのだ。

画像: タチの代表作は「ぼくの伯父さん」

伯父さんはタチのお気に入りのキャラクター

社長と奥さんは伯父さんに身を固めさせようとしたり、定職を持たせようとプラスチック工場で働いてもらおうとしたりするが、いつも伯父さんはへまをして社長たちの作戦は失敗する。そのいちいちの描写が笑わせてくれるのだ。

タチはパントマイムを得意としているので、その動き自体が笑いを誘う。スラプスティックな笑いだ。また伯父さんのアパートは三階建てなのだが、三階の自分の部屋へ行くのに、伯父さんはほかの部屋を回って回ってようやくたどり着く。そういった構造的笑いも楽しめる。

日本では公開順が逆になったが、実はこの作品は「ぼくの伯父さんの休暇」(1952)の続編にあたり、その後も短編「ぼくの伯父さんの授業」(1967)「トラフィック」(1974)と、伯父さんを主人公にした作品をタチは撮り続けた。それだけ愛着のあるキャラクターなのだろう。

コメディーであると同時に、タチ流の文明批評でもあるこれらの作品は、おそらくこの時代だからこそ作られ得たといえる。第二次世界大戦後の高度成長で物資が豊かになり、フランスも徐々にアメリカナイズされていった時代。タチはそんな風潮に警鐘を鳴らしていたのかもしれない。

いまの時代には、こんな作品を撮る、いや撮れる映画作家はいるのだろうか。そう考えてしまうほど、ジャック・タチという人物は唯一無二の存在だったのではないか。
BSのシネフィルWOWOWが10月にジャック・タチの特集を組んだのも、彼のそんな部分を評価したからだろう。

©Les Films de Mon Oncle - Specta Films. C.E.P.E.C.

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