現在世界中で大ヒットを記録している「ジョーカー」。本作の何がそんなに観客の心をざわつかせているのでしょう。本誌でお馴染みの3人の評論家の方々に、それぞれの見地から、『この衝撃作の裏側に隠されているものは何か?』を語っていただく深掘りレビュー特集をお届けします。今回は過去の名作映画からエンターテインメント新作までに通じているベテランの久保田明先生が見た「ジョーカー」評。

「ジョーカー」
ワーナー・ブラザース映画/公開中
© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

「バットマン」シリーズのヴィランとして知られる“ジョーカー”。この悪の権化が実は元々孤独な青年だったというオリジナルの視点で描き出すトッド・フィリップス監督作。
作品紹介はこちら

一人の孤独な青年が悪の権化になっていく怒りの中に『狂っているのは何か?』を問う

何故ワーナーのロゴマークに昔のものを使っているのか?

「ジョーカー」オープニングのワーナー・ブラザース映画のロゴを見て、あれれ、「ハリー・ポッター」シリーズとかの見慣れたものと違うぞ、と思った方も少なくないだろう。これは1923年設立のワーナー・ブラザース映画で、1972年から1984年にかけて使用された第十代のデザイン。古くからのファンにとっては「燃えよドラゴン」やクリント・イーストウッドの「ガントレット」などに使われていた懐かしいもので、この時期だけが雲の背景にWBの文字が刻まれた盾が浮かぶ基本のデザインと全くちがう。

赤地、或いは黒の地に、簡略化されたWのマークが貼られたシンプルな図案。このワーナー社のロゴを手がけたのはヒッチコックの「サイコ」やロバート・ワイズ監督の「ウェスト・サイド物語」などのタイトル・デザインで一世を風靡した名グラフィック・アーティストのソール・バスだ。

活字書体を大胆に扱うバスの手法は、JOKERの5文字が画面一杯に広がる「ジョーカー」のレトロなタイトル・デザインにも影響を与えているはず。一時期だけ使用されたワーナー・ブラザース社のロゴで始まる話題の新作。トッド・フィリップス監督は、なぜこんな演出を施したのだろうか。

画像: 孤独な日々を送っている青年アーサー (ホアキン・フェニックス)

孤独な日々を送っている青年アーサー
(ホアキン・フェニックス)

時代設定が明かされぬ「ジョーカー」だけれど、監督は前述の十余年間(1972年~1984年)を背景に考え魔都ゴッサム・シティとヴィランのジョーカー誕生を組み上げているのだ。

来年のアカデミー賞で作品、主演男優賞ノミネートは確実。脚本と編集賞の候補にもなるかもしれない。怪物的な名演なのでホアキン・フェニックスの初受賞を願うけれど、作品のキーパーソンになっているのは、ホアキン演じるコメディアン志望の青年アーサーが憧れるトーク番組の司会者に扮するロバート・デニーロだ。うわ。こう来たかとビックリし、不穏な気配にヒヤヒヤし、終盤にはやっぱりこうなるよね、と納得した。

アーサーが敬愛するTV番組の司会者(ロバート・デニーロ)の一言がアーサーの運命を変えていく

This article is a sponsored article by
''.