若手花形歌舞伎俳優の目覚ましい活躍に注目が集まった2021年。立役(男性の役)として活躍する中村歌昇と、女方(女性の役)での活躍目覚ましい尾上右近の二人に話を聞いた。同世代の歌舞伎俳優が、普段はお互いに言葉に出して話す機会がない互いへの思いや、久しぶりの共演を通して抱いた胸の内、そして12月に上演される「十二月大歌舞伎」の見どころ等について語ってくれた。二人の言葉から浮き彫りになる、人気若手歌舞伎俳優の魅力に迫る。
撮影/加藤 岳 文/八杉裕美子

――お二人は「吉例顔見世大歌舞伎」で久しぶりに共演をされました。

中村歌昇(以下、歌昇)11月の「吉例顔見世大歌舞伎」が始まる前から右近くんと話していた
のですが、二人で共演するのはすごく久しぶりでした。それより前の共演がいつだったのかをすぐに思い出せないぐらい一緒に出るのは本当に久しぶりです。その間、お互いが何をやっているかはだいたい知っていますけど、(右近さんの方を向いて)大活躍なので本当にすごいなと(笑)」

尾上右近(以下、右近)「ありがとうございます(笑)」

歌昇「だから個人的には11月はとてもうれしかったです。市川猿之助のお兄さんと一緒に出させていただくのも3、4年ぶりでした。忠臣蔵というこてこての歌舞伎を右近くんと一緒にやれるのはうれしかったですね。右近くんはどうですか?」

右近「僕は浅草歌舞伎や、若手中心の公演で歌昇さんが周りを引っ張っていらっしゃる姿を見てきた側でした。地方公演でご一緒する機会はあったのですが、同じ作品で共演するのはものすごく久しぶりでした。歌昇さんはずっと芯に立つようなお役をなさっているので、共演してみて本当に経験値の差を感じました。11月の『花競忠臣顔見勢』は稽古段階から一から作るようなお芝居で、うまみを凝縮した圧力鍋のような忠臣蔵でした。その中で自分たちがきちんと素材となって活躍するためには、普段どのように歌舞伎と接しているかが大事だと(中村)隼人くんや僕のような同年代の若手は感じていました。歌昇さんは、同世代とはいえ、3つ年が上の先輩が大きなお役を重ねてこられた経験値の高さをお稽古段階からまざまざと感じました。緊張感はもちろんありましたが、近しいけれども先を行ってらっしゃる先輩と、自分がいただいた大きいお役で肚と肚でぶつかって、気持ちを込めてお客様の前でお芝居をすることができるのが本当にうれしかったです。舞台でウルッときたのを必死にこらえていました。初日の終演後に歌昇さんが先輩であるにもかかわらず連絡をくださったのですが、その時にも僕からは歌昇さんと一緒にお芝居ができるのがうれしいとお伝えしました。歌昇さんが毎日、さまざまな方向性でお芝居に挑まれている姿を目の当たりしながら、自分も付いていくという思いでやらせていただきました」

歌昇「絶対思ってない(笑)」

右近「思っていますよ!(声を張りながら)」

歌昇「こんなにつらつらしゃべる時は絶対に思ってない(笑)」

右近「思ってなきゃ言えませんよ! 歌昇さん、笑っちゃってるじゃないですか(笑)」

歌昇「今の右近くんの話を聞いて、僕はまず自分を先輩だとはあまり思っていないんです。この二人では年もあまり変わらず、先輩とか後輩とかはなくてフラットな関係だと思っています。舞台に上がれば先輩だとかは関係ないですから、11月の舞台稽古の時も初日もお互いに言っていたのは、“気を使わないで遠慮なしに思いきりやろう”と。“どんどんやりたいことあったら言って。僕もやりたいことがあったらお願いすることもあると思うから”と伝えていました。僕たちの世代で、ましてや歌舞伎座で一緒に出演できるのは本当にうれしいことだと思いながらやっていました。さっきの右近くんのコメントは半分嘘です(笑)。ペラペラしゃべる時はたいてい嘘ですから(笑)」

画像1: 中村歌昇

中村歌昇

――右近さんはまっすぐな瞳で話されていましたけど(笑)

右近「はい」

歌昇「いや、(瞳が)濁っていましたよ(笑)」

――歌昇さんはお優しいから照れ隠しでそうおっしゃっているのでしょうね。

右近「それはもう照れ隠しでしょう!」

歌昇「普段、右近くんとは一緒に演じることがあまりなかったので、舞台に上がってみないと分からないこともあります。それにどれだけお稽古場で一生懸命やっていても、舞台に上がると雰囲気や、においが違うんです。それを感じて、僕もたくさん刺激をもらいながらやらせてもらいました」

右近「本当におっしゃる通りです。毎日、本当になかなかの緊張感でした。特にあのシーンは(※編集部注:歌昇さんが大星由良之助、右近さんが葉泉院を演じた第四場芸州候下屋敷の場)」

画像1: 尾上右近

尾上右近

歌昇「嘘だよ(笑)。緊張なんて絶対してなかったでしょ?」

右近「大変な緊張ですよ!」

――歌昇さんは緊張なさらなかったのですか?

歌昇「緊張は微塵もしていなかったです」

右近「え! 緊張していなかったんですか……。聞かなきゃよかったな……」

歌昇「(爆笑)。いや、普段からあまり緊張しないんですよ。それは僕があまりいろんなことを考えてないからだと思うんですけれど。でも、右近くんは緊張しているようには全く見えないし、いつも堂々とやっているので、そういうところはすごいなと思います」

右近「緊張しているように見えないとは言われるのですが、実際にはとても緊張していました」

――そして、11月の「吉例顔見世大歌舞伎」に続いて、歌舞伎座の舞台で12月の「十二月大歌舞伎」でも共演されます。

歌昇「本当にこんなこともまずないですよね。新型コロナの対策で、部で一緒にならない方とは楽屋でも劇場でも会うことがないので、こうして2カ月続けて一緒の作品に出させてもらえるのは、とてもうれしいです。11月は(松本)幸四郎のお兄さんと猿之助のお兄さんが一歩引いてくださって僕らを盛り立ててくださいましたし、12月は(中村)勘九郎のお兄さんと(尾上)菊之助のお兄さんのお芝居の中に参加するというのはまた意味合いが全く変わってくると思いますので、そういった中で自分たちがどれだけ作品に彩をプラスできるかだと思っています。『ぢいさんばあさん』の若夫婦の役は見ていると、自分がやったら恥ずかしいなと思ってしまうところがあって……。右近くんは恥ずかしいとか全然関係なくできそうだよね?」

画像2: 中村歌昇

中村歌昇

右近「それは性格の違いかもしれないですね。僕は『ぢいさんばあさん』でやらせていただく宮重久弥のような若侍のお役はあまり経験がありません。僕は若いお役をやる時は立役より女方の方が多いので新鮮です。相手(久弥妻きく)は同年代の(中村)鶴松くんですし、若い立役を演じられるのは楽しみです。お互い手を取るのも恥ずかしいような夫婦のすごく爽やかで初々しい雰囲気をお客様に感じていただけると、伊織とるんの二人の夫婦が年老いてぢいさんとばあさんになってしまったという対比を見せられると思うので、そのためにどれだけ初々しくできるかが重要だと考えています。役者として恥ずかしい気持ちはあると思うんですけれど、その恥ずかしさと初々しさがうまい具合に重なったら良い感じになるのではないかと思っています」

歌昇「そして、右近くんは『男女道成寺』にも出るんだよね。いやー、いいね」

右近「責任重大ですが、もちろんうれしいです。そして、こんな風に先輩が素直に“いいね”って言ってくださることもうれしいです」

歌昇「いや、素直に言ってないよ(笑)」

右近「本当ですか」

歌昇「それはジェラるよ! それはジェラる!」

右近「(爆笑)。それもうれしいです! ジェラってる人はジェラってるって口に出して言わないですから」

歌昇「そう?」

右近「だから、うれしいですよ」

歌昇「(右近さんが男女道成寺に出演することは)本当にすごいことだなと思います。うらやましい気持ちもありますが、やはり頑張ってほしいなって思っています」

右近「僕も最初にこのお話を伺った時はびっくりしました。勘九郎のお兄さんは近しい親戚で再従兄弟という関係で、初舞台も中村屋の舞台に出させていただきました。それから本名の岡村研佑で5年ぐらい舞台に出させていただき、その大半は中村屋の舞台に出させていただいたんです。その後に血筋の意味でも、清元という環境にいる上でも、師匠である尾上菊五郎のおじさまが僕を預かってくださることになりまして、尾上右近というお名前をいただいたんです。それから中村屋の舞台からはご縁が遠のいてしまいまして、近くて遠い中村屋だったんです。(中村)七之助のお兄さんとは『風の谷のナウシカ』でご一緒させていただいたりしたんですけれども、勘九郎のお兄さんとはほとんど共演がなかったので。今回のように共演させていただくというのは、尾上右近を襲名して以来、初めてのことでもう17年ぶりなんです。その様な意味でもいろんな思いがあるので、この配役を伺った時は震えました。でも、同年代でやりたい、うらやましいと思っている役者もいると思いますので、“やらせてもらえてうれしいな”だけではなくて、同年代の役者の思いも受け止めて、また、楽しみにしてくださっているお客様への感謝の気持ちをみなぎらせて、自分ができる限りのことをやりたいと思っています」

画像2: 尾上右近

尾上右近

――これまで歌舞伎を観たことがない方に歌舞伎の観方や魅力、ご覧になる際のおすすめのポイントを教えていただけますか。

歌昇「歌舞伎は人それぞれ、いろんな楽しみ方ができると思うんですよ。これは演じている側の人間だから言えてしまうのかもしれないですが、歌舞伎に難しいことなんて何一つないんです(笑)。本当に!」

右近「ははは(笑)」

歌昇「難しいというのは先行しているイメージだけだと思うんです。“やっぱり難しいお話なんじゃないか”、“話している言葉が分からないんじゃないか”というお考えもあると思うんですけれど、歌舞伎も結局は人が芝居を通じて人を演じているわけです。登場人物それぞれに感情があって、その感情というのは誰もが持っているものですので、他の演劇と何も変わらないと思います。歌舞伎の見どころとしては、職人が集結して作っているということですね。大道具、小道具、床山さん、衣裳さん等々、いずれも歌舞伎に欠かせないものです。役者だけではなくて、それらすべてが集合体となって歌舞伎なんです。お客様に、その中で何かひとつは引っかかるものがあると思っています。“衣裳がきれい”でもいいですし、“この役者さん、素敵だな”でもいいですし、“この大道具の背景が美しい”でもいいですし、“音楽が素敵だな”でもいいと思います。難しいと思って構えていらっしゃると、“やっぱり結果、難しかったな”と感じられるかもしれません。まず、その難しいというイメージを取っ払わなくてはいけないなというのは、僕たちも感じていることです。どうしても歌舞伎は難しいというイメージがつきがちですから。もうひとつ挙げると、僕らはありがたいことにほぼ毎月歌舞伎公演に出演させていただいています。その点で、他に類を見ないほど(舞台での)経験を積ませていただいています。11月の公演は若手がバチバチやるからそれがとても面白かったと思いますが、その一方で大先輩の方々の円熟された舞台を楽しむこともできます。12月の「十二月大歌舞伎」は、一部は絶対に楽しいし、二部は観やすくて分かりやすくて楽しいし、三部は誰が観てもきれいだなと感じると思います。僕たちが内部にいるからかもしれませんが・・・、本当に全部見たい演目ばかりです。初めて歌舞伎をご覧になる方にも感じ取っていただきやすい演目ばかりだと思います!」

――「十二月大歌舞伎」は初めて歌舞伎をご覧になる方には良い機会ですね。

右近「歌昇さんがほとんどおっしゃってくださったんですけれど、本当に全部観たいです。今がチャンスだと思います! そして僕は、若い俳優は、お客様に身近に感じていただけることが特権だと思っているので、初めは何かのきっかけで興味を持ってくださった俳優に会いに来るぐらいの気持ちでお越しいただけたらうれしいです。歌昇さんがおっしゃったように、歌舞伎は総合芸術なので、何度かご覧になるうちに、お客様によってどこに引っかかるかは分からないですが、その方だけの楽しみ方が見つかると思います。最初は“歌舞伎を観に行こう”というよりも、“あの人(俳優)を見に行こう”という感覚でお越しいただけたら。ですので、“どうか好きになってください。中村歌昇と尾上右近を好きになってください! そして、会いに来てください!”と伝えたいです」

歌昇「ちょっと巻き込まないでくれる?(笑)」

「十二月大歌舞伎」

12月1日(水)~26日(日)
劇場:歌舞伎座
第二部:午後2時30分開演
一、男女道成寺(めおとどうじょうじ)
二、ぢいさんばあさん

製作:松竹

十二月大歌舞伎

PROFILE

画像: 右:中村歌昇、左:尾上右近

右:中村歌昇、左:尾上右近

中村歌昇 NAKAMURA KASHO
1989年5月6日生まれ、東京都出身。
〈近年の歌舞伎以外の主な出演作〉
ドラマ「下町ロケット」(2015年)
ドラマ「JAM -the drama-」(2021年)

尾上右近 ONOE UKON
1992年5月28日生まれ、東京都出身。
〈近年の歌舞伎以外の主な出演作〉
大河ドラマ「青天を衝け」(2021年)
ミュージカル『衛生』~リズム&バキューム(2021年)
映画『燃えよ剣』(2021年)
〈待機作〉
舞台「Japan Musical Festival 2022」(2022年1月28日)
舞台「ジャージー・ボーイズ」(2022年秋)

This article is a sponsored article by
''.