昨年の5月8日に公開予定だったが、コロナ禍による緊急自粛期間などを経て一年越しの公開が決まった映画『砕け散るところを見せてあげる』。中川大志演じる清澄と、石井杏奈演じる玻璃の、ピュアで苛烈な恋にぐいぐい引き込まれる。清澄役の中川、玻璃の父役の堤真一、そして監督・脚本・編集を担当したSABUに、強い愛が描かれた本作を届けることやお互いの印象などについて語ってもらった。
画像: 中川大志・堤真一・SABU監督:
映画『砕け散るところを見せてあげる』インタビュー

ラストへの流れは、早くて気持ちいいと思います

——本来は2020年5月に公開される予定だった『砕け散るところを見せてあげる』ですが、コロナ禍の影響などで一年越しの公開が決まりました。やっと世間に届けられる状況になり、現在の率直な感想は?

SABU監督(以下、SABU)「結果的には、今でよかったです。この一年の間に、出演している北村匠海くんとか、もっと人気者になっていますし、当時と比べて、さらに成長してますよね」

堤真一(以下、堤)「確かにそうですね」

SABU「だから、今でよかったなと思います。こういう時代に、こういう作品を届けられる、ということがね」

中川大志(以下、中川)「一年くらい前にたくさんの取材を受けて、いろんなバラエティ番組にも堤さんと一緒に出演したんですけど、結局公開が一年ずれてしまいました。後にも先にもこういうことってあまりないのかな、という気がしています。公開予定からは一年、撮影時期から考えると二年半が過ぎました。自分が20歳になったばかりの時に撮影した映画なので、ちょっと照れくささもあったりしますが……。ようやく公開の見通しが立ち、待っていてくださった方もたくさんいると思うので、本当に早く観てもらいたいなという気持ちです」

堤「この現状下で公開できることになったのは、心からよかったなと思います。他の作品の中には、公開できずお蔵入りになったものもあると聞いていましたから。本当によかったです」

——原作は竹宮ゆゆこさんの、同名の小説です。本作には小説ならではの仕掛けがありますが、そこを脚本に落とし込む時、監督が気にかけたことは?

SABU「そこはあまり気にしなかったですね。どちらかと言えば、UFOの表現かな。この作品では、UFOは“嫌なものの塊”の象徴として描かれています。それを映像でどう見せるかは、かなり考えました。あとは最終的な着地点がしっかりとあり、そこにつながっていく気持ちよさがあるので。特に雨がザーッと降っているシーンからラストへの流れは、早くて気持ちいいと思います」

——中川さんと堤さんが、脚本を初めて読んだ時のファーストインプレッションは?

中川「原作を読む前に台本をいただいて読んだのですが、いろんな要素が詰まっていて、進路がどんどん変わっていくので予測のつかなさにハラハラしました。残酷で過酷な描写もあるんですけど、愛と生命力の強さを僕は感じて。今まで挑戦したことのないような作品だったので、これはチャレンジしてみたいと思いましたし、衝撃を受けたことを覚えています」

堤「面白い脚本だと思いました。原作は読んでいなかったのですが、僕はもともと原作よりも脚本の善し悪しで判断するので、これは面白いなと思い、出演を決めました」

清澄という役には、ピュアに向き合いたいと思いました

——中川さんが演じた濱田清澄、堤さんが演じた玻璃の父、お二人から見てそれぞれどんな人物ですか?

中川「清澄自身も学校での居づらさを感じていた時期を経て、自分の居場所や親友を見つけた少年です。とにかく僕は清澄の自然体さというか、思ったことを口に出して行動できることがすごいと思っていて。過半数に飲み込まれてしまいそうなこともたくさんある中で、誰かを助けるために周りの目を気にせず行動するのは、とても勇気のいることです。しかもそれが清澄にとって意図していないというか、自然と体が動いちゃうような人なので、僕自身もピュアにこの役と向き合わないと、いろんなことを見透かされてしまいそうだと感じました。だからこそ、そこは大切に演じようと思いましたね」

画像1: 清澄という役には、ピュアに向き合いたいと思いました

堤「作中では描かれていませんが、玻璃の父には彼なりの何かがあって、とある行動に出てしまいます。そこは、“どうしてこういう人物は、こうなってしまうのだろう”と、すごく考えました。自分も子どもがいますが、玻璃の父の行動は僕にとって想像もできないことで。それでもこうなる人の人生……全てを排除していく方向に向かう原因が、個人の資質なのか社会的なものせいかはわかりませんが。何よりも怖いと思ったのが、子どもは親から愛されたいと思うから、どんな状況であってもなかなか逃げられない。親からの愛を一番必要とするからこそ、子どもは全面的な愛情を示したり求めたりします。その愛をどう受け止めるか、逆に親が試されているんです。玻璃の父を演じながら、彼は子どもや周囲からの愛情をちゃんと受け止めることができなかった人なのかな、と思いました」

画像2: 清澄という役には、ピュアに向き合いたいと思いました

——SABU監督から見た、役者・中川大志と堤真一は?

SABU「大志くんは真っ直ぐで、変なカッコつけもなく純粋で、セリフが心に響く人です。会ってすぐ、“信用できる役者だな”と思いました。堤さんとはつきあいも長いし、どんなことをしてくれるか楽しみだったので、お芝居を見ながら“ああ、そう来たか!”と嬉しかったです。原作で玻璃の父はセリフの面白さがあるものの根本的には割とわかりやすい役で、どう演じてくれるのかなと期待していたら、卑怯といやらしさを加えてくれて。堤さんの玻璃の父からは、いやらしさがギュンギュン来ましたね。衣裳合わせの時、玻璃の父に用意されていたのが、ありがちなハーフコートだったんです。たまたまそこにあった白のブルゾンを着てもらったら、“これだ!”と思って。原作だと会社員の役なのですが、設計もする工務店の自営に設定を変更しました。そこから乗っている車のイメージとかもバッと広がった感じですね。そもそも撮影場所が長野県の田舎だし、家の裏に沼があるというシチュエーションで、会社に通っているイメージがあまりなくて。そう考えると、真っ白なブルゾンで全てが決まった感じです」

画像3: 清澄という役には、ピュアに向き合いたいと思いました

普通は怒りそうなことも、SABU監督はケラケラ笑ってるんです

——お二人から見た、SABU監督とは?

中川「初めてお会いした時は、怖かったです(笑)。そんなに多くを語る方ではないので、どんな人なのだろうかと。清澄役に決まる前に、監督と少しお話しさせていただく機会があって、“この役をやりたいんです”という思いを伝えたのと、あとは釣りの話で盛り上がったかな。撮影に入ってまず驚いたのは、監督が映画一本分の絵コンテを描かれていたこと。俳優部には配られないんですけど、それがあること自体が初めてだったので、びっくりしました。でも例えば、この映画ならUFOみたいに言葉では説明しづらいものが、監督とチームの間でしっかり共有されているので、向かっている先が明確だからこその一体感や完成度に結びついて、素晴らしかったです。監督自身がプレイヤー(役者)でもあるから、僕らは自由にお芝居をやらせてもらって、現場はとても楽しかったですし、居心地のいい空間を作ってくださっていたんだなと感じました。おかげで余計なことを考えず、のびのびとお芝居ができました」

堤「監督のスタイルは、昔から変わっていませんね。僕らが出会った頃は素人の集まりみたいな感じだったので、おかしなこともよくありました(笑)。当時からSABUは、普通は怒り出すようなことでもケラケラ笑っているタイプで」

SABU「ハッハッハ(笑)」

堤「それが現場の雰囲気に出るというか、あまりピリピリしないんです。以前は本当に低予算でやっていたので、いろいろ大変だけど面白かった。過去の別作品の話になるけど、“雨を降らせたい”と言い出して、普通ならプロの業者に頼むのに、予算がないから知り合いから散水車を借りてきたんですよ。散水音がうるさくてセリフが録音できないし、プロじゃないから雨の量の加減もできないし(笑)。田んぼでのロケだったんだけど、消防車のホースみたいなヤツでぶわーっと散水したら、スタッフから“違う、止めて!”という声が。“えっ?”と止めたら、田んぼの稲が全部横向きになっていて(笑)。“アカンやろ!”と大騒ぎですよ」

中川「すごいですね(笑)」

堤「そんな状態でも、ケラケラ笑ってるのがSABU」

SABU「水がないから、川の水を汲んできたもんね。だから、汚い(笑)」

堤「そう、汚いんだよ! あと大杉漣さんが土の中からボコッと起き上がってくるシーンがあったんだけど、どうやって撮影するかというと、漣さんを土中に埋めたL字型の棒の上に寝かせて、その棒を引き上げる。で、一度テストしようと。土に埋まるから、漣さんの体重に土の重さが加わるわけ。棒を作った人は“1トンの重さでも大丈夫です!”と言うんだけど、せーので引き上げたらボキッと折れて、何が1トンやと(笑)。そういう状況で、しかも低予算だからスケジュールも詰め詰めなのに、“でけへん、折れとんねん”とSABUはケラケラ笑ってた(笑)」

SABU「あの後、漣さんの顔がなぜか腫れて。どうやら埋めた土のせいだったらしいんですよね」

堤「人間を埋めたらいけない土だったんだよ、あれは(笑)」

画像1: 普通は怒りそうなことも、SABU監督はケラケラ笑ってるんです

——すごいエピソードをありがとうございます(笑)。最後に……原作は「何度読んでも面白い」と言われている作品です。映画も何回観ても新しい発見があると思いますので、中川さんからぜひメッセージをお願いします。

中川「とにかく無我夢中で挑んだ作品です。見終わった後は、大切な人の顔を思い浮かべたり、会いたくなったりする人がいるのでは。僕は清澄という男を演じて、人は誰かのために強くなれると思ったし、その力はすごいんだと感じました。“愛には終わりがない——”というキャッチコピーの通り、この先も続いていくことが想像できるエンディングになっていると思うので、映画館で何度も観ていただけたら嬉しいです」

画像: Photo by Yasuyuki_Tomita

Photo by Yasuyuki_Tomita

スタイリスト/山本隆司(※中川大志)、中川原寛(CaNN ※堤真一)、佐藤修一(※SABU)
ヘアメイク/池上豪(NICOLASHKA ※中川大志)、奥山信次(Barrel ※堤真一)
インタビュー・文/篠崎美緒

(作品紹介)

平凡な日々を送る濱田清澄(中川大志)はある日、学年一の嫌われ者と呼ばれる孤独な少女・蔵本玻璃(石井杏奈)に出会う。玻璃は救いの手を差し伸べてくれる清澄に徐々に心を開くようになるが、彼女には誰にも言えない秘密があった……。その秘密に気づき始めた清澄に<恐るべき危険>が迫り、友人の田丸 (井之脇海) や尾崎姉妹(松井愛莉、清原果耶)も心配する中、物語は予測できない衝撃の展開を見せていく。この物語は、ラブストーリーなのか、サスペンスなのか……。ラストは世代を超えた壮大な愛に包まれる。

TVアニメ化された『とらドラ!』『ゴールデンタイム』などのライトノベル作品で人気を集める竹宮ゆゆこのベストセラー小説が原作。錚々たる表現者が破格の絶賛コメントを寄せ、「小説の新たな可能性を示した傑作」と称えられる本作が、『天の茶助』『うさぎドロップ』などを手掛けたSABU監督により映画化。常識を覆す、衝撃の愛の物語。

画像2: 普通は怒りそうなことも、SABU監督はケラケラ笑ってるんです
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『砕け散るところを見せてあげる』

出演:中川大志 石井杏奈
   井之脇海 清原果耶 松井愛莉/北村匠海 矢田亜希子 木野花/原田知世/堤真一
監督・脚本・編集:SABU
原作:竹宮ゆゆこ『砕け散るところを見せてあげる』

©2020 映画「砕け散るところを見せてあげる」製作委員会

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