黒澤明監督と並んで、国際的にもリスペクトされ続けている三船敏郎という俳優。彼を浮き彫りにしたドキュメンタリー映画が、『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』と銘打って制作・完成。ベネチア映画祭をはじめ、世界中の映画祭で上映され高い評価を得た後、日本でもいよいよ劇場公開となります。本作を監督したスティーヴン・オカザキ監督からお話をうかがいました。

髙野てるみ(たかのてるみ)
映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。
著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。
Facebookページ:http://www.facebook.com/terumi.takano.7

世界中の多くの映画人に、今も大きな影響を与え続けている黒澤明監督。その映画の立役者と言えば、没後20年を迎える三船敏郎その人です。黒澤映画14本に出演を果たしています。監督と共に世界的存在になったのも、自明の理です。

黒澤監督の立役者のみならず、多才だった三船

『羅生門』(51)『七人の侍』(54)『蜘蛛巣城』(57)で並外れた才能を発揮し、『用心棒』(61)『赤ひげ』(65)では、立て続けにベネチア映画祭で主演男優賞を受賞。黒澤監督と並ぶ日本映画界の至宝と言って過言ではありません。

画像1: 黒澤監督の立役者のみならず、多才だった三船

彼のカリスマ・スターとしての存在は、後進の憧れであり、国内にとどまらず、ハリウッドの監督やスターたちにとってのレジェンドとして不滅のものとなっています。

イヴ・モンタン、ジェームズ・ガーナーらと共演した『グラン・プリ』(67)、アラン・ドロン、チャールズ・ブロンソンらと共演した『レッド・サン』(71)など国際俳優としての活躍、また俳優のみならず、自ら映画の製作プロダクションを作っての映画プロデューサーとしても名を刻み、さらに監督作品『五十万人の遺産』(63)も残しています。

本作では、神業とも思えるほどの、三船のみごとな殺陣を鮮やかに目の当りに出来ることはもちろん、黒澤監督以外の作品の映像も多数登場し、彼と深いかかわりを持った人物たちのインタビューのコラージュとのコラボレーションなど、その構成力が見事な出来ばえです。

彼の稀代のスター性と並んで、その素顔と精神力を知れば知るほど、三船の名前も知らなかった人々をも魅了する、そんなドキュメンタリー作品です。

画像2: 黒澤監督の立役者のみならず、多才だった三船

関わった人物からの証言と、映像のコラボレーション

豪放磊落な役柄が似合う彼ですが、撮影以外の場ではスターぶるところが一切なく、気さくで明るくリーダーシップ旺盛で、腰が低くマメに動き回り、周囲から愛されていたという三船。

インタビューから明らかにされて行く彼の実像は輝くばかりですが、この映画はそれを過分に華やかに見せようとはせず、むしろドライにまとめて、映画に生きた一人のまっすぐな人間性を浮き彫りにし、好感を与えます。音楽がシンプルなのも小気味良いばかり。

共演者であった、香川京子、司葉子、八千草薫といった女優陣、加藤武、夏木陽介ほかの男優陣、長男で俳優の三船史郎ほか仕事を共にした面々によって、彼らの、私たちの「三船」が形作られていくのです。

あの、スティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシ監督までも、誇らしく饒舌に、楽しげに「ミフネ」を語り、彼の雄姿を甦らせます。

三船敏郎が俳優というスペシャリストでありながら、プロダクションの社長であり、映画プロデューサーというジェネラリストとしての手腕を持ち得たことは、誰とでもフランクにつきあうことが出来た才能ゆえの賜物でしょうか。ハリウッドやヨーロッパの大物映画人と対峙しても、ひけを取らない力量の大きさは、天性のものでもありながら、映画世界でこそ花開いた才能に違いない。そんなことを気づかせてくれるのが、『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』という映画なのです。

画像: 関わった人物からの証言と、映像のコラボレーション

日本文化と世界の架け橋でいたい、S・オカザキ監督

この作品を監督したのは、アメリカ在住の日本人三世の映画監督、スティーヴン・オカザキ。エミー賞受賞の『ヒロシマナガサキ』(08)や、アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を獲得した『収容所の長い日々/日系人と結婚した白人女性』(91)などのキャリアを重ね、アメリカに居ながらにして日本に関わるテーマに取り組んできた存在です。

また、プロデューサーの一人には、三船敏郎の孫にあたる、三船力也が関わっていることにも注目したいものです。

ロサンジェルス生まれで、現在はカリフォルニアのバークレーに住まう、オカザキ監督にインタビューをする機会を得て、本作への取り組みやこだわりをうかがってみました。

──日系三世であるということもあって、アメリカに居ながら日本を見る、日本を伝える。今までもそういう作品を作られて来たように思えますが、今回のテーマである「三船敏郎」も日本人の血が騒ぐと言うか、日本人として伝えるべき使命感のようなことで監督されたのでしょうか?

「使命感というより、日本文化と世界を繋ぐ架け橋になりたいと思っています。そして、日本に関わるテーマに取り組むことが、個人的にも好きでなんです。日本の歴史や映画を自分自身が知りたいからこそ、精力的に取り組みたいと思います。また、自分は日本文化の通訳でありたいです、日本が紹介される時って、未だ妙なステレオタイプに描かれたり、過分にエキゾチックに紹介される傾向が気にかかり、苛立たされることがあるんですよ。そういう意味では、日本人のもっと人間的な面を忠実に世界に伝えたいという使命感みたいなものは、やはりあるかも知れません」

画像: 日本文化と世界の架け橋でいたい、S・オカザキ監督

三船を知らない世代にも、彼の魅力を感じさせたい

──この作品は、三船敏郎という存在を描きながらも、一つの映画史であり、時代史にもなっています。若い世代にも観て欲しい作品ですが、監督されたきっかけは?

「まさにそのとおりです。若い人に観てもらいたいですね。アメリカでも今の時代はジェームズ・スチュアートとかジョン・ウェインの映画を観たことがないという若者は非常に多い。「ネットフリックス」や「ストリーミング」では、その手の映画は観ることが出来ないですから。
それと個人的にも、『七人の侍』や『宮本武蔵』を公開時に観て、‟黒澤映画”で育ってきました。その作品たちは、私の青春そのものなんです。
そして、今のタイミングに、なぜ「三船」か、と言えば、三船と共に仕事をしてきた人達も高齢になってきて、その方々が持ち得ている貴重な証言を継承していく時間は、もう後回しには出来ない、今がその時だと感じ、チャンスを逃さず掴んだと思っています」

──「三船」を語る登場人物の中で、ご存命だけれど、この作品に登場させることが出来なかった方といったら?

「仲代達矢さん(『用心棒』で共演)や加山雄三さん(『赤ひげ』で共演)ですね。加山さんは新人時代に三船と共演していましたね」

──登場して「三船」を語った方々の内容を反映するかのような名場面で、「裏打ち」するような構成が秀逸でしたが、ご苦労も多かったのでは?

「三船という俳優をよく観て来た人たちを納得させること、同時に、まったく知らない人にも関心を持たせられることを考えなくてはならない、2パターンの客層を意識しなくてはならなかったのが、この作品です。
どんな映像シーンを使っていくかという選択も、蓋を開けてみると長編の一部しかない作品や、権利的に使用が制限されるなど思うままにはならず、古い映像を使う作業がいかに大変であるかを痛感しました。ならば、エッセンスだけを引き出して上手くはめていこう、インタビューと組み合わせて、ということを心がけました。愛ある答えを引き出すインタビューになるよう気も遣いましたね。編集の過程では、どういう風に素材を使えば、面白い動きを観る人たちに提供できるか考えました。この映画をきっかけにして、若い世代が「三船映画」を観てくれるようになったらいいなあ、ということも意識しながら」

画像: 三船を知らない世代にも、彼の魅力を感じさせたい

新しい三船像を掘り起こしていくことは、冒険そのもの

──三船敏郎を高く評価し、ゆかりある国際映画祭であるベネチア映画祭に、本作を出品することには、制作中も意識されたのでしょうか?

「個人的な意見ですが、映画祭に自分の作品を出すことには情熱を持っていないんです。映画作りというのは競い合うようなものではないと思っているので。だから、映画を観に映画祭にいくのは好きですが、自分の映画を上映することにはストレスを感じますね(笑)。ベネチア映画祭出品時(ベネチア映画祭で65年に上映された『赤ひげ』のリマスター版が、50周年にあたる2015年のベネチア映画祭で上映。これに合わせて本作も上映された)は、まだ完全に完成しておらず、スピルバーグとスコセッシのインタビューが入っていないバージョンで発表しました」

極めて率直に、まっすぐに語ってくれるオカザキ監督です。

本作を作りながら、インタビューを重ねる中、自分の知らない三船敏郎像がどのように飛び出してくるのかは興味津々で、それはまさに冒険そのものであったと言います。多くのリスペクトに溢れる言葉を引き出せれば、それは大きな喜びとなっていく、それを裏づけるような映像を探し挟み込む、そんな良い仕事に恵まれたという自信に溢れた印象でした。

観る者としては、本作で一番の発見と言えば、完全主義者として知られる黒澤明監督が唯一、三船敏郎には演技の注文を一切しないで、すべての作品において、彼の自由な演技に「おまかせ」であったという、この事実。

それを知ったうえで、いかに三船敏郎という俳優が世界の映画人を未だに唸らせているか、彼の出演作すべてを観なおして再評価しなくては、という気持ちになりました。

三船敏郎、特別な俳優の証明が、『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』なのです。

画像: MIFUNE: THE LAST SAMURAI_予告_180512 youtu.be

MIFUNE: THE LAST SAMURAI_予告_180512

youtu.be

『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』5月12日(土)有楽町スバル座ほか全国順次公開
公式サイト/http://mifune-samurai.com
監督/スティーヴン・オカザキ
出演/香川京子、司葉子、八千草薫、加藤武、役所広司、夏木陽介、スティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシほか
ナレーション/AKIRA
2016年/日本/80分/モノクロ
配給/HIGH BROW CINEMA
©️ “MIFUNE: THE LAST SAMURAI”Film Partners
Fhotos ©️TOHO CO.,LTD.

関連イベント情報

※5月12日(土)『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』初日舞台挨拶/11時50分から12時20分まで/有楽町スバル座/登壇者 香川京子、司葉子、三船史郎、AKIRA、MC水道橋博士

※5月12日(土)『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』公開記念スペシャルトークイベント/19時から20時/代官山蔦屋書店1号館2階イベントスペース/ゲスト・水道橋博士 聞き手・代官山蔦屋書店シネマコンシェルジュ吉川明利氏

※5月19日(土)『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』公開記念スペシャルトークイベント/代官山蔦屋書店1号館2階イベントスペース/17時半から18時半/ゲスト 野上照代 三船史郎
(代官山蔦屋書店TEL03-3770-7555)

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