天才クリストファー・ノーラン監督作品の中でも"最高難度"の作品と言われるタイムサスペンス超大作「TENET テネット」(現在公開中)。革新的な映像体験であり、一度見ただけではなかなか理解が追いつかない本作を、ネタバレ全開で完全考察!" 時間逆行"のルールやキーワードにまつわる『11の謎』も解説し、鑑賞後に頭に浮かぶ『?』の数々にお答えします。二度目以降の鑑賞に挑む際の参考にもどうぞ!(文・斉藤博昭/デジタル編集・スクリーン編集部)

※「TENET テネット」の詳しい内容に触れている記事です。多くのネタバレが含まれますので、未鑑賞の方はご注意ください。

観ていて『わからない』と挫折するのではなく
『すごい映画を観てる』という不思議な感覚をもたらす

怒涛のオープニング場面は「ダークナイト」を思わせる

画像: 主人公の「名もなき男」が“時間を逆行”し人類の危機を阻止しようとする

主人公の「名もなき男」が“時間を逆行”し人類の危機を阻止しようとする

主人公の「名もなき男」が、時間を逆行する仕組みを使って、やがて起こる人類の危機を阻止しようとする。壮大なミッションを描く「TENET テネット」は、はっきり言って、1回観ただけでは理解が追いつかない作品。それは公開前から噂されていたとおりだ。

スクリーンからの情報量があまりに多いので、観ているこちらは一瞬も油断できない。つねに脳細胞が刺激されている感覚! その意味でクリストファー・ノーラン監督作らしいし、彼の集大成であることは間違いない。

最も印象が近いのは「インセプション」(2010)だが、今回はさらに頭のフル回転が要求される。では観ていて「わからない」と挫折するかといえば、そうではなく流れに乗って「ものすごい映画を観てる」という不思議な感覚をもたらすのが、この「TENET」なのだ。

物語はまず、主人公が人類を救う使命に選ばれたきっかけから始まる。舞台はウクライナのキエフ。コンサートが行われるオペラハウスに、人類を滅亡させる危険のある「何か」が持ち込まれたようで、会場が襲撃された。

画像: 冒頭のスペクタクル場面が観る者の集中力を一気にアップさせる

冒頭のスペクタクル場面が観る者の集中力を一気にアップさせる

そこに特殊部隊の主人公も侵入するのだが、会場の観客が一斉に眠らされるなど衝撃の光景が続き、怒涛のスペクタクル場面と化す。あの「ダークナイト」(2008)でジョーカーの一味の犯行をたたみこむような映像で展開し、観る者の集中力を一気にアップさせたオープニングと似ている。

「TENET」のキーポイントである時間の逆行は、すでにここで銃弾が元に戻る描写がさりげなく挿入されている。会場で見つかったのは、プルトニウムらしき物体だが、主人公は敵に囚われ、自白を強要させられるも頑なに拒否し、自殺を図ろうとする。その勇気が買われ、人類救済のミッションを託されるのだ。

ミッションの名は「TENET」。主人公が乗った車のナビに従って到着した研究施設で、彼は撃った銃弾が弾倉に戻る、つまり時間が逆行する現象を目の当たりにする。

その銃弾をきっかけに、インドのムンバイでTENETの任務に深く関わるプリヤに出会い、さらに人類滅亡をもくろむロシアの富豪の武器商人、アンドレイ・セイターの存在を知る。キエフのテロもセイターが絡んでおり、彼が狙うプルトニウムを奪還することが、主人公の目的となる……という物語。

ブルース・リーの名ゼリフのように『感じる』映画

最大のポイントは、「時間を逆行する」という設定が、どんな映像で展開され、観ているわれわれがどう受け止められるかだ。銃弾が戻り、崩壊したビルが元どおりになり、車が逆走行するなど、ビジュアル的には逆行はわかりやすい。

ただ、逆行のシステムを理解するのは、ちょっとばかりハードルが高く、時間を逆行していると、そこで時間どおり順行している自分に会うこともある。逆行中は外では酸素ボンベを装着しなければならないが、それも厳密ではなさそう。

ただ、いくつかのスペクタクルなシークエンスが、後から逆行側の視点でリピートされるので、そのシーンの意図や状況が把握しやすいのも事実。しかも逆行するアクションは、観ているだけでシンプルに面白い。

出てくるキャラクターがすべてワケありの怪しい言動をとるのも、この「TENET」の特徴。名前が一切、言及されない主人公は、それだけで謎のベールに包まれている印象だが、ミッションのバディとなる有能なエージェントのニールの言動を、前半から注意深く見ておくと、後半のいくつかの謎解きに役立つはず。

画像: 主人公の相棒となるニールの言動を注意深く見ることが謎を解くカギ

主人公の相棒となるニールの言動を注意深く見ることが謎を解くカギ

ラストで、彼のリュックが重要な役割を果たすが、チャックの隙間から出る細い紐が目印のそのリュックは、冒頭のキエフのテロ現場でもすでに一瞬だけ画面に映っていた。つまりニールは、最初から主人公の近くにいたことになる。

もう一人の重要キャラは、セイターの妻、キャット。愛する息子を巡って脅されながらも、夫を殺害しようとするなど、行動は意外に過激で予測不能。どの方向に進んでいくのかわからない「TENET」の作品のムードを、じつは彼女が体現しているようでもある。

そのキャットに託される、クライマックスの船上の重要任務は、映画の前半にも出てきており、観ている側は彼女が時間の逆行で、過去に戻ったように感じる。しかしこれは実際には主人公たちの最終局面の戦いと同時進行している。

画像: 予測不能な行動を取るキャットが作品のムードを体現しているかのよう

予測不能な行動を取るキャットが作品のムードを体現しているかのよう

過去なのか? 近い未来なのか? ノーラン監督が観客を翻弄している気もするし、あえて時間の感覚を混乱させて、タイトルどおり、順行と逆行がひとつになる世界を作っているのかもしれない……と、考えれば考えるほど難しい話になって来るが、ゴヤの贋作など、ストーリーに大きく絡みそうで絡まなかったり、難しい用語がパンパンとび出してくるかと思いきや、なぜか笑いを誘うシーンがあったりと、つかみどころのなさも「TENET」の大きな魅力。

主人公に逆行を教える科学者が、「理解しようとしないで。感じるのよ」と、ブルース・リーの名言のようなセリフを放つとおり、これは「感じる」映画。だからこそ、2回、3回と繰り返して観ても新たな発見に興奮してしまうのだ。

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