第92回アカデミー賞でアジア映画に初の作品賞をもたらしたポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」。強烈なビジュアルと怒涛の展開で私たちを虜にした本作、そのセリフに着目してみると、よりドラマチックな展開が待っているはずです。(文・須永貴子/デジタル編集・スクリーン編集部)

ネタバレを含みますのでご注意ください!

解説&登場人物紹介

画像: 父ギテクは日の当たらない半地下住宅から何を思う…

父ギテクは日の当たらない半地下住宅から何を思う…

父:キム・ギテク(ソン・ガンホ)
現在無職の大黒柱。楽観的な性格で、妻の尻に敷かれている。演じるソン・ガンホの笑顔の裏に隠された苦痛をじんわりとにじませる芝居はさすが、説明不要の大名優だ。ポン・ジュノ監督とのタッグは『殺人の追憶』から数えて4本目に。

すでに多くの人が鑑賞しているとは思いつつ、ストーリーの設定を簡単に解説しておきたい。舞台はソウル。両親が失業中で、長男長女は浪人中のキム一家は、Wi-Fiも飛んでいない半地下暮らし。窓から空は見えず、酔っ払いの立ち小便や嘔吐に悩まされている。一方、高台に暮らすパク家の大きな窓から見えるのは、広々とした庭と空オンリー。脚本&監督のポン・ジュノは、経済格差をわかりやすく視覚化し、観客を一気に映画の世界に引きずり込む。

家族は全員失業中!雨漏り上等!半地下住宅キム一家

画像: 家族は全員失業中!雨漏り上等!半地下住宅キム一家

母:キム・チュンスク(チャン・ヘジン)
ギテクの妻。元ハンマー投げのメダリスト。15kg増量してこの役を演じたチャン・ヘジンは、イ・チャンドン監督作品で知られる実力派。話題沸騰中のドラマ『愛の不時着』では、デパートの女社長役を演じている。

息子:キム・ギウ(チェ・ウシク)
長男。兵役を挟んで4回受験に失敗している“受験のプロ”。2011年にテレビドラマでデビューしたチェ・ウシクは、地道に経験を重ね、映画『巨人』で初主演。本作のエンディング曲「Soju One Glass(焼酎一杯)」を歌っている。

娘:キム・ギジョン(パク・ソダム)
長女。美大の予備校にお金がなくて通えない。立ち居振る舞いが堂々としており、兄から「金持ちに見える」と褒められる。パク・ソダム自身は現在、今年下半期に放送が予定されているテレビドラマ大作「青春記録」の撮影中。

セリフ1:キム家の父と息子が描く未来図

パク家に最初に入り込んだのは、長男のギウ。友人のミニョクが留学することになり、パク家の長女の家庭教師を引き継ぐことになったのだ。ギウは大学受験に4度も失敗し、浪人中。美大志望の妹のギジョンが偽造した延世大学の学生証を手に、パク家に向かうギウは、送り出す父とこんな会話を交わす。

ギウ「お父さん、僕はこれが偽造や犯罪とは思いません。来年、この大学に入るから」
ギテク「計画があるんだな」
ギウ「書類を先に受け取っただけです」

このときの「計画」が示すものは、ギウの「人生設計」や「目標」だが、この「計画」という言葉が、その後の彼らの悲喜劇を暗示する。

強引な屁理屈で自己暗示をかけたギウは、大学生としてそつなく振る舞い、すぐにパク家の信頼を得る。パク・ドンイクの運転手を追い出して父をその座に付け、妹のギジョンをパク家の幼い長男の絵画教師にし、長年パク家に仕えてきた家政婦をクビにして母チュンスクが新家政婦として働き始める。もちろん偽名で。

一家の主は若き社長!成功者の象徴!高台の豪邸パク一家

画像: 太陽の光が降り注ぐパク家のリビング

太陽の光が降り注ぐパク家のリビング

画像1: 一家の主は若き社長!成功者の象徴!高台の豪邸パク一家

夫:パク・ドンイク(イ・ソンギュン)
IT企業のCEO。ジェントルマンで愛妻家だが「度を越す人間が嫌い」が口癖。演じるイ・ソンギュンは、ドラマ『コーヒープリンス1号店』の音楽家ハンソン役でブレイク。エレガントなエリート役はお手の物。

妻:パク・ヨンギョ(チョ・ヨジョン)
「ヤング・アンド・シンプル」と形容される、優しくて単細胞の美人妻。モデル出身で現在は演技の教師も務めるチョ・ヨジョンはその後、ドラマ『凍てついた愛』のママ友を苦しめる母親役で、演技の幅を見せつける。

画像2: 一家の主は若き社長!成功者の象徴!高台の豪邸パク一家

娘:パク・ダヘ(チョン・ジソ)
長女。ギウも、前の家庭教師も惚れさせた、魔性の高校2年生。本作を機に、ヒョン・スンミンから芸名を使用し始めたチョン・ジソは、1999年生まれの20歳。フィギュアスケート選手だったこともあるのだとか。

家政婦:ムングァン(イ・ジョンウン)
パク家の家政婦。ドンイクは彼女の仕事を評価しているが、食事を2人前食べることが引っかかっている。演じるイ・ジョンウンは舞台、映画、ドラマなどで活躍する名バイプレイヤー。ポン監督の『母なる証明』『オクジャ』にも出演。

セリフ2:パク家の主ドンイクの無意識の本音

全員が無職から脱出し、割の良いサラリーを貰えるようになり、良い波に乗ったかに見えたキム一家に高波が襲いかかる。それは、パク一家が泊りがけでキャンプに出かけた夜だった。4人で酒盛りをしていると、クビになった家政婦が突然訪問。4人が家族だということが彼女にバレてしまうのだ。さらにはパク一家が予定を切り上げて、8分後に帰宅することになり、絶体絶命の大ピンチ!テーブルの下にギテクたちが身を潜めていると、パク夫婦がソファで自分たちについて語っている。

ドンイク「ギテクの言動は度を越しそうなところで絶対に越さない。そこがいい。しかし彼の臭いは度を越している」

ドンイクはその臭いを「煮洗いした布巾」「地下鉄の乗客特有の臭い」と表現する。普段はキム一家を見下すような態度は決してとらないドンイクが、本音では、いや、生理的に、彼らを下層のものとして区分けしていることを、ギテクたちは知らされてしまう。

セリフ3:父ギテクが放つ覚悟の一言

ギテクは過去に、チキン屋、台湾カステラ屋、運転代行業、駐車サービスなど、様々な仕事を転々としてきた。新たな仕事を得るたびに、「今度こそいい暮らしを」と思い描いた「計画」はことごとく実現せず、貧困のループから抜け出せずにいる。

そしてたどり着いた「無計画であれば、計画どおりにいかなかったという失敗は成り立たない」という、詭弁ともいえるレトリックから、ギテクの明るい振る舞いが、彼が抱える絶望や闇の反動だったことがわかる。父の絶望と虚無を知ったギウは、家族を巻き込んだ責任を感じて「すみません」という言葉を発し、ある「計画」を実行する決意を固める。

「絶対に失敗しない計画は何だと思う?無計画だ。ノープラン。なぜか?計画を立てると必ず、人生そのとおりにいかない。だから人は無計画なほうがいい。計画がなければ間違いもない。最初から計画がなければ何が起きても関係ない。人を殺そうが、国を売ろうが知ったこっちゃない。わかったか?」

その後の喜怒哀楽を詰め込んだ怒涛の展開はぜひ作品を観て確認してほしいが、もう一つだけ。『パラサイト』には、英語の家庭教師を務めるギウが何度か口にする「pretend」(〜のふりをする)というキーワードもある。

キム一家は全員、プロフィールに嘘をついてパク家に潜り込むが、どんなに上手に外見や言動を取り繕って「何者かのふり」をしても、半地下の生活でキム一家に染み付いた「貧乏人の臭い」がギウの計画を邪魔し、ギテクの闇落ちのスイッチとなる。

世界的に広がる格差社会における分断を、映画に映らない「臭い」で表現するポン・ジュノの手さばきはあまりにも鮮やかだ。

「パラサイト 半地下の家族」
2020年7月22日(水)ブルーレイ&DVD発売

Ⓒ2019 CJ ENMCORPORATION,BARUNSON E&A ALLRIGHTS RESERVED

販売:バップ
価格:7,800円+税、DVD=4,800円+税
特典:モノクロVer.本編映像、未公開シーン集、イベント映像集ほか(BDのみ収録)

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