『シネマという生き方』そのままに、「映画を作っている時が、実生活より強烈に生きていることを感じられる」という、フランスを代表する女性監督の一人、アンヌ・フォンテーヌ。フランス恋愛映画の大家と謳われ、昨年、今年と毎年続けて話題の新作を発表しています。
昨年のフランス映画祭で上映、その後、劇場公開もされた『夜明けの祈り』に続いて完成させた新作が『マルヴィル、あるいは素晴らしい教育』。
今年のフランス映画祭で来日を果たし、インタビューにも応えてくださいました。昨年に続いてのこの欄での登場、再びです。そのエネルギーの原動力とは?うかがってみました。
画像: 髙野てるみ(たかのてるみ) 映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。 著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。 Facebookページ: http://www.facebook.com/terumi.takano.7

髙野てるみ(たかのてるみ)
映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。
著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。
Facebookページ:http://www.facebook.com/terumi.takano.7

恋愛路線には戻らず、挑戦的なテーマへの取り組みを果たす

監督や俳優たちから、映画作りに命をかける姿勢や、新作についての想いなどを直接うかがえるチャンスに溢れているのが、映画祭という場。今年6月、会場を横浜へと移したフランス映画祭は、フランス映画界の最新の作品と、一線で活躍する映画人を集結させ盛りあがりました。
そこに、驚くばかりのエネルギーで、昨年とはまた打って変わったテーマの、奥深く美しい作品を出品・来日したアンヌ・フォンテーヌ監督。

昨年の『夜明けの祈り』は、それまでの「恋愛もの」とは異質の問題作で、セザール賞3部門にノミネート、目が離せませんでしたが、今回も恋愛路線に戻ることなく挑戦的な取り組みの新作となりました。
本作『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』は、性的マイノリティの宿命に悩みながらも、演劇界に活路を見出し、人生を切り開こうとする男の物語。昨年のヴェネチア映画祭オリゾンティ部門に出品され、主演男優の新星フィネガン・オールドフィールドをセザール賞・主演男優賞候補に導いた作品としても注目されています。
アンヌ・フォンテーヌ監督のインタビューは、『ボヴァリー夫人とパン屋』(14)公開の際にもインタビューしていて、筆者としては3回目のお目通りとなり、毎年のように新作を作るフォンテーヌ監督だからこそ、こうしてたびたびお目にかかれるというもの。ありがたい限りです。

本作は、筆者にとっては、フォンテーヌ監督作品史上、最高峰のものとの感動が抑えきれなかった、そんな記憶を今なお新たにします。
過去の彼女の作品のほとんどが日本で公開され、高い評価と好感度を与えて来たので、本作も公開が今か今かと、待たれるばかりです。

画像1: ©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS

©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS

性的マイノリティを演じる新星男優と、「実名の女優役」I・ユペールが熱演

厳しく粗暴な父親から愛された記憶のない男の子マルヴィンは、成長するにつれ、自分が同性愛者であることを自覚していきます。彼は、自分の存在を認めてもらえる場として演劇の世界をめざし、家を出ます。後戻りが許されない必死さもあって努力は実り、一躍注目されるスターダムを手に。疎遠になっていた父親も理解を示してくれるようになり交流が生まれていきます。
諦め切れなかった父からの愛を得て、弱っていく父へ愛を与える立場にもなり、一方では、演劇界をめざした彼への素晴らしい教えと導きを与えてくれた、力ある人々からの愛も得て、マルヴィンは自分自身を見出すことが出来、成長していきます。

性的マイノリティである人物の、人間的苦悩や生き方をきめ細かく描き、そういう彼を取り巻く周囲の人々の戸惑いや関わり方を描いて秀逸。フォンテーヌ監督のまなざしが、鋭くもまた優しいのです。

マルヴィン役のフィネガン・オールドフィールドの演技力もさながら、名女優イザベル・ユペールが、「女優イザベル・ユペール」役として出演、重要な役割を果たしており、その起用の手腕も見事です。

LGBTについて語るのではなく、演劇界で自分らしく生きる男のドラマ

画像2: ©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS

©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS

――こうして、毎年お目にかかれるのは光栄なことです。そして昨年に引き続き、最新作もまた、「恋愛もの」ではなかった。昨年のインタビュー時には、恋愛路線に戻るかどうかは、「まだ秘密」とおっしゃられていましたが、LGBTに関わる作品とは思いませんでした。

「こちらこそ。インタビューしていただくのは、もう3回目!? いつも、ありがとうございます。で、私がこういったLGBTの作品を撮ったというのが意外だったんですか?
今回の性的マイノリティの取り上げ方は、社会的なスローガンを掲げるために作ったつもりはありません。実は、私の個人的な題材も数多く入れているんですよ。枠にはまらない人間がどう生きていくべきかという。
そして、前作の『夜明けの祈り』の衝撃は戦時下のレイプでしたが、今回は家族とのやり取りなんです。親の愛を得られないということは、子どもにとって大きな衝撃です。そこからどう抜け出していくか、立ち上がっていくかは、二つの作品に共通しています」

――恋愛ものではないといえども、男女の恋愛から、男同士の愛を取り上げることは新たな挑戦だったのでは? 制作のきっかけは何だったのでしょう? モデルとなる実在の男性がいたのでしょうか?

「実在のモデルはいませんが、共感してインスパイアされた本があり、それに惹かれて、原作者にも会って共同脚本を作る相手を探しました。そして製作者へと提案しました。そこは前回作品が製作者からのオファーであった点とは大きく違います」

主人公役に求めるものは、脆さ、カリスマ性、内面の力

――マルヴィンを指導してくれる同性愛者で演劇界の重鎮との激しい恋愛シーンや、愛を渇望する父親とのやりとり、また、彼が俳優をめざすと同時に脚本家としても認められ、彼が創った劇をイザベル・ユペールとの二人芝居で演じるシーンは衝撃的で圧巻です。これを演じたフィネガン・オールドフィールドの演技は抜きんでていました。起用にあたってはご苦労がありましたか?

「子供時代を演じる子役は重要で、マルヴィンを演じる俳優は二人必要だったわけです。そのうえで、主人公役に求めるものは、脆さ、カリスマ性、内面の力を秘めたような役者でした。しかも優美さがあり、どこか自然な形で女性性を持っていなくてはならない。フィネガンとは仕事をしたこともあり、マルヴィン役には理想的な役者だとすぐわかりました。ただ、同じ条件を求め、外見と演技の両面を兼ね備えるという子役を見つけるのには苦労しましたね」

――それにしても、作品が一つ完成すると、もう次の企画を引き続いて手がけるという、そして、フランス映画祭でも毎年公開するという監督は多くはありません。

「確かに。私は恵まれているというしかないんです。上手な作り手でも、作りたい映画を立て続けに作るということが出来ず困っている監督もいることは否めないです。今回のように自分からプロデューサーに提案することも大事ですし、その点も作り手として、製作者たちに安心感を与えてはいるようです」

©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS

映画や演劇界は、社会の枠にはまらない人々の生きるべき世界

――それにしても、制作の話が、ある、ないという以前に、制作する意欲やエネルギーがなくては出来ないことですから、その精力的な力に驚かされるのですが?

「私の生き方に関係するのかもしれませんが、私は、実生活よりも映画を作っている方が強烈に生きているんです。実生活で求められることがまったく出来ないタイプでして(笑)。子どもの時も男の子みたいだったし(笑)。私にとって映画作りは、まさに生きることそのものなんです。映画を作っていないと弱ってしまうんですね。体も心も。まあ、そうは言っても、映画作りというものはそう容易いものではなく、大変には大変なことなんですけれど」

そううかがうと、この作品が自身にも重なる生き方を描いているという言葉が蘇り、普通の少女ではなかった(?)子供時代があったことを想像してしまいました。

「とにかく、映画や演劇もそうですが、枠にはまらない人たちが住まうところが、芸術が生まれるところなんだと思います。マルヴィルも居場所を見つけるんです」

だから自分もそこで映画を作っている、自分らしく生き生きしていられるのだと言いたげに、ちょっとはにかんだような表情になったフォンテーヌ監督。
そうだったのだ、まさに、「シネマという生き方」にふさわしい存在の、フォンテーヌ監督。脱帽です。

自分らしく生きるための映画作り。それが彼女の生き方なのですね。
毎年続けて映画を撮り続ける理由も、よくわかりました。
美しき芸術家で、エレガントなマダムにしか見えない監督の、意外とも思える発言。今回作品の主人公マルヴィンにも重なる、どこか普通の人たちに感じてしまう違和感こそが、才能の源であるというような……。
短い時間での中、監督自身の深い一面を垣間見ることが出来たインタビューとなりました。

この時点で早くも次回作を撮り終えるところだそうで、フォンテーヌ監督は呼吸をするかのように映画を作っています。まさに絶好調なのです。

次回作に期待して、またすぐにお会いできそうですね。

引き続き次回も、フランス映画祭2018でインタビューの機会に恵まれました、『ブラディ・ミルク』主演男優のスワン・アルローのインタビューです。

今回ご紹介した『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』の主演男優フィネガン・オールドフィールドが、惜しくも逃した今年のセザール賞で、みごと主演男優賞を獲得した今注目のスターです。お楽しみに。

『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』(原題/Marvin ou la belle éducation)
監督/アンヌ・フォンテーヌ
出演/フィネガン・オールドフィールド、イザベル・ユペール、ヴァンサン・マケーニュ、グレゴリー・ガドボワほか
2017年/フランス /フランス語 /115分
©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS

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