フランス人以上に、フランスのエスプリを映画作品に醸し出す、稀有な存在の諏訪敦彦監督。久々に手がけた新作が、『ライオンは今夜死ぬ』。名優VS子どもたちが生み出す映画づくりのドラマです。
あのジャン=ピエール・レオーを起用する意味とは? それが、監督自身の映画制作史上にもたらすものとは? これこそ、映画制作の根底を解明するような作品づくりへのチャレンジとも言えそうで……。思わず、観ないわけにはいかないと思わせる本作。
誰もが気づかなかった、実にわかりやすい方法で、このテーマに取り組んだことへの賛辞と感激を直接伝えたくて、監督のインタビューに臨みました。うかがえばうかがうほど、ユーモアと愛に溢れた映画作りに感じられてなりません。

髙野てるみ(たかのてるみ)
映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。
著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。
Facebookページ:http://www.facebook.com/terumi.takano.7

フランス映画界の至宝、ジャン=ピエール・レオーとのコラボが実現

画像1: © 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

© 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

ジャン=ピエール・レオーと言えば、トリュフォー、ゴダール監督お約束の秘蔵っ子俳優として知られる、フランス映画界の至宝。しかし、その宝物は今や神格化されたまま、ここ数年来、封印されていた感じもありました。

デビュー作品となり、世界的に知られるところとなった『大人は判ってくれない』(59)の不良少年を演じた子役からスタートし、その時演じたアントワーヌ・ドワネルとして、その後もいく度か、その成長、進化を見せながらシリーズとして映画に登場し続けてきた存在です。

その少年も現在70代を迎え、どのような姿で現れるのか、もう現れることはないのかと、期待が高まるばかりでした。そして、その期待に応えるかのように、レオーは動き出したのです。その折、本作では、そう来ましたか!と思わせるような諏訪監督の手腕は憎いばかりで、羨望のまなざしで作品を見つめました。

老境に立つ、名俳優として登場するレオーは、自身もこの映画によって、どう変化していくのか?興味は深々。

作品を観ていると、ミステリアスな喜びにも包まれ、我々が観ることで、レオー自身も蘇って行くような映画の運びが心地よいのです。

死ぬことを演じられない、老俳優を演じるレオーとの出会い

レオーが演じるのは、永く演技をしてきたが、死ぬことをうまく演じられなくて悩んでいる老俳優。かつて愛した女性、ジュリエットに先立たれ失意のままに残った人生を生きています。

ある時、彼女の思い出を残す廃墟のようになった南仏の館を訪れ、彼女を懐かしむうちに、彼女の幻と対峙することで、生きている自分を見出します。そんな彼を主演俳優として映画を作りたいという子供たちとの出会いも生まれ、館での映画制作が始まります。

果たして、この老俳優は子どもたちに心を開いていくのか、映画は完成するのか、ドラマの中で、「死とは出会いなんだ」と言う老俳優こそ、今、老境にあるレオー自身ではないのだろうか?

このような取り組みで完成した『ライオンは今夜死ぬ』は、ドキュメンタリーのように演出された、即興が生み出す、小さな奇跡に織りなされる映像の集大成。レオーの残された人生の定点観測であり、ジグゾー・パズルのような作品です。

一コマ、一コマ目が離せなくて、ワクワクさせられ、幸せな気持ちが高まります。

──レオーは2016年に、これまでの功労に対してカンヌ映画祭で名誉パルム・ドールを受賞しましたが、この作品を撮るきっかけになったりしましたか?

「そういうわけではないですね。それより、ずっと以前に、フランスのナントの近くの、ラ・ロシュ・シュル・ヨンという小さな町の映画祭で、私と彼の特集上映がたまたまプログラムされていて、彼が私の作品に興味を持ってくれたので、何かしらの形で、彼で映画を撮りたいと思い続けていました。
もちろん、彼は僕にとって映画を観はじめた頃から知っている特別な存在であり、ある意味でヒーローでしたが、現実の彼と対面した時にやはりこの人を撮ってみたいと率直に思いました。
カンヌでの受賞スピーチの冒頭で、『私はここ(カンヌ)で生まれました……』と宣言しましたけど、カンヌ映画祭は彼の人生のスタートなんですね。どこまでいっても、特別な人なんです、彼は」

子どもたちに映画作りをさせてきた経験を活かして

──子どもたちに映画作りをさせるというチャレンジも、以前からされていたのでしょうか?

「2010年頃、小学生に映画を作らせるというワークショップの講師として招かれたのがきっかけで、何回か経験しています。昨年の東京国際映画祭では、初めて中学生を対象にワークショップを行いました。
今回子どもたちにシナリオを書かせて、レオーの映画を作らせてみようと思ったのもそういった体験からですね。それにしても、なんだか存在が謎なんですよね。彼って(笑)。
今回出演した7歳の女の子に言わせると、大人なのに、子どもみたいな変なおじさんだって言ってました(笑)。要は大人目線で子どもと接しないから、普通の大人じゃないってことなんですよ、レオーは」

──監督の映画づくりは今まで、シナリオがないことがほとんどであったはずですが、今回はシナリオがあったんですね? 子どもたちが作ったから。

「シナリオはあります。子どもたちの作る映画は彼らが書いたし、全体は私が書きました。ただ、どちらにもセリフは書かれていません。
レオーは、最初は即興でもなんでもできるよって言っていましたが、いざとなったら、即興ってあまりやったことがないと言うんです。ゴダールとか監督たちは、即興で演出をしたけれど、俳優が即興をしたわけではないんだと。子どもたちとのシーンは仕方ないけれど、ジュリエットとのシーンはセリフを書いて欲しいと言う。
ちょっと困ったのですが、雑談の中で彼の父親が劇作家であったという話が出てきた。父親の作品がオデオン座で公演された時に、一度だけ見に行ったことがあるそうです。彼の両親の様子をそのまま物語にしたような話だったそうですが、その時の戯曲を見せてもらうことが出来て、美しいセリフだったので、そのままそれを引用してジュリエットとのセリフを作りました。彼、とても喜んだと思います」

子どもたちがもたらした、レオーの笑顔の秘密

──名俳優と子どもたちでの映画づくりはどのようなものだったでしょう?

「映画づくりを通して老人と子供たちの微笑ましい交流が生まれる、というようなイメージからは遠く離れたものでした(笑)。撮影は子どもたちが計画して、子どもたちの段取りで進んでいくので、僕たちはそれを追いかけて撮っているだけです。演出も子供たちが考えてジャン=ピエールに伝えるんですけれど、なぜか彼はそれが出来ない、全然言う通りにしない。理由はわかりませんが(笑)。
だから期待されるような交流というものは起きていないんですが、振り返ってみると、やはり今までの彼にはないレオーが現れた瞬間があって、子供と一緒にスープを飲んでい時の表情であったり、そういう時に見せる笑顔は、かつての彼の映画の中で登場したことのないものなんです。フランス人スタッフからも、『こんなレオーは見たことがない』と言われました」

──それこそが、大成功なのでは?

「感動的だったと思います。それは子どもたちが起こしたことなんですね、きっと。子どもたちを可愛いと思って生れた笑顔とか表情ではなくて、いつも、名優だとされ大きなプレッシャーの中にいる人で、常に、「ジャン=ピエール・レオー」を守ろうとしているわけで、そこに、やはり何か変化が起きた。映画のシーンにもあるように、子供に、やいやい言われて、くそじじいなんて呼ばれたり、リンゴを投げつけたりして、やり合ったプロセスの中で何かが彼を変えたのです」

素晴らしい!映画作りにおいて生まれることって、こういう小さな奇跡がたくさん!

映画に生きる名優を生み出すのも映画の力なら、名優と謳われる人が、その鎧を身につけ続けることも決して楽なことだけではないという、そんな凝り固まった人生から解放してくれるのも映画の力。子どもたちと諏訪監督の映画への愛が功を奏したようです。

「映画言語」でフランス映画を作り続けたい諏訪監督

今回子どもたちによって自らも「映画」へのこだわりに、今までにない広がりや解放感を味わうことが出来たと語る諏訪監督、。理屈なくライオンが登場するという大胆なシーンを思いついたのも、子どもたちとのやりとりから、やっちゃおう1という乗りでやってしまえた、と嬉しそうに語ります。

そうそう、ライオンと言えば、本作の『ライオンは今夜死ぬ』というタイトルは、エンドクレジットにも流れる有名な61年全米大ヒット曲、『ライオンは寝ている』(61)のフランス版で、アンリ・サルヴァドールがヒットさせた「Le lion est mort ce soir」からだそう。フランスでは、この曲はライオンは「死ぬ」ということになっているんですね。

ちなみに、本作の英語タイトルは、『The lion sleep tonight』で、死んではいなくて、寝ている方にしているとのこと。いやいや、さまざまなこだわりや思い入れが埋め込まれるのが映画というもの。深いです。

その映画作り、諏訪監督は次回以降も、やはりフランスで作ることになるだろうと言います。制作上の制約の許容範囲が広いこと、そして何よりも言語が違っていても、「映画言語」が通じやすい、よって仕事は断然しやすいんだとか。

『映画言語』を巧みに交わしながらの諏訪監督の次なる試みも楽しみです。

『ライオンは今夜死ぬ』1月20日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

監督 諏訪敦彦
出演 ジャン=ピエール・レオー、ポーリース・エチエンヌ、イザベル・ベンガルデン、子どもたちほか。
2017年/フランス=日本/103分/カラー
配給・宣伝 ビターズ・エンド
© 2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

画像: 『ライオンは今夜死ぬ』予告編 youtu.be

『ライオンは今夜死ぬ』予告編

youtu.be
コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.