作品選びにお悩みのあなた!そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。変異ウイルスと激動のオリンピック。先の読めぬ日々に映画の出番もない? 全て時が解決するのだろうが。

杉谷伸子
映画ライター。海外ドラマは見始めると止まらない。『ザ・モーニングショー』シーズン2も待ち遠しいけど、怖い…。

よしひろまさみち
映画ライター。長年この仕事やってきましたが、この作品の劇場用パンフの原稿ほど苦悩したことなかったっす。

土屋好生オススメ作品
1秒先の彼女

チェン・ユーシュン監督の最新作はこれまで以上に洗練された独自の映像感覚を生み出す

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽3

あらすじ・概要

他人より行動がワンテンポ早いか遅いかで四苦八苦する運命的な2人の出会い。やがてそこに過去の記憶が紛れ込み、複雑に絡み合う。それはアラサー女子の脳内を意図せず俯瞰するような笑いと涙の世界だった…。

見た目は女性好みのラブコメディー。が、ふたを開ければそこに奥の深い〈人生〉を感じさせる恋愛喜劇になっているあたり、さすが「熱帯魚」「ラブゴーゴー」で一世を風靡した台湾人監督だけのことはある。その人チェン・ユーシュンの最新作は前2作に勝るとも劣らぬ笑いと涙の評判作、どころか一段と洗練の度を加えて独自の映像空間を作り出す。

表向きはアラサーの郵便局員の結婚願望を描くファンタジーに見えるが、コトはそれほど単純ではない。結婚への憧れが現実となるにつれて彼女の記憶は過去へとさかのぼり、冷徹な自己分析へと至る。現実と過去、幻想と記憶の枠を超え本当の自分を見いだすのだ。

画像: チェン・ユーシュン監督の最新作はこれまで以上に洗練された独自の映像感覚を生み出す

何事も他人より1秒早く行動してしまう彼女と逆に1秒遅くなる彼のアンバランスな組み合わせ。そこから生じる笑いが実に心地よくあれよあれよという間に2人の世界に引き込まれてしまう。が最大の魅力は主人公を演じるリー・ペイユーだろう。「チャーミング」という言葉がぴったりの逸材だ。

©MandarinVision Co, Ltd

杉谷伸子オススメ作品
プロミシング・ヤング・ウーマン

デビュー作で社会派とエンタテインメントを両立させた監督の手腕に興奮

評価点:演出5/演技4/脚本5/映像4/音楽4

あらすじ・概要

ある事件によって医大を中退し、30歳を目前にカフェで働くキャシー。夜ごとバーで泥酔したフリをし、お持ち帰りオトコたちに制裁を加えているのだが、医大時代のクラスメートとの再会で、止まっていた時間が動き出す。

将来を約束された若い女性の成長物語を想像させるタイトルとは裏腹に、毒のある笑いを効かせて描かれるのは、夜ごとお持ち帰りオトコに制裁を加える、かつてプロミシング・ヤング・ウーマンだったキャシーの復讐劇。その意表の突き方からして光るセンスに、最初から最後まで痺れっぱなし。

キャシーのサイコ気味な制裁に息を詰めさせつつも、医大仲間との再会で動き出すロマンスにときめかせる世界は、予想の斜め上を行き続ける展開でポップにエンターテインメントしながら、女性を取り巻く社会の酷さを浮き彫りにするのだから。

観賞後の余韻はまったく違うが、社会派とエンターテインメントを両立させたという意味でも、『パラサイト 半地下の家族』(2019)級の快作。それをオリジナル脚本でやってのけたのが、これが長編監督デビューのエメラルド・フェネルであることにも興奮せずにいられない。

画像: デビュー作で社会派とエンタテインメントを両立させた監督の手腕に興奮

その興奮と衝撃が大きければ大きいほど、前途を奪われた女性たちの無念に想いを馳せさせるタイトルが重みを増す。個人的には2021年ベスト1最有力候補です。

© Focus Features

よしひろまさみちオススメ作品
スーパーノヴァ

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像5/音楽4

あらすじ・概要

20年以上連れ添っているサムとタスカーは、キャンピングカーでの旅に出る。じつはタスカーは不治の病に侵されており、これは2人とって最期の旅。家族や友人を訪ねて回る彼らは、旅の終わりにある決断を迫られる。

相方が若年性認知症を患い、別離はそう遠くない未来という2人。あまりにもド直球なメロドラマだけに、既視感を覚える人が多いはず。だが、本作の主題はそこじゃない。同性カップルをはじめ、性的マイノリティの老後も、社会全体の問題としてとらえなければならない、ということだ。

この物語は同性婚が認められたイギリスが舞台だけにサムとタスカーはおそらく夫夫。それは、サムの親族とのパーティシーンで、互いを家族として認め合うさまを見ていれば明らかだ。では、日本のように同性婚が認められていない国で、長年連れ添った同性カップルが同じシチュエーションに陥ったときどうなるか。そこを考えるために本作はある。

画像: よしひろまさみちオススメ作品 スーパーノヴァ

主演2人が「愛にセクシュアリティは関係ない」と言っているとおり、どの国でも未婚のまま愛し合う2人が、サムとタスカーと同じような最期の旅をすることができるか? そう考えると、本作はイギリスにおける過去への反省のみならず、平等に人を愛すことができる世の中にするべきだと訴える作品とわかるだろう。

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