世界23カ国で翻訳されたベストセラーを映画化した感動作『風をつかまえた少年』が2019年8月2日(金)より全国公開。本作で初監督に挑んだ俳優のキウェテル・イジョフォーがインタビューに応じた。

“電気を起こす風車”で村を救った14歳の少年の奇跡の実話

本作は、2001年に大きな干ばつが襲ったアフリカの最貧国のひとつマラウイを舞台に、飢饉による貧困のため通学を断念した14歳の少年ウィリアム・カムクワンバが、図書館で出会った一冊の本を元に、独学で廃品を利用した風力発電を作り上げ、家族と自身の未来を切り開いた奇跡の実話の映画化。

ウィリアムのこの体験をもとにした本「風をつかまえた少年」(文藝春秋刊)は、瞬く間に話題となり世界23カ国で翻訳。アル・ゴア米元副大統領や日本でも池上彰氏が絶賛を寄せている。

この実話に惚れ込んだ一人が、アカデミー賞受賞『それでも夜は明ける』で主演を務めた俳優キウェテル・イジョフォーだ。映画化を決意した彼は構想10年をかけ、本作で長編映画監督デビューを果たした。また自ら少年の父親役で出演も兼任している。

実際に実話の舞台となったマラウイで行なったという撮影の苦労や、世界中の人々を感動の渦に巻き込んでいる本作に込めたメッセ―ジについて語ってくれた。

画像1: “電気を起こす風車”で村を救った14歳の少年の奇跡の実話
画像2: “電気を起こす風車”で村を救った14歳の少年の奇跡の実話

現地での撮影で一番大変だったのはインフラがなかったこと

——本作で描かれる父子の関係が感動的でしたが、あなたにとっての理想の父親像とはどのようなものでしょうか? また父親を演じる上で影響を受けた人物はいますか?

『自分にとって大きなインスピレーションは自分の父親。実は11歳の時に父を亡くしているのだけど、特に父親と息子の関係となると、やはり自分と父の関係に想いを馳せていた。父親と息子の関係については、いかに一つの世代から一つの世代へと情報が語り継がれていくのかということに興味がある。自分は父を亡くして30年経っているけれども、その間、父との関係性は進化し続けたし、変化もし続けている。父親自体は存在していないのに、そういう関係性(絆)は強いものが残っているんだよね。そのあたりを掘り下げることに興味があるんだ』

——実際の舞台であるマラウイで撮影を行なったそうですが、これまでほとんど映画が撮影されたことのない土地での撮影は大変だったのではないですか?

『一番大変だったのはインフラがなかったこと。この規模の映画がマラウイで作られたことは今までなかったので、当然外から機材やスタッフを持ち込まなければいけなかった。でもそのおかげでとてもインターナショナルな現場になったんだよね。キャストにも現地マラウイの方に多く参加していただいたし、スタッフのどの部署にもマラウイの方が参加してくれた。

また外国からはケニアとか南アフリカ、ブラジル、イギリスから参加してくれていて、すごくインターナショナルな空気感が生まれた。すごくそれは良かったんじゃないかなと思っている。参加してくれた全員がワクワクしながら感動してこの少年の物語をみなさんに届けたいという気持ちを持っていたから。

マラウイで撮影するという選択をしたことで、この現地のコミュニティの方に参加してもらえることにもなった。沢山のエキストラの方が参加してくれたシーンなど、マラウイでなければ撮影が不可能だったシーンも多くある。それは、場所に対する理解が必要だったから。

例えば、大統領がやってくるシーンはエキストラが1000人くらいいたのだけれど、マラウイの方たちが参加してくれなければ撮れなかったシーンだと思っている。当時の政治的側面がどうだったのか知らなければ生まれなかったシーンだと思うし、実際にウィンべの首長がああいう風に暴力を受けていることは事実で、その瞬間を経験している人も沢山参加してくれた。

だから、あのシーンを撮っているときの群衆のリアクションや、歌や踊りがすごくリアルだし、この作品のリアルさはやはり、マラウイで撮る選択をしてからこそ得ることができたんだと思う。もしこれが他の国で撮影していて、マラウイの状況を説明して撮ったようなものであれば、きっとこの作品のそういった部分というのがなくなってしまったと思うから、リアルに描くためにはやはりマラウイで撮ることが必要だったんだよね』

——この作品での役者として監督としての経験は、今後のご自身の活動にどのような影響を与えると思いますか?

『自分にとっては演じることも、監督することも脚本を書くことも、ある意味全部同じプロセス。今回ラッキーだったのは、この物語に惚れ込むことができて、製作する中で出会ったみんなもこのストーリーに惚れ込んでくれて、みんなでこれを映画として表現したいと思ってくれたこと。これは僕にとっては重要なこと。簡単なことではないから。

もし自分が強い共感と愛がなければ作れなかったと思うし、それが僕にはあったから、この作品を作ることが可能だったと思う。どんなクリエイティブなことであっても、そういうエネルギーというものを持ちたいものだし、何かクリエイティブなことをするのであれば、同じように情熱と愛と強い思い入れを感じられる、そのくらいの気持ちを持ちたいものだから。それがあればどんなことがあっても乗り越えていけるからね。

でもこれが僕の初監督作品だったことは僕は運が良かったと思う。自分が思い入れることができた作品だったし。甘やかされちゃったところがあって、これからの企画も同じような気持ちを持てたらなと思うんだよね』

——今後はどのような作品を監督として手掛けてみたいですか?

『全部をひとつのキャリアとして捉えているし、こういったタイプの作品をつくりたい、とかは思っていないんだ。役者としてもこういうタイプの映画に出たい、と思ったことは一度もない。いろんなジャンルに惹かれるし、掘り下げていきたい。いろんなジャンルに参加することで、自分のクリエイティビティや、心理、エンターテイメント、楽しさといったものを探求していきたいと思っているんだ。脚本、監督についても同じようにアプローチしたいと思っているんだよね。

だから、「これ」っていうジャンルは特にないし、本当にその瞬間ごとに、誠実に、クリエイティブな形でアピールしてくるものかどうか、という感じなんだ。それは予測できないものだ。例えば脚本を読んでいるときや本を読んでいるときに、五臓六腑で感じるものかどうか、みたいな。それで初めてわかることなんだよね』

——最後にこの映画を通して伝えたいメッセージを教えて頂けますか?

『この映画でテーマ的に大きいのは教育であったり、不屈の努力であったり、家族の絆、ルーツ、歴史であったり、いかに人間が進化をする能力を持っているのかということだと思うんだ。言い換えれば、我々は前に進むために過去を切り捨てる必要はないということなんだよね。

自分の愛する伝統的な過去というものを損なわずに、私たちは前に進む新しい道を見つけられるはずだから。ある意味そのバランスをいかに見つけるかということだと思うんだ。文化的な自分のルーツというものを断絶せずに、新しい時代に向けて私たちは進んでいける。

そう思っているからこそ、映画の最後にグレワムクル(儀式的な舞踊)が登場しているんだ。言い換えれば、私たちの過去というのは私たちのこれからの未来の一部になっていいと思っていて、僕が感じたテーマ性というのを観客の方にも感じてもらえたらありがたいよ』

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風をつかまえた少年
2019年8月2日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 他全国順次公開
配給:ロングライド
© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

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