90年代の東京。ただ純粋に音楽を追い求めていたフィッシュマンズ。しかし、その道のりは平坦ではなかった。セールスの不調。レコード会社移籍。相次ぐメンバー脱退。そして1999年、ボーカリスト佐藤伸治、突然の死。
今まで多くを語ることがなかった現・旧メンバーがカメラの前で当時の事を『映画:フィッシュマンズ』で振り返る。
(Photo/久保田司 Interview/大久保和則)
画像1: 今、語られる‟フィッシュマンズ”のすべて/茂木欣一インタビュー

出会いと別れがあって、それでも再会してみんなで演奏できるのも
フィッシュマンズの音楽の魔力

──デビューから30年、ボーカルの佐藤伸治さんが急逝されてから22年を経て、関係者へのインタビューや貴重な映像で丁寧に綴られた、フィッシュマンズのドキュメンタリー映画が完成しました。

「映画を見てまず驚いたのは、元メンバーたちがこんなにも真摯に、脱退前後の気持ちとかの語りにくい話も、まったくはぐらかすことなくすべてを語ってくれていたことです。感動的でした。今回の映画を作ることが決まったとき、僕から元メンバーのみんなに、『この1回だけでいいから、カメラの前ですべてを話してもらえたらうれしい』とお願いしたんですけど、みんなしっかりと向き合ってくれたんだなって」

──初めて聞いた言葉も多かった?

「そうですね。あのとき、そんなに心が揺れ動いていたんだなって知らなかったし、昔はそういう部分を言葉にして話し合うことをしていなかったですから。でも、だからこそ、この映画を通して知ることができた言葉、その気持ちは、すごく印象的でした」

──元メンバーの言葉を聞いて、「もし、あのときにもっと話していたら」と思ったりもするものですか?

「今になって、もっと積極的に引き止めれば良かったと思ったり、今なら言葉にできると感じたりはしますけど、20代のころはやっぱり言えなかった。それは戻せない時間だし、そのときに取った行動がすべてなんだと思います。だから、それで良かったんだなって。映画を見終わったあとに、僕はそういう気持ちになりました」

──劇中では、生前の佐藤さんの歌声やステージでの姿、普段の表情などもたくさん見ることができます。

「今の自分がいて、音楽活動を続けられていて、しかもそれが充実したものになっているのは、佐藤くんに出会えたからこそだって、今までも思っていましたけど、この映画を見てあらためて強く感じました。ここまで1つ1つの言葉やメロディーに命をかけた人には、なかなか出会えないと思います。佐藤くんが残した音楽をずっと大切に鳴らしていこうと思ったし、そう思わせてくれる楽曲を残してくれてありがとうという気持ちですね」

画像: ──劇中では、生前の佐藤さんの歌声やステージでの姿、普段の表情などもたくさん見ることができます。

──フィッシュマンズの音楽は、いつ聴いても刺激的で、何年経っても色褪せません。

「佐藤くんが、時代を超えて届けるべき音楽を残してくれたんですよね。だから、それこそ自分の中ではバッハやベートーベンの音楽が何世紀もの時間を超えて鳴らされているのと、フィッシュマンズは同じ感覚というか。それぐらい圧倒的に人の心に寄り添ってくれる、何かをもたらしてくれる力がずっと失われない音楽だなーって思っています。それに、佐藤くんが時代を超えて届けるべき楽曲を残してくれたから、今も新しい出会いがあるし、再会がある。そう考えると、佐藤くんが残してくれたフィッシュマンズの楽曲には、どれだけの生命力が宿っているんだろうって思います。その楽曲の中に、佐藤くん自身が何も言わずにいつも寄り添ってくれているのかなとも思いましたね」

──作品の中の映像を見て、あらためて佐藤さんについて気づいたことはありますか?

「デビューしてから8年間の活動の中で、こんなにも顔つきが変わっていっていたんだなっていうことです。それは、けっこう衝撃でした。僕はドラマーなので、ライブで佐藤くんがお客さんに向かって歌っているときの顔は、そんなに知らないんです。その顔が、新しい作品を作ってライブをするごとに、どんどんどんどん変わっていく。最後のライブになった『男達の別れ』では、“祈り”にも似た顔つきになっている。あそこまでの表情になっていたのかって。その変化に気づけたのは、やっぱり今回のようにヒストリーを追うドキュメンタリーだったから。何か1つのライブ映像を見ただけじゃ、気づけなかったことだと思います。観てくれる人たちには、その佐藤くんの顔つきの変化は、ぜひ注目してほしいですね」

──この映画に出演し、完成した作品を見たことで、ご自身の気持ちに変化は?

「解放されたような気持ちになりました。なんか、“もし、あのときにこうしていれば……”という気持ちに決着がついた気がするんですよね。映画を見終わったあとに。それが、僕の中では一番大きいかな。だから、これからまたフィッシュマンズとして新しいアクションを起こすと思うんですけど、今までよりも迷いはないと思います。もっと自由にフィッシュマンズを奏でたらいい、フィッシュマンズ的だと自分が思うことをもっと自由にやっていいという気持ちになりましたね。それは、ほかのメンバーたちがこの映画の中ですごく自由に語ってくれたから、そういう気持ちになれたのかもしれない。素直な言葉には、そういう力があると思うから」

画像: ──この映画に出演し、完成した作品を見たことで、ご自身の気持ちに変化は?

──茂木さん以外のメンバーの方たちも、同じような気持ちになっているかもしれません。

「この前、エンジニアのZAKとたまたま一緒に試写を見たんですよ。そうすると、昔は話さなかったようなことを、今は話すんですよね。だから、時の流れって面白いなって思います。この映画が完成したことで、フィッシュマンズに関わってきた人たちの絆がさらに強くなって、より心が深くつながっていった感覚がありますね」

──映画のキャッチコピーには、フィッシュマンズの「MELODY」の歌詞の一節である「音楽はマジックを呼ぶ」が使われています。確かに音楽にはマジックのような力=魔力があって、今回の映画にもそうした魔力を感じましたし、そもそもフィッシュマンズの音楽には、ある種の魔力が宿っているなと思います。

「確かに、魔力ですよね。うん、魔力。今まではよく、“連れていかれる”とか“その気にさせる”って表現していたけど、これからは僕も“魔力”って言おうかな(笑)。実際にフィッシュマンズの曲は、曲が始まった途端にもう、絶対にこの音楽を最高に鳴らしきらないといけないって思いに、全身が包まれるんですよ。特に、『男達の別れ』なんてまさにそう。今まで、いろんな出会いと別れがあって、それでも再会してみんなで演奏できたりするのも、フィッシュマンズの音楽の魔力だし、生命力だと思います。フィッシュマンズの音楽の中では、別れていてもずっとみんなで一緒にいるというか、時が流れてもまたすぐにここで会えるというか」

──今までに何度も聞かれたきたとは思いますが、今回のドキュメンタリー映画が公開されるタイミングで、あらためて茂木さんにとってのフィッシュマンズがどういうものか、言葉にしていただきたいです。

「僕の人生を、ここまで導いてくれたものですよね。フィッシュマンズに出会えていなかったら、自分はこんなにキラキラした気持ちになれていたかなって思うし、これからどうしようって悩んでいるときにフィッシュマンズの音楽を聴けば、やっぱり前進せねばという気持ちになれるし。佐藤くんの歌詞は結論めいていないから、その寄り添い方がやさしくもあるし、逆に厳しくもあってね。歌詞の中で結論は言わないから、フィッシュマンズを聴いたあと、最後はちゃんと自分の足で歩いて行きなよって、そう言われている感じもあるんです。そういう部分も含めて、ここまで僕を導いてくれたのがフィッシュマンズ。それは、これからもだと思うけど。これからという意味では、若い人たちにもフィッシュマンズの楽曲の力、音楽の力を届けて、導いてあげるのも使命かなって。今の自分はおかげさまで30年間プロのミュージシャンとして活動ができて、楽しく人生を送っているので、その恩返しじゃないですけど。いや、単純に音楽が楽しいから、そういうことをしたいだけなんですけど(笑)」

──今回の映画をきっかけに、新たにフィッシュマンズのファンになる人たちも少なくないんじゃないかとおもいます。

「そうなったら、すごくうれしいです。今回の映画は、そのために素晴らしい役割を果たしてくれるんじゃないかと思います」

──最後に、読者にメッセージを。

「この映画は、フィッシュマンズというバンドを通して30年の間に起こった、出会いと別れと再会の物語です。フィッシュマンズの映画なんですけど、きっと観てくれる人たち1人1人の人生にも、劇中で描かれているような気持ちになる瞬間があっただろうし、そういう意味ではみんな自分の人生がフラッシュバックするんじゃないかな。とにかく、いろんな人たちに届いたらいいな。フィッシュマンズのファンはもちろんですけど、すべての音楽ファン、映画ファンに、フィッシュマンズの音楽が持つ“魔力”を感じてもらえたらいいなと思っています」

画像: ──最後に、読者にメッセージを。

Profile

画像2: 今、語られる‟フィッシュマンズ”のすべて/茂木欣一インタビュー

茂木欣一

12月15日生まれ、東京都出身。明治学院大学在学中に佐藤伸治らと出会いフィッシュマンズを結成。ドラムス担当。現在もフィッシュマンズとしての活動を行っている。2001年より東京スカパラダイスオーケストラに正式加入。

画像3: 今、語られる‟フィッシュマンズ”のすべて/茂木欣一インタビュー

映画:フィッシュマンズ

7/9(金)より新宿バルト9、渋谷シネクイントほかにて全国公開

1987年結成、1991年メジャーデビューを果たしたフィッシュマンズ。セールスの不調、レコード会社移籍、相次ぐメンバー脱退。そして、1999年、楽曲のほぼすべての作詞・作曲を担当するボーカルの佐藤伸治の突然の死。ひとり残された茂木欣一は、解散せずに佐藤の楽曲を鳴らし続ける道を選んだ。過去の映像と現在のライブ映像、佐藤が遺した言葉とメンバー・関係者の証言をつなぎ、デビュー30周年を迎えたフィッシュマンズの軌跡をたどる。

監督:手嶋悠貴 配給:ACTV JAPAN/イハフィルムズ

©2021 THE FISHMANS MOVIE

発売中の『SCREEN』8月号にて、『映画:フィッシュマンズ』をはじめ、音楽ドキュメンタリー映画を掲載

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