毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均40本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が〝最高品質〞の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画は前代未聞の実話を名匠スパイク・リー監督が映画化し、アカデミー賞脚色賞に輝いた「ブラック・クランズマン」です。

今月の1本:
「ブラック・クランズマン」

1979年に白人至上主義の過激派団体KKKに大胆な潜入捜査を試みた黒人刑事の前代未聞の実話を、「ドゥ・ザ・ライト・シング」「マルコムX」などの名匠スパイク・リー監督が映画化。名優デンゼル・ワシントンの息子ジョン・デーヴィッド・ワシントンが主演を務め、相棒の白人刑事を「スター・ウォーズ」シリーズ新3部作のアダム・ドライヴァーが演じる。本年度アカデミー賞では作品賞をはじめ6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞した。

>>くわしい作品情報はこちらから

BlacKkKlansman 2018年
監督/スパイク・リー
出演/ジョン・デイヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー

2019年3月22日(金)公開
©2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

おれでは早速、編集部レビュー!

彼らはどこまで壁を作れば気が済むんだろう

黒人刑事がKKKに潜入!ってどんなコメディーだよ!?と見に行ったら、骨の髄までガツンとやられる社会派映画。監督はスパイク・リーだし…って、先月の「グリーンブック」の原稿のパクリじゃないよ。でもこの2本、共に人種問題を描きながら、片や友情は壁を打ち破り片やヘイトは壁を強固にする、その終着点が全く違う。

とりわけ狂信的ともいえる白人至上主義者の夫婦が出てくるあたりから、ヘイトのキナ臭さはぐんぐん加速する。この人たちの理屈がとにかくわからない。黒人嫌い、ユダヤ人もっと嫌い、ここは俺たちの国で、神様もそう言っているとか、眩暈でクラクラしてくる。

主演の二人が独特の緩さを持っていて、それがいい中和剤になっているのだが、ふっと気を抜いていると最後に爆弾が用意されている。エンドロールに技アリなのも「グリーンブック」と同じだ。

レビュワー:近藤邦彦

編集長。オープニングに「風と共に去りぬ」、最後の方に「国民の創生」。これまで深く考えずに見ていてすみませんでした。

監督の姿が主人公と重なって見えてくる

『アメリカ・ファースト!』という劇中の台詞にハッとした。「これって70年代の話じゃないっけ?」と。過去の物語がどこかで今とリンクしていく。監督のメッセージが強烈に胸に突き刺さる。

本作の基になったのは、実際にKKKに潜入捜査した黒人刑事の回顧録。それ自体十分突飛で興味をひく話だけれど、脚色にあたり監督は二つのひねりを加えた。一つは物語にユーモアをこめること。もう一つが主人公を取り巻く70年代の人種間の緊張を、今の状況と結びつけることだ。印象的なのがラストシーン。そこで監督は過去に学ばず一向に変化しない現代のアメリカを糾弾するのだ。

KKKに一泡吹かせる主人公が痛烈なメッセージを発する監督と重なって見えてくる。これは闘う者の映画なのだ。絶望の中で闘いは続く。“楽しませる”映画でもありながら心には熱いものが残る。

レビュワー:疋田周平

副編集長。パトリス役のローラ・ハリアーはあとになって新「スパイダーマン」の子だと気づきました。彼女の役は架空の人物だそうです。

デンゼル・ワシントンに全然似ていない息子

ご子息ということで、どうしてもデンゼルの面影を探してしまいますが、どうやら母親似のよう。これは将来デンゼルの伝記映画が出来ても演じられないなと余計なお世話までしてしまいました。

でも逆に言えば、父親とは違う新たな個性があるということ。潜入捜査のため勢いでKKKに電話をかけてしまうような意気盛んな若者を自然に演じていて、実話ということもありドキュメンタリーご子息ということで、どうしてもデンゼルの面影を探してしまいますが、どうやら母親似のよう。これは将来デンゼルの伝記映画が出来ても演じられないなと余計なお世話までしてしまいました。でも逆に言えば、父親とは違う新たな個性があるということ。潜入捜査のため勢いでKKKに電話をかけてしまうような意気盛んな若者を自然に演じていて、実話ということもありドキュメンタリーみたいな感覚で楽しめます。

怪しい儀式のシーンなどKKK内部の様子も興味深い。映画では多少コミカルに演じていて、その極端な姿に笑ってしまう部分もあるけど、彼らはいたって真面目に活動していることを考えるとなんとも恐ろしい。そして現在もそういう人たちがいて、決して過去の話ではないと最後に強烈に示してくるあたりが、監督の変わらない姿勢なのだと考えさせられました。

レビュワー:阿部知佐子

KKKの支部長を演じていたライアン・エッゴールドがイケメンなんだけど不気味。「ブラックリスト」の俳優さんなんですね。

アダム・ドライバーの魅力について考える

出演作を欠かさずチェックしたい俳優さん、アダム・ドライバー。2017年の「ローガン・ラッキー」以来のアダムを堪能する作品と(勝手に)位置づけて楽しみにしていました(スター・ウォーズは彼の魅力がまだ出ていない気がするので…)。

本作は潜入捜査の相棒フリップという役どころ。とはいえ、見た目はいつも通りのアダムなんです。髪型もヒゲも「ローガン・ラッキー」のクライドとほぼほぼ一緒!

そしてこれまたいつものアダムと言えなくもない、淡々と飄々とした性格のフリップ。しかしそれがお調子者のロンと名コンビになっていていい味が出ているんです。

ここがすごい、あの演技がすごい、とハッキリ言えるわけではないのに、気づいたら虜&またあの空気感に触れたいと思わせられる。じわじわと、噛めば噛むほど味が出る、不思議な魅力の俳優さんだなとあらためて実感しました。

レビュワー:中久喜涼子

マイ・ベスト・アダム作品は「パターソン」なんですが、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」のアルもツボ。ほんの少しの出番なのにあの存在感は衝撃です。

シリアスなテーマをライトなノリでコーティング

画像: シリアスなテーマをライトなノリでコーティング

KKKのことは教科書で知った。“秘密結社”という響きになぜか胸が高鳴ったのを記憶している。

D・ワシントンの愛息ジョン演じる黒人刑事ロンはKKKへの潜入を試みるも、署内でさえ人種差別がはびこる時代。同僚の白人フリップに白羽の矢が立つが、彼もまたKKKが差別するユダヤ系だった…この作品の成功理由の一つは重い題材ながらもツッコミポイント満載なところではないか。映画の深部とは離れるが、フリップがロンの声マネを練習する場面は私的ハイライト。イイ声すぎて寄せる気配すらない。入会審査が拍子抜けするほどザル(こんなにもメジャーな“秘密”って…)等々。

全体的にポップなノリでコーティングされているが、中心にあるのはリー監督の怒りと願い。アカデミー賞授賞式で監督のスピーチを見守る黒人俳優の表情を見た時、それが実を結んだと感じた。

レビュワー:鈴木涼子

KKK構成員フェリックスのなるべく関わりたくないあの感じ、誰かと重なると思ったら「トレインスポッティング」のベグビーでした(風貌も激似)。

恐怖の対象というより滑稽なものとしてKKKを皮肉る

本作の冒頭に出てくる「風と共に去りぬ」を初めて見た時、ここに登場するKKKについて何も知らない子どもだったので、アシュリーは何をやっているのか今一つピンとこなかったことを思い出した。後にテレンス・ヤング監督の「クランスマン」を見てようやく認知したのだけど、そこで出てくるKKKのように大概の映画では恐ろしい謎の集団として描かれる。

時代によってこの集団の描かれ方は変化しているのかも、と思わされたのは、「ブラック・クランズマン」は実話サスペンスを謳いながらもどこかコミカル。スパイク・リーは恐怖の対象というより、滑稽なものとしてKKKを皮肉っているように感じられた。といっても監督の人種差別に対する怒りはまだ消えていないのはわかる。実話なんだけど、かなり脚色されているという話(オスカー受賞!)を聞くと、成程ねと思う。

レビュワー:米崎明宏

「風」はともかく、もう一つ出てくる「国民の創生」(の一部)はこう見せられるとかなりアナクロ。リーは映画の父グリフィスにも怒っている。

>>アカデミー賞脚色賞受賞!「ブラック・クランズマン」ストーリー&登場人物大公開!

This article is a sponsored article by
''.