日本でも初公開時に劇中の楽曲と合わせて一大ブームを呼んだ「卒業」が「4K デジタル修復版」で、2019年6月7日(金)より東京・角川シネマ有楽町ほかにて全国公開される。

並み居る大作、話題作をおさえてその年の映画ファンが選ぶ第1位に

このたび久々に4Kバージョンでリバイバル公開される青春映画の不朽の名作「卒業」が日本で初公開された1968年は、本作だけでなく、後に映画史に名を残すような数々の傑作が生まれた年だった。

画像: 「卒業」のポスター

「卒業」のポスター

「卒業」と共にアメリカン・ニューシネマを代表する「俺たちに明日はない」、スタンリー・キューブリック監督のSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」、もうひとつのSF映画の古典「猿の惑星」、シェイクスピアの古典に現代の新たな息吹を吹き込んだ「ロミオとジュリエット」……さらには当時絶大な人気を誇ったオードリー・ヘプバーン主演のサスペンス「暗くなるまで待って」、スティーブ・マックイーン主演のアクション「ブリット」、アラン・ドロンがチャールズ・ブロンソンと共演した「さらば友よ」などもこの年の大ヒット作だ。

そんな数ある傑作、話題作をおしのけ、映画雑誌SCREENの読者投票でその年のナンバーワン映画に選出されたのが「卒業」だった。監督は当時気鋭のマイク・ニコルズ、俳優はこれが初映画のダスティン・ホフマン。これだけの名作が公開された年、一般の映画ファンが最も愛した作品となった「卒業」とはどんな映画だったのか、いま再び振り返ってみよう。

耳に残るサイモン&ガーファンクルの“サウンド・オブ・サイレンス”などの名曲

おそらく日本の映画界はこの作品がそこまで大当たりするとは最初は思っていなかったのかもしれない。まず本国アメリカでは、これは青春映画というよりも艶笑コメディにちかいノリで扱われていた節があること。ごく単純にこの映画の筋を追うと、エリート大学を出たばかりのお坊ちゃまが、百戦錬磨の人妻の誘惑に負け、彼女の夫の目を盗んでのアバンチュールに励むが、図らずもその人妻の娘とデートしたことから、純粋な娘の方に本気の恋をしてしまうという流れ。

公開直前のSCREENの映画批評欄でもこの作品を“青春ラブストーリー”ではなく、“新感覚の青春セックス喜劇”と称していることでもわかるかもしれない。アメリカ人や批評家はこれを喜劇と見て、日本の興行界をにぎわすほどの作品には思われなかったのかもしれないが、少なくとも日本の若者は無気力な主人公の青年ベンジャミンが本気の恋に目覚める“今どき”のラブストーリーと見たのだ。

画像: 人妻との不倫から始まる一人の青年の成長物語 ©1967STUDIOCANAL. All Rights reserved.

人妻との不倫から始まる一人の青年の成長物語 ©1967STUDIOCANAL. All Rights reserved.

ちなみに当時のSCREENに、俳優・タレントの関口宏さんが「卒業」を見た後の爽快な感動を語る文章を寄せているが、まさに若い世代の観客の代表といえるコメントで、『ベンジャミンはもうひとりの僕だった』と評しているあたりは、主人公が圧倒的にリアルな存在だったことを示している。

しかも映画の背後にかかるサウンドトラックがサイモン&ガーファンクルの“サウンド・オブ・サイレンス”“スカボロー・フェア”、本作のために唯一作られた"ミセス・ロビンソン”といった名曲。さらに気鋭の監督二コルズの現代アメリカ社会を皮肉ったようなクールな演出の魅力もあいまって、これは大人が頭で考える映画ではなく、若者が肌で感じる映画になったのだろう。

映画評論家・荻昌弘さんは「卒業」の大入りぶりを見て大変に驚き、『今後映画界の古い常識が、二重の意味で若い観客から裏切られつづけてゆくだろうことを、私に予測させる』と明言したヒット分析をSCREENに寄稿している。

ハリウッドを代表する名優ダスティン・ホフマンを一躍スターにした出世作

そしてこの作品で注目されたのも若い世代の俳優だった。アメリカ本国では初公開時に有名だったのはミセス・ロビンソンを演じたアン・バンクロフトのみ。ベンジャミン役のホフマンは舞台では名が知れていたが、映画はこれがデビュー作。エレイン役のキャサリン・ロスもこれといった代表作のない新人だった。この三人はそろってアカデミー賞にノミネートされる好演を見せ、特に新人二人が脚光を浴びた。

画像: この作品で人気を博したキャサリン・ロスとダスティン・ホフマン ©1967STUDIOCANAL. All Rights reserved.

この作品で人気を博したキャサリン・ロスとダスティン・ホフマン ©1967STUDIOCANAL. All Rights reserved.

ホフマンが演じたベンジャミンはキャサリン演じるエレインとの初デートで、あろうことか純真な彼女をわざといかがわしい場所に連れて行き、ショックを受けたエレインはハラハラと涙を流すという印象的なシーンを覚えている方も多いかもしれない。そしてさらなる名シーンは映画のラスト。

エレインは他の男性と結婚式を挙げることになるが、あきらめきれないベンジャミンは式場まで駆けつけ、高窓から今まさに愛の誓いをする寸前のエレインに向って彼女の名を呼び、エレインも『ベン!』と呼び返す。その後の誰も止められぬ逃避行に若い観客は誰もが共感を覚え、これらはダスティン・ホフマンとキャサリン・ロスが生み出した今も語り継がれる愛の名シーンになっている。

画像: 今も語り継がれる名ラストシーン ©1967STUDIOCANAL. All Rights reserved.

今も語り継がれる名ラストシーン ©1967STUDIOCANAL. All Rights reserved.

こうしたホフマンの演技力を当時映画評論家の淀川長治さんは『もう演技は完璧』と絶賛。彼はこの後「真夜中のカーボーイ」「小さな巨人」「パピヨン」「レニー・ブルース」「大統領の陰謀」など次々名作に出演。「クレイマー、クレイマー」でついに初のアカデミー主演男優賞を受賞し、アメリカを代表する名優に躍り出た。

一方キャサリン・ロスもいきなりSCREENの年間人気女優第3位に登場。以後も「明日に向って撃て!」「愛のさざなみ」「さすらいの航海」などで長く日本の映画ファンに愛される女優になった。ドロンのような二枚目でも、マックイーンのようなアクション派でも、オードリーのような妖精的な女優でもない、こうしたリアルタイプのスターが誕生していくことも新鮮だった。

それまでの映画界の常識を覆すアメリカン・ニューシネマのうねりが高まりつつある時に、ハリウッドの若い力によってごく自然に生みだされた傑作「卒業」。今回の上映は4Kデジタルリマスター版なので、その美しい映像に新たな発見もあるかもしれない。当時心を揺さぶられた世代も、タイトルだけしか知らない世代も本作を今一度見返す価値は充分だ。

また同時にリバイバルされる「小さな恋のメロディ」も、「卒業」より一つ下の若い世代が、まさに“発見”した名作。こちらも正式なリバイバルは久々なので、ぜひ劇場に駆け付けたい。

「卒業 4Kデジタル修復版」
2019年6月7日(金)、角川シネマ有楽町ほか全国公開
配給:KADOKAWA
©1967 STUDIOCANAL. All Rights reserved.

【同時上映】日本人のハートを虜にした「小さな恋のメロディ」が帰ってくる!
こちらから詳しくどうぞ

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