第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞するなど、国内外で圧倒的評価と人気を誇る映画監督・黒沢清が、1か月におよぶオール海外ロケに挑んで完成させた『旅のおわり世界のはじまり』。黒沢清監督のSCREEN ONLINE単独インタビューを2回に分けてお届けする。

【ストーリー】

舞台は中央アジア、ウズベキスタン。バラエティ番組のリポーターを務める葉子(前田敦子)は巨大な湖に棲む“幻の怪魚”を探すため、かつてシルクロードの中心地として栄えたこの地を訪れた。胸に秘めた夢は、歌うこと。その情熱を心の底に押し込めて、目の前の仕事を懸命にこなしている。収録を重ねるが、約束どおりにはいかない異国でのロケで、苛立ちを募らせるスタッフ(加瀬 亮、染谷将太、柄本時生)。ある日の収録後、ひとり街に出た葉子は導かれるように美しい装飾の施された劇場に迷い込む。そして扉の先で、夢と現実が交差する不思議な経験をする──。
心の居場所を見失った主人公が、旅の果てで出会ったものとは……?

画像: 『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清監督インタビューVol.1

“撮影クルーの話”は僕にとって凄く身近な題材ではあるけれど、
これまでフィクションとして取り上げたことがなかった

主人公・葉子を演じるのは、『Seventh Code』(14年公開)、『散歩する侵略者』(17年公開)に続き三度目の黒沢組参加となる前田敦子。また、葉子と行動を共にする番組クルーを演じているのは、加瀬亮、染谷将太、柄本時生という演技派たちをキャストに迎え、雄大なシルクロードを舞台に描く旅の物語が完成。

“舞台で歌う”という夢を胸に秘めたテレビリポーターの主人公が、番組クルーと取材のため異国を訪れ、その地での様々な出会いによって、新しい扉をひらき、成長していく姿を描く。インタビュー第一弾ではウズベキスタンの撮影秘話や前田敦子の女優としての魅力などを語ってくれた。

ーーどういった経緯で今作を撮ることになったのでしょうか?

「これまでは原作ものであったり、ホラーというジャンルで映画を制作して欲しいというオーダーがあったんですけど、今回はウズベキスタンで撮るということだけ決まっていて、あとは好きに作って良いという状況でした。だからと言って新しいものに挑戦するというハッキリした意図はなかったのですが、これまでやったことがないようなものに自然となっていきました。

物語に関しては、“撮影クルーの話”は僕にとって凄く身近な題材ではあるけれど、これまでフィクションとして取り上げたことがなかったんです。ウズベキスタンという場所での撮影も初めてでしたし、とてもフレッシュな気持ちで挑ませて頂きました」

ーースクリーンに映るウズベキスタンの街はどこもとても魅力的で実際に訪れてみたくなりました。

「そう言って頂けるのは嬉しいです(笑)。これまでの作品はほとんど東京近郊で撮影していたので、どこも見慣れた景色のせいかロケハンで“ここは違う”“あそこも違う”の繰り返しだったんです。ここなら面白くなりそうだという場所を探すのに毎回相当苦労していましたが、ウズベキスタンはどんな場所も面白くて“こっちもいいね”“あっちもいいね”と、撮りたい場所がどんどん増えていくような状況でした(笑)」

画像1: “撮影クルーの話”は僕にとって凄く身近な題材ではあるけれど、 これまでフィクションとして取り上げたことがなかった

ーー葉子が1人で外出する場面も多いので、撮りたい場所が増えてもうまく活用できたのではありませんか?

「それはありますね。あとは実際にウズベキスタンを訪れるまでバザールのような場所があることを知らなかったんですけど、あの場所を使わせてもらえて良かったなと。通常は撮影の許可があまりおりないらしいのですが、外国人の強みで無理を言いまして(笑)。そしたらバザールの奥のほうまで使わせて頂けることになったので、とてもありがたかったです」

ーーバザールの中を葉子が彷徨うシーンは臨場感がありました。

「撮影許可は出たものの、当日まで本当に使えるかどうか確かではなかったので少しハラハラしました(笑)。あのシーンは大勢のエキストラさんに参加して頂いたんですけど、撮影しているうちに誰がエキストラで誰が本物のバザールのお客さんなのかわからなくなってしまって(笑)。建前上はエキストラの方以外はあまり映してはいけないという規制があったのですが、そんな状況だったので一般の方も映りまくっています(笑)」

画像2: “撮影クルーの話”は僕にとって凄く身近な題材ではあるけれど、 これまでフィクションとして取り上げたことがなかった

ーー現地のエキストラさんの方々だけではなく、通訳兼コーディネーターのテムル役を演じたアディズ・ラジャボフさんも素晴らしいお芝居をされていました。

「アディズさんはウズベキスタンの人気俳優なんですけど、今作に参加するにあたり難しい日本語を自主練習含めかなり特訓して挑んでくださいました。これまで日本語なんてほとんど聞いたことなかったんじゃないかなと思いますけど、完璧な芝居をしてくれましたね。そういう意味ではエキストラ含めウズベキスタンの方々はみんな一生懸命に頑張ってくれていたと思います。ちゃんと時間通りに現場に来て、こちらの指示通りに動いてくれたので非常にスムーズでした」

画像: Photo by 森田ツクル

Photo by 森田ツクル

ーー主人公の葉子を演じた前田敦子さんとは、映画では3度目のタッグとなりますが、前田さんに当て書きをして脚本を書かれたのでしょうか?

「当て書きということではないのですが、葉子のイメージは初期の段階から前田さんでした。だから受けてくださると聞いたときはホっとしましたよ(笑)。むかし彼女がグループで活動されているのと見た時に、どこか他の人達と一線引いているような、孤高であり孤立している印象を受けたんです。持って生まれた強烈な個性といいますか、他とは一線を画している感じがする。だからこそ彼女にしかない独特な魅力があると思います」

画像3: “撮影クルーの話”は僕にとって凄く身近な題材ではあるけれど、 これまでフィクションとして取り上げたことがなかった

ーー劇中、現地の人に葉子が少女だと勘違いされるシーンがありますが、確かに少女のように見える瞬間もあれば、大人の女性らしさが垣間見える場面もあって、その両方を表現できるのは凄いなと感じました。

「葉子がウズベキスタンで色んな目に遭うということも影響しているかもしれませんが、そうことを抜きにしても前田さんは色々な雰囲気を出せる方なんです。だけど芯はぶれない。彼女が意図的に変えて演じてらっしゃるのか、自然に演じながら繊細な違いを見せることができたのか、それは僕にはわからないですけど素晴らしい女優さんだと思います」

画像4: “撮影クルーの話”は僕にとって凄く身近な題材ではあるけれど、 これまでフィクションとして取り上げたことがなかった

ーー加瀬亮さん、染谷将太さん、柄本時生さんが演じたテレビクルーがそれぞれリアルにいそうなキャラクターで面白かったです。

「彼らはテレビや映画など色んな現場を経験していますから、これまで出会った実在する誰かを元にそれぞれ演じられたのではないかなと思います」

画像5: “撮影クルーの話”は僕にとって凄く身近な題材ではあるけれど、 これまでフィクションとして取り上げたことがなかった

ーー染谷さんが、「ディレクターの吉岡は監督をイメージして演じた」とプレス資料のインタビューでおっしゃっていました。

「決して僕を参考にしてくださいとは言ってないんです(笑)。どこか自分が吉岡に反映されている部分はあるとは思いますが、似ているとは思っていません(笑)」

ーー染谷さんが参考にしたのは“佇まいの部分”だそうです(笑)。

「そうでしたか(笑)。僕の中でバラエティ番組のディレクターは、優柔不断でなかなか決断できないくせに変なところに意固地になって、撮影を停滞させるというイメージがあるんです。もちろん優秀なディレクターも沢山いるとは思いますが。染谷くんもその辺はよくわかっていて、“ああいうディレクターっているよな”という感じを楽しんで演じられたのではないかなと思います」

ーー劇中ではバラエティ番組ならではのハプニングやトラブルが起こりますが、監督ご自身はトラブルに遭遇した際にはどのように対処されているのでしょうか?

「それは時々聞かれますが、実はこれまで自身の撮影現場で何かトラブルが起きたという記憶はほとんどないんです。というか、トラブルが起きないように準備するのがプロの仕事だと思います。もちろん全くないわけではなくて、ちょっとしたトラブルがあったことを後から聞くこともあります。

でも僕がやらなければいけないのはその日の撮影をきちんと進めていくことなので、撮影が止まってしまうほどのトラブルが起きないようにしっかりと準備するのが当たり前といいますか、そういったことがないようにスタッフもプロフェッショナルな仕事をしてくれています。というわけで毎回順調に撮影が進むのでこれといった面白い話はないのですが、今後もトラブルは起きないようにしたいです(笑)」

画像6: “撮影クルーの話”は僕にとって凄く身近な題材ではあるけれど、 これまでフィクションとして取り上げたことがなかった

近日中にインタビュー第二弾をお届けします。

(インタビュアー・文/奥村百恵)

『旅のおわり世界のはじまり』
2019年6月14日(金)全国ロードショー
監督・脚本:黒沢 清
出演:前田敦子、加瀬 亮、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフ
配給:東京テアトル
©2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

画像: 映画『旅のおわり世界のはじまり』予告編(6/14公開) youtu.be

映画『旅のおわり世界のはじまり』予告編(6/14公開)

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