作品選びにお悩みのあなた!そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。ワクチンを打ったはいいけれど、その効能はまちまち。いったいどの製薬会社を信じたらいいのやら。

大森さわこ
映画評論家。ひそかに応援していたケイレブ・ランドリー・ジョーンズのカンヌ映画祭主演男優賞に大拍手!

斉藤博昭
映画ライター。毎週日曜朝の楽しみは「ウルトラセブン」4K修復版。リアルタイムの皆さんの反応・ツッコミが面白すぎ!

土屋好生オススメ作品
スザンヌ、16 歳

テーマは古めかしいがそこに何とも独創的な風を吹き込む20歳の監督による瑞々しい作品

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像5/音楽4

あらすじ・概要

16歳の高校生スザンヌは歳の離れた舞台俳優のラファエルに出会う。退屈な日常にうんざりしていた2人は恋に落ちる。夢の舞台に心ときめかせながら。が、スザンヌはかつて思い描いていた「今」に違和感を覚え始める。

みずみずしい映像表現。あるいは映像表現そのもののみずみずしさ。それを一つの芸術作品のなかに見いだすのは至難の業。まして映画という総合芸術においてをや。

テーマははっきりしている。題名通り女子高校生の恋物語というといかにも古めかしいが、弱冠20歳の新人監督の手にかかると何ともはや魔術師のようにそこから光り輝く独創的な風を吹かせて見せるのだから不思議なもの。

画像: テーマは古めかしいがそこに何とも独創的な風を吹き込む20歳の監督による瑞々しい作品

ここで問われる映像表現の極意は3つある。それは徹底的に無駄をそぎ落とした簡潔なせりふであり、終始無言の官能的なダンスであり、心に染み入る音楽である。その絶妙なバランスから浮かび上がるのは現実とは異次元の夢の世界であり、感受性鋭い主人公の繊細で純粋な内面である。

脚本・監督・主演の3役をこなしたのは20歳のスザンヌ・ランドン(名優ヴァンサン・ランドンの長女!)。脚本を書いた15歳から撮影時の19歳まで周到に準備を重ねた恐るべき才能の持ち主だ。

大森さわこオススメ作品
Summer of 85

二人の少年のひと夏の情熱的な関係を描き忘れられない余韻を残すF・オゾン監督作

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像4/音楽3

あらすじ・概要

アレックスはヨットで海に出るが、突然の嵐で船が転覆。近くを通りかかったダヴィドに助けられる。ふたりはやがて情熱的な恋に落ち、「どちらかが先に死んだら残された方が墓で踊る」という奇妙な誓いを立てる。

演出がうまい監督の映画を見るとすっと世界に引き込まれる。フランスの鬼才、フランソワ・オゾンの新作も例外ではない。舞台は1985年で、16歳の主人公アレックスは2つ上のダヴィドと出会い、ときめきを感じる。6週間だけの情熱的な関係が描かれ、夏の光の美しさにこちらもトキめく。

画像: 二人の少年のひと夏の情熱的な関係を描き忘れられない余韻を残すF・オゾン監督作

前半は似た傾向の「君の名前で僕を呼んで」を思わせるが、後半は残酷でグロテスクな要素も入り、終始“死の気配”が漂う点はオゾンらしい。原作は英国の作家、エイダン・チェンバーズの小説「おれの墓で踊れ」(徳間書店刊)で、オゾンは10代の時に読んで感銘を受けたという。

原作は英国が舞台でかなりシャープな文体。オゾン版はもっとロマンティックで柔らかな雰囲気だ。過去の出来事と現在が交錯する謎解き風の構成も監督の得意技。

アレックス役の新人フェリックス・ルフェーヴルは80年代の髪型のせいか、故リヴァー・フェニックスを思わせる場面が多く、何度もハッとなった(リヴァー風の切なさと繊細さがいい)。ささやかな作品だが、忘れられない余韻が残る魅力的なサマー・フィルム。

(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINEMA–PLAYTIME PRODUCTIONSCOPE PICTURES

斉藤博昭オススメ作品
リル・バック ストリートから世界へ

評価点:演出5 /演技-/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

メンフィスで貧しい少年時代を送っていたリル・バックは、ストリートダンスの「ジューキン」に夢中になる。やがてクラシックバレエのレッスンも受け、新たなスタイルを確立した彼は、世界で認められるダンサーに成長。

ミュージカル映画から、ダンサーのドキュメンタリーまで「踊ること」をフィーチャーした作品は、それだけで映像が躍動し、観る側にテンションも上がる。でも、この作品は、いい意味での「違和感」に引き込まれ、ダンスの新たな広がりを実感する別次元テイスト。

メンフィス・ジューキンという地元に根付いたストリートダンスに爪先立ちを入れたら面白くなると、クラシックバレエを習得したリル・バック。単に斬新なアイデア、あるいは肉体的才能だけなら、ここまで一流になっていないだろう。音楽を独特のアンテナでとらえ、突発的エモーションを肉体で表現する……。

画像: 斉藤博昭オススメ作品 リル・バック ストリートから世界へ

そんなリル・バックのパフォーマンスに、本能的に刺激される感覚だ。歴代の名ダンサーたちが踊ってきた「瀕死の白鳥」のリル・バック・バージョンは、ダンスにさほど興味のない人も、ストレートに驚きと感動を味わえるはず。基本、クールなリル・バックだが、子供たちにダンスを教える素顔は優しく、犯罪多発の日常という社会派テーマを「さりげなく」込めた作りも好印象。

©2020-LECHINSKI-MACHINE MOLLE-CRATEN “JAI” ARMMER JR-CHARLES RILEY

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