『エルネスト もう一人のゲバラ』(17年)、『人類資金』(13年)、『北のカナリアたち』(12年)などの阪本順治監督が完全オリジナル脚本の『半世界』を完成させた。
美しい地方都市を舞台に、炭焼き職人の紘役を稲垣吾郎、故郷に帰還する紘のかつての同級生の瑛介役を長谷川博己、紘と瑛介の同級生の光彦役を渋川清彦が演じ、紘の妻の初乃を池脇千鶴が演じている。
「人生半ばに差し掛かったとき、残りの人生をどう生きるか」という誰もが通る葛藤と、家族や友人との絆、そして新たな希望を描いた今作の製作秘話や、グローバリズムな作品を過去に手掛けたことで気付いたこと、影響を受けたというドイツ映画などについて阪本監督が語った。

【ストーリー】
とある地方都市のさらに郊外に暮らす高村紘(稲垣吾郎)とその妻・初乃(池脇千鶴)、息子・明(杉田雷麟)の家族は、父から受け継いだ山中の炭焼き窯で備長炭を製炭して暮らしている。ある日、中学からの旧友で、海外派遣されていた自衛隊員の沖山瑛介(長谷川博己)が突然町に帰ってくる。瑛介は妻子と別れて、一人で故郷に戻ってきた様子だった。紘は、同じく同級生で中古車販売業を営む岩井光彦(渋川清彦)も呼び出し、十数年振りに3人で酒を酌み交わす。翌日、3人は廃墟同然だった瑛介の実家を掃除し、瑛介はそこに住み始めるが、故郷に戻ってきた原因を紘も光彦も直接聞けずにいた。しばらくして過去を引きずったまま仕事もしていない瑛介を、紘は自分の仕事に誘い、瑛介も手伝い始めるが……。

画像: 『半世界』
阪本順治監督インタビュー

新たな稲垣くんの魅力を見つけて頂けるんじゃないかなと思います

ーー『エルネスト もう一人のゲバラ』のあと、日本の小さな町を舞台に映画を作りたくなってこの物語を書かれたそうですね。
「『人類資金』でグローバリズムという壮大なものに手を付けて、更にアメリカ、ロシア、タイの三か国でロケ撮影をやって、『団地』で宇宙に行って(笑)、『エルネスト』ではキューバロケで大変な思いをして、次は実家に戻りたいなと思って『半世界』の脚本を書いたんです(笑)。三重県は僕の地元ではないけど、土着の家族であったり、地域性や生産者、生活者という人達をメインで描いた映画を撮りたいと。しかも都市部ではなくて日本の自然の風景の中で生きる人達の話にしたかった。名も無き人の普通の暮らしから物語を立ち上げることは今まで意外とやってこなかったので、映画化を見送っていた炭焼き職人の話と同級生の再会の話をもとに書いていきました」

ーー稲垣さんが炭焼き職人を演じると知って最初は意外に思いましたが、冒頭の自然なお芝居から高村紘という人物にしか見えませんでした。
「企画が立ち上がった時点で炭焼き職人と稲垣くんをかけ算してみたら意外といけるなと思って(笑)。冒頭で紘が車をバックさせて後ろを見るというシーンでまず観客を惹き付けなきゃいけないと思ったのを覚えています」

画像1: 新たな稲垣くんの魅力を見つけて頂けるんじゃないかなと思います

ーー稲垣さんとご一緒されてみていかがでした?
「今作の撮影より前にお会いしたことがありましたし、彼の佇まいは撮影に入っても何か変わるっていうものではなかったように思います。もちろん芝居しているときは体温があがってると思いますけど、待ち時間にふっと稲垣くんを見ると炭焼き職人の雰囲気のまま椅子に座って谷崎潤一郎を読んでいて(笑)。今作で新たな稲垣くんの魅力を見つけて頂けるんじゃないかなと思います」

ーーいっぽう長谷川博己さんが演じた元自衛隊員の瑛介は、闇を抱えたミステリアスな雰囲気で紘とは違う魅力を放っていました。
「最初、長谷川くんは“なんで瑛介役を僕にオファーしてくださったんですか?”と聞いてきました。彼の中では自衛隊員ってマッチョなイメージがあったみたいで。でも瑛介に求めてるのはマッチョな見た目ではなくナイーブでデリケートな元自衛隊員だから長谷川くんに演じて欲しいんだと説明しました。ちなみに今まで色んな自衛官を見てきたけど、みんながみんなマッチョではなかったですよ(笑)」

画像2: 新たな稲垣くんの魅力を見つけて頂けるんじゃないかなと思います

ーー自衛隊員として海外派遣された瑛介の世界も、小さな町であくせく働く紘の世界も同じなんだということをこの映画が教えてくれたように思います。それはきっと海外で映画を撮られてきた経験のある阪本監督だからこそ描けたのではないかと。
「『人類資金』を作ったときに、外交も紛争も全部経済なんだということに気付いたんです。政治に関してもそうだし、ひとつの国が今後どう成り立っていき、どういう風に危機を迎えるかというのも全部経済ですよね。映画監督をやっていてもグローバリズムというのは地続きだから、当然のように世界の流れが一般市民としての僕にも影響が出てくる。今作のメインテーマではないけど、そういうことにも触れています」

ーーグローバリズムにも触れつつ、人間が人間とちゃんとぶつかって本音を伝える事の大切さということも丁寧に描かれていますよね。
「僕も60歳になりましたから、どうしてもそういうことを書いてしまうんです(笑)。冗談抜きで、紘や瑛介とは20歳ぐらい違うけど、59歳の僕が“こうであればいいな”という思いを込めて書いてます。ただ、同じ設定でも若い世代の監督が脚本を書くとまた違ってきますよね。例えば面と向かって思いをぶつけ合うシーンなんかも“ここはメールにするか”とかね(笑)。実際、紘の息子の台詞に関しては“これは今の中学生の台詞じゃないですよ”と周りに指摘されてちょっと直したんです。そういう部分は気をつけないといけない。何故なら今作は郷愁に触れる話でもなく、片田舎の特殊な話でもなく、時代性あっての映画なんだと思いながら撮っていたからです」

ーー小学校や中学校の同級生は高校の同級生とは少し違う気がするのですが、監督の中で“同級生”とはどういうものなのでしょうか?
「僕は中学校の頃が一番面白かったです。というのも、中学って千差万別な個性が集まるし家庭環境もバラバラで生まれも育ちも全く違う人間が同時に思春期を迎えるじゃないですか。それが面白い。例えば暴力団の息子であっても関係なく普通に“僕達は友達だよね”と言い合えたりしますよね。そんな風に大人が気付いてないことを子供は気付いたりするんです」

ーー子供であろうと社会や世界が既に始まってるんですよね。
「そうですね。あと思春期はノンフィクションとフィクションの狭間にいるから現実を見ながらフィクションの世界も持っていたりしますよね。フィクションばかりの小学生時代を経てだんだん理解が進むと、中学生になって現実を知り始めて、更に妄想で生きることもできる。幻想と妄想で遊ぶ世代でもありますよね。高校生になると進学するか就職するかと一気に現実的になる。大人とは違う世界を持っていたりするのも面白いと思います」

画像3: 新たな稲垣くんの魅力を見つけて頂けるんじゃないかなと思います

ーーちなみに思春期や家族を描いた作品で好きな映画はありますか?
「パッと出てきたのは『ガープの世界』(82年)。あとルキノ・ヴィスコンティ監督の『若者のすべて』(60年)も好きです。アラン・ドロン主演で、イタリア南部の貧しい家族が都会のミラノにやってくる話です。ヴィスコンティの『家族の肖像』(74年)で描かれている家族は僕らとかけ離れてるんですけど、『若者のすべて』は日本の昭和初期のオヤジ世代の物語を観ているような気になるというか。ヴィスコンティ作品を見比べてみるのも面白いかもしれませんね」

ーー影響を受けた監督も教えて頂けますか。
「名画座に通っていた大学生のときにマイブームだったのはライナー・ヴェルナー・ファスビンダーやヴェルナー・ヘルツォークなどドイツの映画監督の作品でした。あとイタリアのフェデリコ・フェリーニ監督。フェリーニ作品では『フェリーニのアマルコルド』(73年)が好きです」

ーードイツ映画の魅力を教えて頂けますか。
「基本的に非日常を描いているところ。映画でしか描けない非日常やお伽噺とか。十数年間地下の牢獄に閉じ込められていた男の子の話を描いたヴェルナー・ヘルツォークの『カスパー・ハウザーの謎』(77年)なんかそうですよね。あと実現不可能なことを映画の中で実現してしまうところも面白くて、例えば船が山を登って越えるという驚きのシーンが登場するヴェルナー・ヘルツォーク『フィツカラルド』(82年)もオススメです。こういった作品を観ると、映画でどれだけ観客を異界の中にお連れするかみたいなことを考えてしまいますよね」

ーーいま興味のあるテーマやジャンルではどんなものがありますか?
「AIです。それから、ひとつの宇宙船の中だけで色んな国の宇宙飛行士達のドラマを描くのも面白そうだなと。密室劇のSFですよね。でも、そういう話をするとみんな“え?”って言うんですよ(笑)」

ーー本当ですか?(笑)。個人的には凄く観たいです! SFと言えばライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが『あやつり糸の世界』(73年)で仮想現実の世界を描いていて、あの時代にああいう映画を作っていたなんてと驚きます。
「スタンリー・キューブリックの作品もそうですよね、ああいう作品はある種の現代批判にもなっているのではないかと。ちなみに『団地』(16年)はSFコメディ映画と言われてますけど違いますから。あれは“阪本藤山”(主演が藤山直美)を略してSFなんです(笑)」

ーーそうだったんですか!!
「みんなそういう反応してビックリするんですよ(笑)。『半世界』で土着の物語を撮れたので、今後はまた色んなところに飛んで行くかもしれません(笑)。そしていつか密室劇のSF作品やAIを扱った作品を撮るかもしれないので、そのときを楽しみに待っていてください」

(インタビュアー・文/奥村百恵)

『半世界』
2019年2月15日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
脚本・監督:阪本順治
出演:稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦、ほか
配給:キノフィルムズ 
©2018「半世界」FILM PARTNERS

画像: 『半世界』本予告 2019年2月公開 youtu.be

『半世界』本予告 2019年2月公開

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