壮絶な麻薬戦争をリアルに描いたNetflixのオリジナル・シリーズ『ナルコス』の最新作『ナルコス:メキシコ編』で、DEA捜査官キキを演じるマイケル・ペーニャと、本作のクリエイター、エリック・ニューマンに直撃インタビュー。リアルな作品作りへの想いを聞いた。(文・幕田千宏)
画像: 左まらディエゴ・ルナ、エリック・ニューマン、マイケル・ペーニャ

左まらディエゴ・ルナ、エリック・ニューマン、マイケル・ペーニャ

捜査官キキ役マイケル・ペーニャ
「視点や信念によって見えてくる世界観が変わってくるところが面白いと思った

──まずはマイケルとディエゴ(・ルナ)をキャスティングした決め手は何だったんでしょう?

エリック「とにかく二人と一緒に仕事が出来た事は本当に幸運だったと思っているよ。このキャスティングに関して、二人はファースト・チョイスだったし、僕にとっては唯一の選択だった。マイケルもディエゴも、何年もかけて、今の時代の最高の役者の一人だという評価を得てきた二人だからね。ドラマを製作する以上、キャラクターは視聴者に惚れてもらわなければならないけど、それは決して簡単な事ではないんだ。なにしろ彼らは全ての面で好ましいという人物ではないからね。その点、マイケルもディエゴもシリアスなドラマを演じられる俳優だし、二人の手にかかればその難題もクリアできると分かっていたからね。僕はいつも最高の役者をチョイスすれば、その作品が失敗することなんてないと考えているんだ。僕が脚本家として出来る事には限界があって、キャラクターをさらなる次元へ高めるには俳優のアーティストとしての力が必要なんだよ。それにこの作品は俳優だけじゃなく、監督も脚本家も役者も音楽も、とにかく全てのコラボレーションを密にして製作されているシリーズで、そこに一つでも弱いポイントがあれば、成立しない作品なんだ。実はマイケルには言ってなかったんだけど、彼がオファーを引き受けてくれなければ、このドラマは実現しなかったと思ってるんだ。だから彼のような俳優に演じてもらえて本当に幸運だったと思うよ」

画像1: 捜査官キキ役マイケル・ペーニャ 「視点や信念によって見えてくる世界観が変わってくるところが面白いと思った

──そんな熱烈オファーを受けた理由は何だったんでしょう?

マイケル「確か最初のミーティングは3、4年前で、その時からエリックはこの作品をメキシコでも展開させようというビジョンを持っていたんだ。『ナルコス』については僕の周囲もみんな見ていてハマっていたんだけど、その頃僕の息子がまだ6歳とかだったから、僕自身はピクサーの映画なんかを見ていてね。あとはゲームの『ストリート・ファイターV』の中継なんかを見ていたんだよ。eスポーツは最高だよね(笑)! まぁそんな時期だったから『ナルコス』については、自分自身では見たことがなかったんだ。でも周囲の評価が高くても自分自身で確かめない事には判断がつかないからね。最初は典型的な警官と犯罪者の話かと思っていたんだけど、2話目くらいで、あ、これは違う!と強く感じたよ。南米の描かれ方も、そのエネルギーやバイブスをしっかりと捉えてあるがままを描こうとしている姿勢が感じられたし、コロンビアで撮影しているのもきちんと伝わってくる。風景の感じなんかもきちっと捉えたいという意識が分かったし、ストーリーテリングも演技も素晴らしくて、完全に魅了されたよ。そこから、最初は軽い話だと思っていたオファーの話も本気だったのかな、と気にするようになって、逆に自分の方からこの役を追いかけ始めたって感じなんだ」

──ディエゴとの共演はいかがでした?

マイケル「全く夢見た通りの出会いだったよ。本当に彼はすごく真摯で、心からセンセーショナルな仕事だったね。なんて、実は彼とは『チャベス』で既に一緒に仕事をしているんだけど、その時も8ヶ月くらい一緒に過ごしているし、何度も食事もしてお互い気心を知る関係だからね。ディエゴは本当に最高の奴だし、素晴らしいストーリーテラーでもあって、話していると本当に楽しいんだ。ただ今回は、以前とはキャラクター同士の力学が違うから、お互いに前回とはフィーリングが少し違っていて、ベッタリ仲良くするというより、すこし距離を置いた感じになっていたんだ。撮影中は二人とも少しだけ役に入ったままになっていたんだね。正直に言うと、キキを演じていると、やはり彼のビジネスに対してある視点でしか見ていないわけだから、その視点が自分の視点にも少しかぶってきてしまうんだ。ディエゴはディエゴでガラルド側の視点でものを見ていて、その2つがぶつかると、普段仲が良くてもキャラクターの歴史がちょっと出てきちゃうんだよね」

──実在の人物を演じる上で、いろいろリサーチをしたと思いますが、キキについて、どんな印象を受けましたか?

マイケル「キキというキャラクターはすごく複雑な人物だと思ったし、同時に熱いモチベーションを持っている人間だと感じたけど、実は最初はそれをどう演じたらいいのか悩んだ部分があるんだ。キキにとって、例えば政治家が民衆の信頼を裏切る行為に走ったりするような不公平を許せない事は大きなモチベーションになっていたとは思う。彼は誰もがこれが倫理的な掟だと合意したはずの事に背く犯罪行為を何度も何度も目にしてきて、ひとつの帝国が作られていく様を早くから気付いていた。でも周囲に警鐘を鳴らしていても、オオカミ少年のようにしか思われないんだ。そんな中でエピソードが進む度、彼のモチベーションの炎に燃料が投下されるような展開だと感じたし、何か彼が怒りを感じるような出来事が毎回あって、それが彼の想いをより強くしていったんだと感じたよ」

エリック「キキは正義の側に立つ人間だけど、ものすごく頑固なところもあって決して理想的な人間というわけじゃない。でもその頑迷さがあるからこそ彼はヒーローだし、人のために命を投げ出す事が出来るある種の聖人的なところがあるんだ。

──そんなキキとの共通点はありましたか?

マイケル「役者は自分が演じているキャラクターとの共通点を探すものだし、その作業は僕にとってはディベートに近いものなんだ。自分の見方とキャラクターの見方をすり合わせて演じていくんだ。キキの場合、とにかく不公平な事を嫌っているのは明らかだったし、特に政治家や警官が民衆の信頼を裏切るような行動をしているのが許せないんだ。このドラマの魅力はキキの視点から見るとある世界が見えるんだけど、同じ世界でもカルテル側から見るとまた別の世界が見えてくるわけで、自分たちの視点や信念によって見えてくる世界観が変わってくるところなんだ。言ってみればひとつの電車が一方に進んでいるようで、見方を変えれば逆に進んでいるわけで、それがこのシリーズの素晴らしいところなんだ。

画像2: 捜査官キキ役マイケル・ペーニャ 「視点や信念によって見えてくる世界観が変わってくるところが面白いと思った

──このドラマは描写も生々しくて、とてもリアルに感じますが、どういった事を意識して製作しているのでしょう?

エリック「アメリカ人というのは世界のどこに行っても自分はアメリカ人だから傷つけられる事はないだろうという、ナイーブな思い込みがあるんだよね。でも現実には大きな力に対峙する事もあるし、このドラマではそれが麻薬組織になるわけだけど、麻薬によって巨額のお金が動き、人を殺してでもそれを守りたいと考える人間がいる場合、そんな思い込みは当てはまらない。アメリカ人の麻薬捜査官を殺すというリスクを負ってでも、その利権を守ろうとするわけだから。そうしたシビアな世界を忠実に描くことこそ僕らの義務だと考えているし、今のドラマの視聴者はよりグローバルになり、より洗練されていて、要求度も高くなっている。彼らはよりリアルに感じられる作品を見たいという気持ちがすごく強くなっているから。この麻薬を取り巻く世界というのはとてもバイオレントな世界で、それを描く時に言語やロケーションはもちろん、ストーリーテリングのトーンについても、実際に起きている事になるべく忠実に描きたいと思っているし、麻薬組織の世界を描く時に、間違っても彼らに対して優しい視点から描かないようにいつも意識しているんだ。麻薬カルテルの事を何か素晴らしい事のように描いてはいないか、という声が常に聞こえている感じだね。そうならないための最初の一歩は、彼らの本当の姿を出来る限りそのまま描く事であって、どこの世界でも麻薬カルテルに共通して見られるのが暴力なわけだけど、それも含めて描く事なんだ。誠実に真実を描こうと思ったら、バイオレンスも含めざるを得ないんだ。だからこのドラマは生々しいんだ」

──キャラクターをリアルに演じる上で、どのように役作りをしたのですか?

マイケル「この作品はスペイン語が主となるドラマで、ある種のカルチャーショックがある事が、実は役を演じやすくさせてくれたんだ。キキはメキシコ系のアメリカ人だけど、実際にメキシコに行けば外国人なわけで、それは僕も同様だったから。異国の地にいること、どこか不安や落ち着かなさがあること、キキの場合なら自分がやろうとしている事をやり遂げる事ができるのかという不安のシャワーを浴びながら日々捜査しているわけで、その彼の状況が少しだけ僕自身の状況とかぶっていた事が、かえって役を演じやすくしてくれたんだ」

──この『ナルコス:メキシコ編』はどのくらい続けたいと考えているのでしょう?

エリック「このドラマの舞台は80年代のメキシコだけど、残念ながらこの麻薬戦争は30年以上が経った現在もまだ続いているんだよね。まさに現在進行形の物語だし、僕のビジョンとしては作らせてもらえるだけ作ろうと考えていて、メキシコ編にしてもできるだけ数多く作っていきたいと思っているよ」

麻薬組織のボス、ガジャルド役ディエゴ・ルナ
「麻薬戦争は様々な国や人間が関わるグローバルな問題なんだ」

DEA捜査官と麻薬密売組織の攻防を描く『ナルコス:メキシコ編』で、メキシコ麻薬組織のゴッドファーザーと呼ばれるグアダラハラ・カルテルのボス、ガジャルドを演じるディエゴ・ルナ。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の前日譚への主演が決まったその日に行われたインタビューで、喜びを爆発させつつ、『ナルコス:メキシコ編』について、真摯な想いを語ってくれた。

──実在する麻薬王を演じるにあたり、どのようなリサーチをしたのですか?

ディエゴ「ガジャルドについて書かれたものというのは本当にたくさんあるんだ。ちょうどこのドラマで描かれている10年というのはアメリカとメキシコの歴史においても重要な10年でもあって、いろんな事件が起こったし、ドキュメンタリーもある。僕も当時はまだ子供だったけど、その頃のメキシコの雰囲気というのはよく覚えているし、参考にするものというのは有り余るほどあったんだ」

画像1: 麻薬組織のボス、ガジャルド役ディエゴ・ルナ 「麻薬戦争は様々な国や人間が関わるグローバルな問題なんだ」

──ガラルドを演じる上で難しかった事はありますか?

ディエゴ「ガジャルドはステレオタイプに当てはまる人物ではなかったところが、自分にとってはある種のチャレンジだった。彼はもともと自分が属していない世界に帰属しようとしている人物で、多分目指していたのは政治家とビジネスマンの間くらいのものだったんじゃないかと思うんだけど、結果彼はメキシコの北部から大都市に出てきて、自分の帝国を築き上げていく。その過程で彼は上流社会の人たちと交流をしていくんだけど、その時の写真を見ていると、彼らの一員であるかのように自分を作って振る舞っているのが見て取れるんだ。同時に彼は裏社会でお互いを殺し合おうとしていた人たちを一同に集めて、それぞれのテリトリーを繋げて単一の組織を作ろうと提案して説得に成功するわけだけど、それには彼自身に何かしら魅力がないと難しいよね。僕は、ガジャルドは時代の先を行っていた人物だと思っているんだ。当時のメキシコは麻薬についてはそれぞれの生産者が独自にビジネスをしていたんだけど、それをまとめて中間業者である事をビジネスとして成立させたんだから。そういうキレ者であると同時に背伸びをしているような彼の二面性を演じること、そしてシーズンを通して彼の物語にきちんと弧を描くような緩急をつけていく事を常に心がけて演じていたよ」

──警官から麻薬王へと上り詰めていく中で、ガジャルドも少しずつ変化していくと思うのですが、そうした変化をどう意識して演じたのでしょう?

ディエゴ「ガジャルドはいつも誰かのために働いているし、電話がかかってくれば必ず応えなくてはならない立場にあって、決して自分にとって最高の状態にあるわけではないんだ。彼の上にはいつも必ずボスがいるのは見ていても明らかで、だからこそ彼は決して満足をする瞬間がないし、常にトップを目指し、野心が止まる事もない。状況を自分が掌握しているわけではないと理解している男で、コントロールできる立場を求めて続けている人物なんだと意識しながら演じていたよ」

──決してお手本になる好人物というわけではないですが、ガジャルドに共感する部分はありましたか?

ディエゴ「もちろん。演じる以上、どこかで共感できなきゃダメだからね。悪いヤツでも人間だから。演じる上で、白黒で判断するような二元的なアプローチをするのはすごく危険な事だし、例え演じるキャラクターが悪人であっても、僕自身が裁いてはいけないと思っているんだ。彼らもまた一人の人間として、彼らなりの行動原理があるし、犯罪に手を染めてない人と同じようなものに心を動かされるものだから。ただ彼らは僕や多くの人がきっと越えない一線を越えることができるという差なんだ。ガジャルドにしても、彼はたくさんの人の信頼を勝ち得る事に成功した人物で、その方法はいろいろあったと思うんだけど、その内のひとつは他人が彼に出会った時に信頼が持てる何か正直者のような側面があったんじゃないかと思っているんだ。だって彼は知事の息子の子守り的な存在で、パパって呼ばれるくらいだったんだから。彼に何か資質がなければ、そんなふうに子供から信頼を得る事はできないよね」

──『ナルコス』シリーズは壮絶な麻薬戦争をリアルに描いていますが、ドラマの最大の魅力は何だと思いますか?

ディエゴ「この作品で描かれている麻薬戦争問題というのは、決してメキシコだけの問題じゃないと僕は思っているんだ。何かトラブルが起こった時、解決するためにはどうしてこういう事が起こったのかを考察しなければならないけど、この麻薬戦争については全てのレベルの権力、それもメキシコだけじゃなくアメリカも関わっていて、様々な人間が関わるグローバルなものなんだ。今も続くメキシコの麻薬戦争には大きな暴力が絡んでいて、ここ12年で25万人以上も亡くなっているわけだけど、これがグローバルな問題だと気付いてもらった時に、世界の観客とこの作品が通じあえると思うんだ。このシリーズが興味の引き金になるかもしれないし、Netflixのいいところは似たような作品がリコメンドされて、より興味を持ったテーマに深く入り込む事ができる。メキシコの問題だと思っていた事が実はグローバルな問題だと視点が変わるきっかけになればと思っているけど、それがこの作品の魅力にもなるんじゃないかな。僕は『ナルコス』に限らず、自分が関わる作品はどのストーリーにおいても視点を変えるようなものであって欲しいと思っているんだ」

画像2: 麻薬組織のボス、ガジャルド役ディエゴ・ルナ 「麻薬戦争は様々な国や人間が関わるグローバルな問題なんだ」

「ナルコス:メキシコ編」

 コロンビアの麻薬戦争を描いたクライムサスペンス・シリーズ第2弾。今回は、1980年代のメキシコを舞台に、警官から転身しグアダラハラ・カルテルを築いたゴッドファーザー、ミゲル・ガジャルドと、彼を追うDEA捜査官キキ・カマレナを中心に、支配階級の腐敗や暴力の連鎖など、今なお続くメキシコの壮絶な麻薬戦争をリアルに描く。(Netflixで独占配信中)

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