過去、アンジェイ・ワイダ監督に代表される骨太、しかし、どこか幻想的な雰囲気を感じさせてやまない東欧ポーランドの映画。今回、久々にお目にかかれると知って、心動かされました。ポーランド・ニューシネマなるものの登場なのか?
タイトルも、『ゆれる人魚』。ホラー・ファンタジーと銘打ってのお出ましですから、恐そうにも感じるし、でもそれだけではないはず、という期待も抱かせました。
何しろ、『トリコロール(三部作)』(93、94)で世界的に大注目され、惜しくもこの世を去った後も、ファンが未だ絶えない名監督クシシュトフ・キェシロフスキの名前を冠した映画学校出身の新人監督の長編処女作。国内外の映画祭にノミネートされるや、国内はもとより、世界の各所で高い評価を得て受賞が続きます。
旬も旬の、アグニェシュカ・スモチンスカ監督にインタビューしました。
画像1: © 2015WFDIF, TELEWIZJA POLSKA S.A, PLATIGE IMAGE

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以前にこのシリーズで、インタビューしてご紹介しました、アンヌ・フォンテーヌ監督。彼女の最新作『夜明けの祈り』(17)にも出演していたポーランド人女優のマルタ・マズレクが、主役の二人の“人魚姉妹”の姉役で大きく起用されていることにも、興味は膨らみました。

髙野てるみ(たかのてるみ)
映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。
著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。
Facebookページ:http://www.facebook.com/terumi.takano.7

こだわりは、80年代ダンシング・レストラン

話は、奇想天外と言えばそれまでですが、ホメーロスの人魚伝説を、80年代の西側世界への憧れも漂わす、東欧で盛んであったといわれるダンシング・レストラン文化の中に置き換えます。

そこは東欧、ポーランドが持つ退廃的かつエネルギッシュでもある男と女、酒と音楽と踊りが入り混じる独特な社交の場。

アンデルセンから大きく遡り、ギリシャ神話に登場するセイレーンは、人の肉を喰らう半人半魚の怪物。美しい乙女の姿で人間を惑わすも、その人間に惑わされ、ひとたびその世界に浸れば、水疱となって命は絶えるという、はかない存在です。

あるダンシング・レストランに新しいスターとして迎えられたのは、なんと人魚の姉妹。歌って踊る二人は一躍有名に。そのパフォーマンスは集まる男女に日々の現実から逃避させるかのような甘い幻想をもたらし、憧れの的となっていた。しかしバンドメンバーの若いベーシストの男と妹が恋に落ち、事態は悲劇的な方向へと展開していく。

西欧との距離を意識した独特な映像とサウンド。人魚の姿のつくり方の嘘とリアル。そのオリジナルな作品は、長編初監督とは思えない仕上がりで、サンダンス映画祭での受賞も果たしました。

世界中の映画祭での評価は、キェシロフスキ監督の影響から

──長編第一作目にして、サンダンスをはじめ、世界中のたくさんの映画祭での賞を受賞し高い評価を得ましたが、当初から自信はあったのでしょうか?

「作ることで精一杯で、賞を狙うなんて気持ちはまったくなかったです。受賞は素直にうれしいです。
なにしろ、この映画の企画を持ち込んだ時は、ポーランドのほとんどのプロデューサーたちから、作ることは不可能だと言われていたのですから(笑)。ポーランドの普遍的要素は今の世界には通用しないんだと。だから、多くの受賞は我々の勝利、その証し。そういう意味でも嬉しいです。受賞後は、次の企画はぜひやらせてと、今まで否定していたプロデューサーが次々と急転直下、良い方向へ(笑)」

──当初否定されまくったダンシング・レストラン文化へのこだわりとは?

「私の母親が、ダンシング・レストランを経営していて、私はバック・ステージで育った女の子なんです。いつもその喧騒と聴こえてくる音楽に胸躍らせていた子供でした。ロックやパンクに傾倒していた時期も長くあり、歌手になりたかったけれど、歌うことが下手で、監督の道へ進みました」

──クシシュトフ・キェシロフスキ映画学校で学び、卒業されたとか? この監督の影響はありますか?

「キェシロフスキ監督が、そこの大学で教鞭を取っていて、亡くなった後に彼を讃える意味での名前を冠することになりました。シレジア大学の映像学部にあります。中学生の頃から、彼の作品に触れ、全ての作品をよく知っています。直接習えなくて残念ですが、監督という仕事に向き合い生きた彼の姿勢を知ることが出来、それは自分にとって欠かせないものになりました。彼という存在がなければ今回も映画は完成しなかったと思います」

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ポーランドらしさ、自分らしさは音楽が重要

──作品を観ていると、西欧との距離をとても意識していて、そこにポーランドの独自性も滲み、新鮮でしたが。
   
「ポーランドの映画作家である、というアイデンティティーは自分にとって非常に重要なもの。やはり、ポーランドの文化やフィルムメイカー達の遺産があるからこそ、自分がある。本作もある意味では、とてもポーランド的です。そういう意味では、本作の音楽の担当に起用した、バルバラとズザンナのブロンスカ姉妹の音楽もポーランドの独自性を感じさせると思います。彼女たちも、ダンシング・レストランに育った子供時代を送っているので。当初は二人の音楽世界のドキュメンタリーを作るつもりでした」

──次回作にデーヴィッド・ボウイの曲を生かすという構想が、もうすでにあるそうですが、音楽へのこだわりが、これからも映画づくりに欠かせないものなんですね?
  
「映画学校では音楽の重要性も学びました。古典的なメロディーだけでなく、サウンド・デザインに至るまで、音を大事な要素として考えます。今では、映像に音楽をつけるのではなく、まず先に、作品にぴったりの音楽を見つけて、音楽を直感的に追いかけていけば、良い映画ができると思えるほど、音楽は私にとって重要です」

思えば、本作は、ホラーとか、ファンタジーという以前に、ミュージカル映画でもあるのでした。
かつて、名作『オペラ座の怪人』をパンク・ロック風味のミュージカルものにして、『ファントム・オブ・パラダイス』(74)を生み出したブライアン・デ・パルマ監督。そのことに想いを馳せてしまったことをスモチンスカ監督に伝えましたが、恐くても美しい物語『人魚姫』を、ワーグナーからパンクまで、東欧風味にサウンド・デザインした音楽で満たしたと言えるのが、『ゆれる人魚』というミュージカル映画なのだ! そう思えてなりません。

「本作では、息づかいや鼓動もサウンド・デザインに取り入れているつもり」と言う監督でしたが、彼女が、これからポーランド・ニューシネマを牽引していく、そんな確かな手ごたえを感じさせてもくれました。これからの可能性を秘め、美しくも神秘的な魅力に溢れていた女性です。

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『ゆれる人魚』2月10日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
監督/アグニェシュカ・スモチンスカ
出演/キンガ・プレイス、ミハリーナ・オルシャンスカ、マルタ・マズレク、ヤーコブ・ジェルシャルほか
提供/ハピネット
配給/コピアポア・フィルム
2015年/ポーランド/92分/カラー
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画像: ゆれる人魚 予告編 R youtu.be

ゆれる人魚 予告編 R

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