人気バラエティ番組を多数手掛けた名プロデューサー吉川圭三さんの新連載がスタート!影響を受けた映画の数々を独自の視点で、溢れる映画への想いや、知られざる逸話とともにご紹介します。記念すべき第1回目は、『トラ・トラ・トラ!』(1970)と『ダンケルク』(2017)をご紹介。実写映画のすばらしさと驚きの映像技術を語ってくれました。

吉川圭三

1957年東京・下町生まれ。「恋のから騒ぎ」「踊る!さんま御殿」「笑ってコラえて」の企画・制作総指揮・日本テレビの制作次長を経て、現在、KADOKAWA・ドワンゴ・エグゼクティブ・プロデューサー。著書も多数あり、ジブリ作品『思い出のマーニー』(2014)では脚本第一稿も手掛ける。

『2001年宇宙の旅』製作50周年イベント

2018年の10月4日、私は映画研究家・岸川靖氏のご案内で、希少なイベントに潜り込む事が出来た。スタンリー・キューブリック監督の記念碑的作品『2001年宇宙の旅』製作50周年イベントへ。

そこにはクリストファー・ノーラン監督の協力の元、公開時の映像と音を追求して、オリジナル・ネガフィルムからデジタル処理を介さずに済むケミカル技術だけで70mmニュープリントが制作されていたのだ。

同年5月のカンヌ映画祭で公開されたのは聞いていたが、私はこの日、京橋の国立映画アーカイブでの1回限りのテスト上映に入場することが出来た。CGなどが存在しない1968年、最高の才能が集結し製作された映像が現在に蘇った。映画という表現形態はまさにこうした形で後世にも立派な記録として残るものだと実感した。

実写映画の素晴らしさとノーランの偉大さ

このフィルムを修復したノーラン監督を最初に私が意識したのはバットマン・シリーズの『ダークナイト』(2008)だった。デジタル処理だらけのSFやヒーロー映画が溢れる中で、この作品には実写映像を使用しようとする監督の強い意志を感じた。

ビルを丸ごと爆破するシーンやバットマンが夜道を爆走する場面などが有名だが、「この監督は映像技術の効果を相当考えているな」と思ったものだ。

同監督の『ダンケルク』(2017)は第二次世界大戦当時の連合軍とドイツ軍の戦いを陸・海・空から描いた映画だが、当時の戦闘機を修復し空中戦を展開したり、戦地に無数の兵士を配置したり、海岸の奥にいつも不気味な黒煙が漂っていたり、実写映画のみが持つ迫力と臨場感を感じることが出来て圧倒されたのだった。

画像: 『ダンケルク』(2017)

『ダンケルク』(2017)

ただ私は「全てのCG使用の映画が駄目」と主張するつもりはない。おそらく思い返せば『ダンケルク』の空中戦の場面ではデジタル技術を使わなければ実現出来ない描写もあったであろう。

私がノーラン監督の作品を観て思うのは、「最新技術を使うのが上手い監督とそうでない監督がいる」ということと「実写映画の素晴らしさとその視覚的効果」である。

私はやはり監督・プロデューサーを含めた出演者・撮影・美術・技術ほかのスタッフの“汗と努力と工夫”が見える映画が今でも好きだ。

日米合作戦争映画『トラ・トラ・トラ!』(1970)は実写映画の重厚さを感じさせる

最近、2週間に1回は観てしまう映画がある。おそらくこの映画は永遠に残る“芸術品”の様な扱いを受けていないであろう。しかしノーラン監督の『ダンケルク』と同様、歴史的な実話を徹底的に描き実写映画の強みを最も感じる映画である。

その映画『トラ・トラ・トラ!』(1970)は1941年の大日本帝国海軍によるハワイの真珠湾攻撃を史実に忠実に描いた作品である。連合軍のノルマンディー上陸作戦を描いた世界的ヒット作『史上最大の作戦』を成功させた20世紀FOXのダリル・F・ザナック社長が次に目を付けたのがアメリカ最大の屈辱である“パールハーバーの悪夢”だった。

画像: 『トラ・トラ・トラ!』(1970)

『トラ・トラ・トラ!』(1970)

腹心の部下エルモ・ウィリアムズが日本サイドの監督として提案したのが世界の巨匠・黒澤明だった。これは有名な話であるがハリウッドと日本の映画製作システムの違いから黒澤は降板する。

しかし、老練でしぶといエルモは、米国海軍の全面協力を交渉の末に得て米国サイドのリチャード・フライシャー監督のハワイでの壮絶な撮影を見届けると京都の撮影所でクロサワ続投が難しいと判断し、日本の大手映画会社でフィルムをかき集め、深作欣二(『仁義なき戦い』ほか)や舛田利雄(日活気鋭の職人監督)を後任に選出した。

丁寧に作られた脚本と今や実現不可能かと思う様な見事な日米の演技陣もさることながら、この映画の全編には“実写映画”のみが可能な圧倒的な迫力が漲っている。冒頭の日本海軍の巨大な戦艦は実物大であり、多数のゼロ式戦闘機が夜明け前に空母から発進しオアフ島に低空で侵入するシーンは特に目を張るものだ。

私は戦争は嫌いだが、これらの飛行機がアメリカ製の練習機を改造してゼロ戦そっくりに製作したと聞くに及んでその途方もない努力にひたすら頭が下がるのである。それは安易な最新技術に頼らない“活動屋”の精神に満ちている。

奇襲攻撃とはいえ、アメリカ側の敗北で終わる戦争映画は米国内での興行は失敗に。しかし、この実写映画を私は再び劇場の大スクリーンで観てみたい。ノーラン監督も同じように思っているのではないだろうか?

Photos by Getty Images

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