作品選びにお悩みのあなた!そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。東京オリンピックも新型コロナも、そしてワクチンも。まるで先が読めなく目が離せません。

久保田明
映画評論家。5月27日、香港の選挙制度が中国中央政府寄りにさらに改正された。愛する土地の苦難に心が痛む。

渡辺麻紀
映画ライター。『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』『アーミー・オブ・ザ・デッド』とザックな日々です。

土屋好生オススメ作品
ベル・エポックでもう一度

フランスを代表する二人の名優が人生という得体のしれない存在を浮かび上がらせる

評価点:演出4/演技5/脚本3/映像4/音楽4

あらすじ・概要

かつての売れっ子イラストレーター。今は冴えない毎日を送る父親を元気づけようと、息子は一計を案じる。1970年代という戻りたい過去をドラマ仕立てのリアルなセットで再現し運命の女性と再会させようとするが…。

とびきり斬新な仕掛けを用意しているわけでもないのに、妙に心に響いてくるのはなぜか。結婚してウン10年、そろそろ先の見えてきた中高年夫婦がもう一度過去を見つめ、改めて「今」を振り返る。

そんな追憶の旅が教えてくれるのは、とりも直さず「今」を生きる意味なのだが、ダニエル・オートゥイユとファニー・アルダンという絶妙のキャスティングで人生という変幻自在で得体の知れない魔物のようなものの存在を浮かび上がらせる。

それにしても酸いも甘いも噛み分けたオートゥイユとアルダンという2俳優の円熟の演技なくしてはこの人生讃歌の映画も成立し得なかっただろう。

画像: フランスを代表する二人の名優が人生という得体のしれない存在を浮かび上がらせる

共に70を過ぎた熟年俳優、長い俳優人生のなかでも一つの到達点ともいえる細部まで練り上げられた演技に、しびれた。なかでも久々に姿を見せたファニー・アルダンの健在ぶりにこちらも力をもらった感じ。

『隣の女』に『日曜日が待ち遠しい!』…。あゝ懐かしいフランソワ・トリュフォーの映画たちよ。

(c)2019 LES FILM DU KIOSQUE-PATHE FILMS-ORANGE STUDIO-FRANCE 2 CINEMA-HUGAR PROD-FILS-UMEDIA

久保田明オススメ作品
Mr. ノーバディ

気鋭の87eleven Action Designが全面協力した大変面白いアクション映画

評価点:演出5/演技4/脚本4/映像4/音楽3

あらすじ・概要

ゴミ出しが遅れて、いつも妻に怒られている平凡な中年男ハッチ。しかし彼は爪を隠し持っていた! 全篇に驚愕の戦いが展開する奇想アクション。くわえ煙草に無精ヒゲの彼は、妻と子どもたちを守れるのか。

観終わると分かるのだけれど、“『ジョン・ウィック』は犬!『Mr.ノーバディ』は猫! ”とのキャッチコピーをつけ笑いたくなる、たいへんに面白いアクション映画だ。

全篇POV(一人称視点)で進行した快作『ハードコア』の新鋭イリヤ・ナイシュラー監督の第2作で、オープニング早々、取調室でニヤリとする血だらけのおじさんを、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』でワシントン・ポスト紙の記者を演じていたボブ・オデンカークが演じている。あまり覚えていないでしょ? その普通さが利用されているのだ。

画像: 気鋭の87eleven Action Designが全面協力した大変面白いアクション映画

スタントマン出身のチャド・スタエルスキ(『ジョン・ウィック』三部作演出)が親友のデヴィッド・リーチ(『アトミック・ブロンド』演出)とL.A.に設立した格闘スタジオ「87eleven Action Design」が全面協力しており、この会社はスタエルスキが『マトリックス』製作中に出会った香港から来た振付師ユエン・ウーピンの武術チームからヒントを得たものだった。道場で演出家とスタントマンを同時に育てること。オデンカークもここで鍛錬に挑んだ。

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渡辺麻紀オススメ作品
トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング

義賊として有名なアウトローに新たな視点で迫り映像も美しい

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像5/音楽3

あらすじ・概要

オーストラリアの荒野に暮らす貧しいアイルランド移民一家。幼いネッド・ケリーは生活に窮した母親によって山賊に売り飛ばされる。彼から悪事を学んだネッドは10代で投獄され、以来社会の理不尽さに怒りを募らせることに。

オーストラリアの義賊として知られるケリー・ギャングはこれまで何度も映画化されてきた。今回は同国出身のジャスティン・カーゼルが、おそらくこれまではなかっただろう新解釈と力強さでその人物像に迫っている。

というのも本作のケリーは義賊ではなく、多くのトラウマや悲劇を抱えた青年として描かれる。そのトラウマと悲劇の根源となるのが実母の存在で、ケリーはとことん彼女に翻弄されまくり、気づけば悪党の烙印を押され、アウトローの人生を選ばざる得なくなる。そういう意味では、濃密にケリーの人生を掘り下げているように思えるのだ。

画像: 義賊として有名なアウトローに新たな視点で迫り映像も美しい

そうやってドラマ部分を充実させつつ、監督のカーゼルは映像にもモノを言わせる。灰色の樹木が並ぶ冷たい大地を、真っ赤なドレスをなびかせながら馬を走らせる男のその俯瞰からの美しい映像。この奇妙な組み合わせが、まるでケリーの人生のように見えて強烈な印象を残す。久々に美しい映画を観た。

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