最新インタビューを通して編集部が特に注目する一人に光をあてる“今月の顔”。今回は、人気、実力ともにハリウッドのトップに君臨するジョニー・デップ。“日本”を描く話題の新作『MINAMATA―ミナマタ―』について語ります。

“一人では壊すことのできない巨大な壁も「小さな力」の蓄積で崩すことができるのです”

画像: Photo by SC Pool - Corbis/Corbis via Getty Images
Photo by SC Pool - Corbis/Corbis via Getty Images

ジョニー・デップ プロフィール

1963年6月9日、米・ケンタッキー州生まれ。変幻自在の演技力で『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズやティム・バートン監督とのタッグ作品など数々の大ヒット作を生み、人気、実力ともにトップの映画スターとして君臨。最新作『MINAMATA―ミナマタ―』ではプロデューサーと主演を務めた。

ジョニー・デップが最新作の舞台として選んだのは「日本」だった。主演最新作となる『MINAMATA―ミナマタ―』はそのタイトルどおり、日本における四大公害病のひとつ水俣病をテーマとする作品。水俣病の存在を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミスが1975年に発表した写真集「MINAMATA」が物語の基になっている。

1971年から1974年の3年間にわたって水俣で暮らし、住民の日常や抗議運動、補償を求め活動する様子を何百枚もの写真に収めたユージン・スミス。映画では、世界を変えたその写真の裏側にあった真実が、息をのむようなリアリティをもって描かれていく。水俣の街は70年代以降に大きく変化したため、水俣市でのロケーションは一部に限られたが、徹底したリサーチによって、セルビアやモンテネグロの海岸沿いの街に当時の水俣が再現された。

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伝説的な写真家の外見から魂に至るまでを体現したジョニーの演技は「ジョニー史上最高の演技」「ジョニーが役に消えた」と各メディアから賞賛を浴びている。ジョニーが本作に並々ならぬ熱意を注いだのは、「物語を正しく伝えたい」という思いから製作に参加したことからも明らかだ。果たして彼が本作に込めた思いとは。そしてキャリアのすべてをかけて、今伝えたいこととは──。

── 今回演じた写真家W・ユージン・スミスにはもともと憧れを抱いていたそうですね。

「ユージンは気難しいが繊細なボヘミアンで、すべてを見てきた百戦錬磨の戦争フォトジャーナリストだったと聞きました。また、ユーモアのセンスもある人で、『ファーストネームのWは何の略ですか?』と聞かれると『ワンダフル』と答えていたそうです。私はユージンに昔からとても興味がありました。

最初は彼の写真に興味を持ったのですが、彼が辿ってきた人生や彼が体験したこと、そして、何を犠牲にしてあのような瞬間を写真に捉えることができたのかなどを知りました。ユージンとアイリーンの水俣での活動は、とてつもなく重要なことでした。二人は危険に向き合いながらも、ひたむきに、熱意を持って取り組んだのです。二人は途中で投げ出さなかったのです」

── 伝説的人物として知られているユージンの人間味あふれる姿が描かれているのが印象的でした。

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「自分が読んだ情報や、彼を知る人々との会話から得た知識のとおり、ユージンを表現できていることを願います。彼は複雑な人でしょう? 狂人のようで、天才のようで、完全な無法者のボヘミアンです。そんな彼が、日本文化の中へ入っていく。それはまるで時限爆弾のようなものです。

彼は心の中に痛みを抱えていて、その痛みから逃れるためにあらゆることをしていました。でも、水俣が彼の心を再び開いたんだと思います」

── 環境問題をテーマにした本作の製作に名乗り出たのはどのような理由からだったのでしょう?

「水俣に関する記事を読んで知識を深めていくうちに、実際にそれが起こったという事実に衝撃を受けました。でもそれ以上に衝撃的なのは、その影響は解決されたわけではなく、未だに続いているということです。この歴史は語り継がれなければならないと思いました。

メディアや映画、芸術の持つ力を上手く活用すれば、過去の出来事も現在進行形の状況も、人々に伝え、関心を持ってもらうことが可能です。このような映画を作るのは実際にはなかなか難しいのが現実です。ただ私たちは幸運なことに水俣の現実を世の中に知らせるという名誉を授かりました。

この作品で少しでも多くの人々が、今まで知らずにいた事実に興味を持つきっかけになればいいと思います。関心を持てないのは、単純にそのことに対する知識がないだけです。知識を深めれば、おのずと関心を持つことに繋がります。映画の持つ力をフルに活用して、伝えたいメッセージを発信することが我々の願いでした」

── 真田広之、國村隼、美波といった日本人キャストも多く参加していますが、彼らとの仕事はいかがでしたか?

「ヒロさん(真田広之)は、彼自身の撮影が数日間ないときでも、毎日現場に来てくれて、若手の俳優の手助けをしたり、看板を描いてくれたり、セットの手伝いをしてくれました。映画に携わったすべてのキャストやスタッフが、心から献身的に作品作りに取り組み、アイリーンとユージンの活動を世に知らせなければならないという責任を強く感じていました。

俳優陣は美波もヒロさんも含めて全員が、それぞれが考えていた以上に、真剣に演技に取り組んだと思います」

── 本作に込めた思い、メッセージを教えていただけますか?

「我々の人生には時として、堅固で巨大な災難が立ちはだかることがあります。水俣病のような最悪の病であったり、火災であったり、あらゆる災難があります。そのような巨大な災難に対して、罵声を浴びせてもどうにもなりません。立ちはだかる巨大な災難の壁を、一人では壊すことはできない。

でも誰かが最初に問題を認識して少しずつその壁を崩していけば、小さな力であっても結果的にその蓄積で巨大な壁を崩すことができます。我々はみんな、ただの一片のホコリです。我々がその小さな力なのです。我々が窮地に立たされたときは、誰かが率先して巨大な壁を壊すことを始めれば、きっと大勢の人が後に続いてくれるはずです」

MINAMATA―ミナマタ―
2021年9月23日(木・祝)公開

監督:アンドリュー・レヴィタス
出演:ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波
配給:ロングライド、アルバトロス・フィルム

現在まで補償や救済をめぐる問題が続く日本における“四大公害病”のひとつ水俣病。その悲劇を世界に知らしめた写真集「MINAMATA」を基に、3年間現地で暮らした世界的写真家ユージン・スミスの実話を描く。テーマに共鳴した坂本龍一が音楽を担当。

© 2020 MINAMATA FILM, LLC
© Larry Horricks

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