近年、アカデミー賞をざわつかせている新進気鋭の映画会社“A24”。設立から6年足らずで話題作を次々と送り出し、アメリカ映画界のみならず世界中で注目の的となっている。本年度の賞レースにも絡んでくるであろうA24大躍進の理由に迫る!(文/久保田明・デジタル編集/スクリーン編集部)

「ムーンライト」で世界中に鮮烈な印象を残す

2017年開催のアカデミー賞授賞式で、一度は「ラ・ラ・ランド」の名が読み上げられてしまった作品賞受賞作「ムーンライト」は、さまざまな話題を呼んだ異色作だった。監督のバリー・ジェンキンスを始めスタッフ・キャストの多くが黒人で、マイアミの貧困地域で生きる少年シャロンの成長を描く。人種問題、貧困問題、性的指向の問題(シャロンはホモセクシュアルとして、偏見が強い黒人社会で育つ)などが語られるが、それらが何かに対する抗議や要求ではなく、個人の人生、個性として静かに描かれるのが新鮮だった。物事の見つめ方、語り方に工夫があったのだ。

この作品を製作、配給し注目を集めたのがA24という新進の映画会社だった。「ムーンライト」の製作費はわずか150万ドル(約1億6900万円)。同年の作品賞ノミネート作「ラ・ラ・ランド」(3000万ドル)や「ドリーム」(2500万ドル)と比べても極端に少ない。初の製作作品「ムーンライト」を超低予算で仕上げて、オスカー受賞というホームランを飛ばす。勢いは止まらず、その後もインディペンデント映画界、アメリカ映画界の台風の目になっている。A24はどんな映画会社なのだろうか。

画像: A24の名を広めるきっかけとなったオスカー受賞作「ムーンライト」

A24の名を広めるきっかけとなったオスカー受賞作「ムーンライト」

ハリウッド的な定説から外れた一癖ある作品を次々と配給

A24は、2012年の夏に3人の男性によって設立された。資産運用会社のグッゲンハイム・パートナーズで映画財務を担当していたダニエル・カッツ。人気ユニット、ビースティ・ボーイズの故アダム・ヤウクと組んで映画配給会社オシロスコープ・ラボラトリーズを立ち上げ、「少年は残酷な弓を射る」や「ビースティ・ボーイズ撮られっぱなし天国」を発表したデイヴィッド・フィンケル。スティーヴ・カレルとトニ・コレットの主演で崩壊家族の車旅行を描くコメディ「リトル・ミス・サンシャイン」を製作したビッグ・ビーチ・フィルムズのジョン・ホッジス。映画界に新しい波を起こそうと集まった3人は、翌2013年2月の「チャールズ・スワン三世の頭ン中」(日本ではTV放映)の限定公開でA24を船出させた。

フランシス・フォード・コッポラの息子ロマン・コッポラの演出、主演はお騒がせスターのチャーリー・シーン。恋人にフラれたグラフィック・デザイナーの妄想日記というこの作品、実はあまり面白くない。

ビル・マーレイ、パトリシア・アークエット、「グランド・ブダペスト・ホテル」などウェス・アンダーソン作品の常連ジェイソン・シュワルツマンとクセ者俳優の共演に味はあるのだけれど、ヒネリすぎて観る者が置いてきぼりになってしまうのだ。

めげないカッツら3人は、ビキニ姿できゃっきゃっと騒ぎながら裏社会にスキップしてゆく女子大生4人組を主人公にした「スプリング・ブレイカーズ」、エマ・ワトソンの主演で、ハリウッド・セレブの留守宅で盗みをくり返す少女たちの冒険を描いた「ブリングリング」(演出はコッポラの娘のソフィア・コッポラ)の2本を配給し、スマッシュヒットさせる。キラキラしているけれど、画面の奥に孤独が膝を下ろしている現在進行形の青春映画。このへんでファンはわかってきた。ノレないひと、ハマるひとの両方を生み出すA24の作品に通常のハリウッド映画の公式は当てはまらないのだと。

画像: インディー界で活躍するハーモニー・コリン監督の「スプリング・ブレイカーズ」

インディー界で活躍するハーモニー・コリン監督の「スプリング・ブレイカーズ」

3人は長年暮らしてきたニューヨークでA24を創立した。ハリウッドから離れた場所で、自分たちが観たい作品と若いフィルムメーカーを応援する。この立ち位置が同社の個性を支えているといえるだろう。

以後、多くの作品を北米で配給する。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「複製された男」、スカーレット・ヨハンソン主演の超異色SF「アンダー・ザ・スキン種の捕食」、ほぼ全篇が運転中の車の座席で展開する、トム・ハーディ主演の人生ドラマ「オン・ザ・ハイウェイその夜、86分」、アリシア・ヴィキャンデルが美しきAIロボットを演じる「エクス・マキナ」、ブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞を獲得したサスペンス「ルーム」、ギリシャのヨルゴス・ランティモス監督とヨルゴス・ランティモスのコンビ作「ロブスター」と「聖なる鹿殺しキリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」、ダニエル・ラドクリフとポール・ディーノ共演の奇想天外な無人島サバイバル映画「スイス・アーミー・マン」など。

SF、ホラーから青春ドラマ、ほかにも英国ロック・バンド、オアシスの足跡をたどる「オアシス:スーパーソニック」や「デ・パルマ」といったドキュメンタリーの秀作、「フリー・ファイヤー」のようなアクション映画もある。またサリー・ポッター演出、エル・ファニング主演の「ジンジャーの朝さよなら、わたしが愛した世界」など、女性監督の作品が目立つのも特徴だ。

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