最新作「ブレードランナー2049」のヒットで、ハリソン・フォードがまたファンの注目を集めています。1970年代から活躍している彼はいったいどんな人なのかをあらためて探ってみましょう。(文・清藤秀人)

ハリソン・フォード PROFILE
1942年7月13日、アメリカ、イリノイ州シカゴ生まれ。1966年に「現金作戦」で映画デビュー。その後、ユニバーサルと契約するが芽が出ず、大工として生計を立てながらチャンスを模索していたところ、大工仕事を介して知り合った映画プロデューサーの紹介で「アメリカン・グラフィティ」(73)に出演。同作でジョージ・ルーカスの信頼を得て「スター・ウォーズ」(77)のハン・ソロ役を手に入れる。ハン・ソロ役と「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」(81)のインディ・ジョーンズ役で両シリーズの看板スターとなり、人気を不動のものにする。同時に、「刑事ジョン・ブック/目撃者」(85)で初のアカデミー賞主演男優賞候補になる等、演技力も証明。以来、ラブロマンス、サスペンス、コメディと幅広くジャンルをカバーする傍ら、シリーズ再開の「スター・ウォーズ」や35年ぶりの続編「ブレードランナー2049」で75歳の今も現役スターとして輝き続ける。

01:マネー・メイキング・スター!

画像1: ©Nicholas Hunt/Getty Images

©Nicholas Hunt/Getty Images

昨年1月、映画興収の集計サイト、Box Office Mojoが興味深いデータを発表した。映画史上最も高い興収を挙げたスターは誰か?という分類で、栄えある第1位に輝いたのは、予想通りハリソン・フォードだった。集計されたのが「スター・ウォーズ╱フォースの覚醒」(15)が「アバター」(09)を抜いて歴代北米興収のトップを奪取した直後だったから、まあ当然の結果ではあったけれど。ハリソン(そう呼ばせて頂く)がこれまでに出演した全41作品(昨年1月時点)の全興収は、ナント、47億540万ドル(約5646億円)。膨大な製作費が話題になった「タイタニック」が20本作れる額と言えば実感してもらえるだろうか?

残念ながら「スター・ウォーズ」シリーズへの出演は「フォースの覚醒」が最後になる(あくまでも)見込みだが、2020年7月の全米公開がフィックスされている副題はまだ未定の「インディ・ジョーズ」最新作(監督は勿論スピルバーグ)への主演も決定しているから、この数字がさらに上積みされることは必至だ。勿論、興収面での成否が話題になった「ブレードランナー2049」も、幾許か、これに含まれる。

02:趣味の域を超えてパイロット

画像2: ©Nicholas Hunt/Getty Images

©Nicholas Hunt/Getty Images

無名時代、ハリソンは大工の収入で妻子を養えるほどの職人だった。当時、女優のサリー・ケラーマンの依頼でサンデッキを作ったり、ミュージシャン、セルジオ・メンデスのために録音スタジオを建てたくらいだから。また、彼がパイロットとして一流なのは様々なニュースでご存知のはず。飛行機、グライダー等の固定翼航空機とヘリコプターの操縦ライセンスを持ち、サンタモニカ空港には愛用のヘリ、Bell 407が常時駐機されていて、800エーカーの農場を所有するワイオミング州ジャクソンホールとの間を頻繁に往復。2000年7月13日(まさに彼の58歳の誕生日)には、アイダホのテーブルマウンテンでハイキング中、脱水症状と高山病を併発したハイカーをヘリで救助したことも。その際、助けられた女性ハイカーは救助者がハリソンとは気づかず、思わず彼が差し出したカウボーイハットの中にゲロしたことをマジで後悔したとか。そりゃあそうだろう。

勿論、飛行機の操縦に危険は付きもの。1999年10月には自ら操縦中のヘリが墜落し、2015年3月には小型飛行機諸共L.A.近郊のゴルフ場に緊急着陸し、重傷を負うが、順調に回復し、生還。映画同様、不死身ぶりを証明してみせた。

03:オールジャンルのスター

画像3: ©Nicholas Hunt/Getty Images

©Nicholas Hunt/Getty Images

その俳優人生に於いて画期的な2本のマイルストーン・フランチャイズ、「スター・ウォーズ」と「インディ・ジョーンズ」、そして、恐らく本年度の賞レースを賑わすことになる「ブレードランナー2049」では、SFファンタジー&アクションという2大ジャンルを極めたハリソン。「ブレードランナー」(82)のリック・デッカード役ではその演技と表情によってハードボイルドなムードを発散し、メディアは1980年代の彼を“ハンフリー・ボガートの再来”と評したりもした。だからその後、「麗しのサブリナ」(54)のリメイク「サブリナ」(95)でボギーが演じたライナス・ララビー役を彼が引き継いだのは理に適っていたわけだ。

女優と共演して相手を引き立て、結果誰よりも自分が引き立つ技は、「サブリナ」の他にも「ワーキング・ガール」(88)、「刑事ジョン・ブック/目撃者」、「6デイズ╱7ナイツ」(98)等、ラブロマンス、フェミニズム映画、犯罪サスペンス、アクションコメディとジャンルを問わず確実に発揮。正統派アクションの持ち場に戻って、無骨に寡黙に危機を乗り越えていく「パトリオット・ゲーム」(92)のジャック・ライアンや、「エアフォース・ワン」(97)のアメリカ大統領役が板に付いているのは言うまでもない。

04:賞には無縁、でも…

画像4: ©Nicholas Hunt/Getty Images

©Nicholas Hunt/Getty Images

実に半世紀にも及ぶ俳優キャリアで、ハリソンがオスカー候補に挙がったのは第58回の「刑事ジョン・ブック/目撃者」の時だけ。その年は「蜘蛛女のキス」のウィリアム・ハートに持って行かれた。オスカーよりは獲り易そうなゴールデングローブ賞ですら、「刑事ジョン・ブック」「モスキート・コースト」(86)「逃亡者」(93)「サブリナ」と4回候補になりながら、受賞はゼロ。

目立った受賞歴と言えるのはSF╱ファンタジー╱ホラー映画対象のサターン賞(「レイダース」「フォースの覚醒」それに功労賞)と、ゴールデングローブとAFIの功労賞ぐらいだろうか。

でも、不運は幸運と隣り合わせ。賞に見放されたおかげで、彼は急激なギャラの高騰でプロデューサー連から敬遠されることも、オスカージンクスにハマって演技者として飽きられることも、バーンアウトすることもなく、今なお売れっ子のベテラン俳優として看板を張っていられるのだから。

05:ボク監督しない人

画像5: ©Nicholas Hunt/Getty Images

©Nicholas Hunt/Getty Images

ロバート・デニーロ、ダスティン・ホフマン、ジャック・ニコルソンと、同業のベテランたちが監督に挑戦する中、ハリソンはそんな状況を横目で見ながら、頑としてディレクターチェアにだけは座らないでいる。

自らがソ連の原子力潜水艦艦長を演じた「K-19」(02)や、難病に効く妙薬を開発したビジネスマンの実話を映画化した「小さな命が呼ぶとき」(10)には製作総指揮として関わっているけれど。そこには彼の俳優哲学があるようだ。常日頃、「映画は出演することで学ぶもの。自分にとって俳優はビジネス」とクールに言い放つハリソンにとって、監督業は恐らく興味の範疇外なのだろう。何よりも、彼の回りにはルーカス、スピルバーグ、リドリー・スコットと、俳優として100%身を委ねられる天才監督たちがいっぱいいるのだ。その分、演技の土台になる脚本には徹底して口出しするし、出演を依頼された作品の内容が自分の価値観に合わないと、どんな話題作でも迷わず蹴る。それが、今なお朽ち果てないアクションスター、ハリソン・フォードのイメージ保持に繫がっているのだ。

This article is a sponsored article by
''.