最新インタビューを通して編集部が特に注目する一人に光をあてる“今月の顔”。今回取り上げるのは、話題作への出演が続くユアン・マグレガー。傑作ホラー「シャイニング」の続編「ドクター・スリープ」で大人になった少年ダニーを演じる彼が、原作者スティーヴン・キングへの思いなどを語った。

ユアン・マクレガー
1990年代に映画界へ進出以来、「スター・ウォーズ」新三部作のオビ=ワン・ケノービなど、国際的に活躍する英国屈指の実力派。20年3月には自身初となるアメコミ作品「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」でヴィラン役に挑戦する。1971年3月31日スコットランド生まれの48歳。

アルコール依存の役を演じるのは、長らく酒を飲んでいない僕にとっては奇妙な気分だったよ

Photo by Jon Kopaloff/Getty Images,

「トレインスポッティング」で向こう見ずなヘロイン中毒者を演じ、世界中の若者を魅了したユアン・マグレガー。以来、途切れることなくコンスタントに出演作を重ね、年代に寄り添いながら様々なキャラクターを演じてきた。

40代も後半に差し掛かり、色気と渋みが似合う男性となった彼が新たに選んだのは、スティーヴン・キングの最高傑作として語り継がれる「シャイニング」の続編「ドクター・スリープ」。シリーズもの以外、自著の続編を書かないスティーヴン・キングがあえて挑んだ続編小説を、Netflix映画「ジェラルドのゲーム」でもキング作品の監督を務めたマイク・フラナガンが実写化した。本作でユアンは40年前に雪山のホテルで父親に殺されかけたトラウマを持ったまま成長したダニーを演じている。

──あなたが「シャイニング」を初めて見たのはいつですか。

『1980年に「シャイニング」が公開された時、僕は9歳だった。周りの人々が史上もっとも怖い映画として話していたことは覚えているよ。だから見なかったんだ。僕は怖がらせられることが苦手だったからね。初めて見たのは16歳か17歳の頃、演劇学校にいた時だったと思うよ』

──本作のオファーを受けた時の心境を教えてください。

『興味を持つと同時にうまくいくのかな?とも思った。その時はスティーヴン・キングが書いた原作本があるのを知らなかったし。「FARGO/ファーゴ」(テレビドラマ版)の時にも似ているね。あの話が来た時もうまくいくのか?と疑問を抱いたんだよ。でも脚本を読んで“これはいい。前と違う”と思ったんだ。

今回もそう。「シャイニング」は閉鎖的で、雪山のホテルに3人のキャラクターがいる。一方でこの映画は、もっと広々としていて、3つのストーリーが並行して語られるんだ。ひとつは“シャイニング”を持つ少女アブラの話。次に僕、すなわち「シャイニング」のダニーが大人になったキャラクターの話。さらにレベッカ・ファーガソンのキャラクター、ローズの話だ』

──有名すぎる作品の続編に出演することへのためらいはありませんでしたか。

画像: ©2019 Warner Bros. Ent. All Right Reserved

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『なかったよ。もしためらいがあれば、やらなかっただろうからね。でもマイク(フラナガン監督)が、小説のファンと映画のファンを満足させるというとても難しい責務を負っていることを心配したよ。なぜなら、それらは二つのまったく違うことだから。

映画化にあたり、(スタンリー)キューブリックが原作をたくさん変更したことをキングが嫌っていたのはよく知られている。だから“マイクはどうやって満足させられるんだろう?”と考えていた。でも彼はそれを見事にやってのけたんだ。「シャイニング」の小説のファンに、彼らが映画の中で見たかったものを与えられたと思う。「シャイニング」で見たかったものをね。今はこれ以上のことは話せないけれど……』

──最も強烈なおすすめシーンはどこですか。

『演じる僕の立場から言うと、ダニーがどん底から始まるところがすごく好きだ。作品自体は本当に「シャイニング」からの続きで、冒頭に出てくるのは子供の頃のダニーだけど、その直後に僕に変わる。ダニーは母と一緒にフロリダに住んでいるんだけど、彼はひどいアルコール依存症でボロボロの状態。人生で最悪の時にいるんだよ。

そういうところから回復し罪を償うという役は、役者にとって非常におもしろい。僕はもう長いことまったく酒を飲んでいないから、久しぶりに酔っ払った気分を思い出すのは奇妙だったけどね。それは怖くもあったよ』

──ダニーは子供の頃のトラウマを克服しようとしますが、そこは共感できましたか。

『イエス。彼を苦しめるオーバールックホテルの悪魔はメタファーだ。僕らを恐れさせるものは自分の中にある。自分が嫌う部分なんだよ。自分が過去にやったこと、恥だと思っていること。そういうのを人はできるだけ見ないようにする。アルコール依存症の人は、酔っ払うことでそれを感じないようにするけれど、取り払うには依存症から回復し、そこに向き合って時間をかけるしかない。取り除いてしまえば抱えていなくていいからね。

ダニーの場合、それは文字通り魂の中に閉じ込められたオーバールックの悪魔だ。最後に彼はそれを解き放つことができるのだけれども、これはメタファーなんだと僕は思うよ。だからみんな共感できるんだ。僕たちは自分で変えられないものを持ちつつ生きていかなければいけない。それを受け入れ、それをできるかぎり良い形で使うように努力する必要がある。人生とはそういうものだと思うんだ』

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──なるほど。ところでスティーヴン・キングには会いましたか?

『実は会ってないんだ。現場を訪問するだろうと思っていたけど来なかった。でも会ったことはなくても、僕は彼が好きだよ。彼が書くものはもちろん好きだし、トランプ批判を堂々とするところも好き。彼はいつも明確にズバリとトランプを批判してみせる。

それはとても良いことだし、大事なことでもある。批判すると今度は自分が批判されたりするから、彼のところにもきっとひどいメールが来たりするんだろうけれど、やらなきゃいけないんだよ。さっき誰かに“一番恐ろしいと思う映画は何ですか”と聞かれて、僕は「CNN」と答えた。トランプ政権や今イギリスで起こっていることは本当にホラーだよ』

──今まさに“あなたにとって一番怖いものは?”と伺おうとしていました。

『その答えは2019年の現実、だね(笑)。2019年の政治は、これまでに作られた最も怖いホラー映画だよ』

「ドクター・スリープ」
2019年11月29日(金)公開
監督/マイク・フラナガン
出演/ユアン・マグレガー、レベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン

スティーヴン・キングの原作を映画化した名作ホラー「シャイニング」待望の続編。40年前に起きた“あの惨劇”を生き延び、大人になったダニーを主人公に新たな恐怖を描き出す。

前回の連載はこちら

エル・ファニング「マレフィセント2」を語る【今月の顔】

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