アメコミライターとして活躍する杉山すぴ豊さんの連載コラムです。アメコミ関連の映画について、縦横無尽に楽しい知識、お得な情報などをみなさんにお届け。今回はようやく日本で劇場公開が決まった「ワンダーウーマン1984」と、今後の配信と劇場公開を組み合わせていくと思われる映画の将来について考えてみます。
カバー画像:©2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

杉山すぴ豊

アメコミ系映画ライター。雑誌や劇場パンフレットなどにコラムを執筆。アメコミ映画のイベントなどではトークショーも。大手広告会社のシニア・エグゼクティブ・ディレクターとしてアメコミ映画のキャンペーンも手がける。

「ワンダーウーマン1984」が配信と劇場公開で見られることになった意味について

画像: 「ワンダーウーマン1984」 ©2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

「ワンダーウーマン1984」

©2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

『ワンダーウーマン1984』が無事劇場公開されることになりました。僕は一足先に観たのですが前作よりも明るく楽しいヒーロー・アクション映画に仕上がっています。昨今のアメコミ・ヒーロー映画はちょっとひねった味わいがありますが、本作はクリストファー・リーヴの「スーパーマン」(1978)に通じる健全さを感じました。素晴らしすぎるサプライズもあるので最後まで席をたたないようにしてください。

本作は日本では2020年12月18日(金)というアメリカよりも早い公開となりました。アメリカでは日本よりウイルス禍の影響が深刻で多くの映画館が閉鎖中。そこでHBO-MAXという配信サービスを使ってのリリースと劇場公開を12月25日のクリスマスに同時に行う。

けれどHBO-MAXが立ち上がっていない海外では1週間早く劇場公開しても良い、ということになったそうです。『ワンダーウーマン1984』はワーナー映画。ワーナーは『TENET テネット』をウイルス禍が収まっていた海外での公開を先行しグローバルでの収益を確保した経緯があり『ワンダーウーマン1984』も同じパターンを狙っているのでしょう。しかし配信と同時というのは『ワンダーウーマン1984』が初めてです。

さて冒頭で“無事劇場公開”と書いたのですが、ここに僕がこめた気持ちは「“無事”に“公開(映画が観れる)”」ではなく「“無事”に“劇場公開(劇場が観れる)”」。とにかく映画館にかかることを喜んだ。

画像: 海外で全米より先に劇場公開を決めた「TENET テネット」 Tenet © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

海外で全米より先に劇場公開を決めた「TENET テネット」

Tenet © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

やっぱりアメコミ・ヒーロー映画は映画館に行って楽しみたい。映画館に行く、という行為からしてワクワクしたいのです。だから今年『ムーラン』がディズニープラスで配信になった時、かなり心配でした。

というのも『ムーラン』『ブラック・ウィドウ』『ワンダーウーマン1984』はどれも女性が活躍するアクション大作であり『ムーラン』が配信で成功したら、同じディズニーで『ブラック・ウィドウ』も配信、そうなれば同じアメコミ出身の女性ヒーローである『ワンダーウーマン1984』も配信とドミノになるのではないかと。

けれど結果、『ブラック・ウィドウ』『ワンダーウーマン1984』の公開順は入れ替わり、『ワンダーウーマン1984』が劇場公開+配信なので、少なくとも『ブラック・ウィドウ』もこのパターンではないかと。もっと言えば『ブラック・ウィドウ』が公開される時はウイルス禍が収まっていて大手をふって劇場に行ければいいのですが。

マーベルは今後、配信と劇場公開を上手く組み合わせていくとすでに発表していた

誤解のないようにいうと僕は配信が嫌いなわけではなくNetflixもディズニープラスも楽しんでいます。ただ映画館で観る体験は至高かつ至福。だからこのウイルス禍によって「劇場より配信」が加速することに対し複雑な思いはあります。

しかしこれは杞憂で終わるかもしれません。例えば『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。配信をメインに皆がアニメを視ていたわけですが結果それが劇場公開の大ヒットにつながる。

またそもそもマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は配信と劇場公開を今後うまく組み合わせていく、と発表していましたよね。さらに僕の世代では『里見八犬伝』(1983)で劇場公開とビデオ・リリースが同時というすごい経験をしている(笑)。それでもちゃんと映画館で観る、という選択は残り、にぎわっていたわけです。

だから劇場か配信かという2択で語ること自体ナンセンスかもしれません。映画館と配信が共存することでもっと楽しみ方が広がるし、応援するファンというのは増えていくかもしれません。将来『スター・ウォーズ』の新作が作られ劇場でかかる時に、そこに駆けつけるファンは、いまディズニープラスで『マンダロリアン』を視ている子どもたちかもしれないのですから。

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