SCREEN誌2020年7月号の特集のテーマ『いつだって映画はあなたのそばにいる』の源になっているのは、1986年の名作「スタンド・バイ・ミー」(Stand by Me)であることは映画ファンの皆さんならお気づきいただけるのでは。この名作も映画ファンのそばにいつもいてくれるエバーグリーンな存在。では日本初公開時、この名作の誕生を本誌はどう報じたか?〈異例のヒットぶりを伝えるNY現地レポート〉を特別再録します。

(1986年SCREEN12月号)
全米ナンバーワンヒットになった「スタンド・バイ・ミー」はパパやママと肩を並べながら鑑賞できるうれしくなってしまう秀作だ!── ニューヨーク在住 堤夏彦

予想外のヒットに配給会社は大アワテ

画像: 4人の少年たちの物語にあらゆる世代の観客が共感を示し大ヒットした

4人の少年たちの物語にあらゆる世代の観客が共感を示し大ヒットした

「スタンド・バイ・ミー」のヒットを予想した者は、関係者の中に一人もいなかったと言われる作品だけに配給会社は上を下への大騒ぎ。何しろ、アメリカ興行界で連続トップの座をひた走っているのである。内容については前号でお伝えしているので、今回はそのフィーバーぶりと、主人公である人の少年たちをご紹介しよう。

この「スタンド・バイ・ミー」が名作の独占公開を看板にするアート・シアターの名門コロネット劇場(520席)に登場したのは、夏場も終わりに近い8月8日。テレビのスポット宣伝もなければ新聞広告のスペースも控えめな、ひそやかなスタートであった。

ところが、客足は第一回目の上映から、サボリ風な男女会社員タイプ、大学生タイプ、近くに住むシニア・シチズン(ご老人)、夜勤タイプ、それに私自身も含むオトナたちばかりで、それもワンワンという状態。

初日の金曜日、続く土曜日、日曜日における客の入りと反応の良さを見極めた配給会社は、アート・シアターでスタートした作品としては殆ど異例の拡大公開に踏み切ることを決め、映画のラストシーンにも憎たらしいほどの好ムードで描き出されている〝勤労の日〞を含む3連休に合わせて、8月日、一挙に劇場数をにふやした。「トップガン」(これも息の長い大ヒット)「ベスト・キッド2」「エイリアン2」「ザ・フライ」などを軽く抑えてガサゴサ稼いで改めて話題になり、熱いその人気は今も続いている。

4人の少年のアンサンブルが成功

画像: 少年俳優たちのアンサンブル演技が素晴らしい

少年俳優たちのアンサンブル演技が素晴らしい

軽率に断定することはできないが、少なくともアメリカとの比でいえば、何かと世界一を誇るくせに、日本はオトナが映画館へ行かないことにかけてもまた世界有数の国だ。

「スタンド・バイ・ミー」が4人の主要人物と同じ世代の共感と支持を得て人気作品になっているのは、否定できない事実。しかし今年有数のヒット作に押し上げたのは、オトナたちの足も多かったからにほかならない。それぞれ鮮やかに描き分けられた4人の少年たちの上に自分の幼き日を重ねながら、懐かしみ、或いはチョッピリ悔いを噛みしめることになる、その味付けが実にうまく行なわれているからだ。

原作者スティーヴン・キングの少年時代がモデルになっているゴーディ(ウィル・ウィートン)は、両親の愛を兄(ジョン・キューザック)のようには得られず、早々と孤独の辛さを味わいながら、しかし豊かなイマジネーションをあやつって頭の中で小説を書き綴っている少年。

このゴーディに頭の良さでは劣らないがアル中の父、札付きの不良の兄がいるために、「どうせ、あそこんちの子じゃないか、いい子でいられるわけないさ!」と白い目で見られていることに反発、故意にワルぶっているのが体もシッカと大きいクリス(リヴァー・フェニックス)。

コリー・フェルドマン扮するテディはゴーディやクリスのように進学するつもりはなく、初年からブルーカラー(肉体労働者のこと)になることを考え、戦争で精神を傷つけたままで世間からは異常者扱いを受けている父を愛してやまない少々依怙地な少年。

最後のバーン(ジェリー・オコネル)は、頭の回転も体のこなしも他の人に比べるとスローながら、敵をつくることはまずありえないオットリ型。それに根っからのこわがり屋だ。

画像: それまであまり映画では描かれなかった少年時代の悩みや苦悩も登場

それまであまり映画では描かれなかった少年時代の悩みや苦悩も登場

4人の少年俳優たちが文字通り役を生きる演技を展開して見事な出来を示していることは前号でも触れたが、互いにでしゃばることなく、むしろ競演によるアンサンブルを生み出そうとしているかの如きプロフェッショナルぶりが何ともあっぱれ!なのだ。

彼ら扮するこの4人組が、有名になりたくて列車事故に遭った死体を捜して旅に出かけるという話を主軸に、彼らが少年期に訣別する姿が感傷ムードいっぱいに描かれるのだ。

大人も子供も大喜びで家族中の話題

配給会社の調査によると、ハイティーンから20歳前後までの女性層にも極めて熱い支持があり、これもヒットになった要素の一つとされている。「あの年頃の男の子にこのような悩みや苦しみがあるなんて、考えたこともなかったわ!」ということだそうだ。つまり母性本能への刺激があってカワユーイ!わけなのですよ。

画像: 若き日のキーファー・サザーランドも出演

若き日のキーファー・サザーランドも出演

私の住まいはブルックリンのダウンタウンに近いボーラム・ヒルと呼ばれる住宅地の一角にある。子持ち家庭が大半を占め、マンハッタンとはまるで異なって、結構近所づき合いも行なわれている通りだ。その角にある食料、雑貨の店の主人とは友達で、店頭でしばしば「ただ今のオススメ映画は何だい?」と訊かれることがある。このひと月余、私はひたすら「スタンド・バイ・ミー」だね、と言い続けてきたが、つい先日或る家の奥さんから「有難う!主人と子供二人と揃って観て来たのよ。私自身も大変気に入って、親類や友人、知人に会ったり、電話をする時は必ず話題にしている程なの。主人もね、子供と積極的に会話を持ちたい気分にさせる映画だって!」とお礼をいわれて嬉しくなったばかりだ。

日本公開は現時点では来年2、3月が予定されていて、キミたちは正月映画を先にコナさねばならないのが順序。でも、それまで忘れないで待っていて欲しいと思う。今まで知るチャンスもなかったパパの少年時代の話が出て来るかもしれないし、ついでにママも誘って観に行ったら楽しい日になる筈だよ。

ロブ・ライナーの演出がひと色で、それが残念!という声も少なくはない。しかし私にはそれが無いものねだりに思える。何しろテーマがキチンと描かれているからだ。

『スタンド・バイ・ミー』
Blu-ray 2,381円(税別)/DVD1,410円(税別)

発売・販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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