デビュー以来、歳を重ねる数と映画作品数が追いかけっこをするように多作。その実力はと言えば、数々の国際映画祭で高い評価を得る作品を作り続け、持続可能性を見せつけて来た園子温監督。『愛のむきだし』(2008)『冷たい熱帯魚』(2010)『ヒミズ』(2011)などの代表作は、今や、伝説的映画として語られる。2019年の病魔に倒れた後も、すぐ復帰。その「走り」は揺るぐことがなかった。その復帰第一弾の劇場用映画作品が、『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』。園監督渾身の取り組みと、主演のニコラス・ケイジの新たな側面が滲みだす新作について、うかがう機会に恵まれた。

ハリウッド映画に園子温の世界観を融合させる試み

病気回復後にとりかかったのが、念願のハリウッド映画制作であるというのだから、どこまで不屈の精神の持ち主なのだろう。そのエネルギーはどこから来るのか。

主演がニコラス・ケイジであるところも注目しないわけにはいかない。園監督からの何気ないコメントからは、映画の現場ならではの、気取りのないリアリティがバンバン伝わってくる。

監督、撮影、美術、衣装は日本勢、脚本、編集、音楽はアメリカ勢と、映画づくりの重要な役割について、微妙な兼ね合いのコラボレーションで作られた『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』。出演者は日米入り混じっての競演である。

これって、どんな化学変化が起きるのだろう。仲良く上手くいくものなのだろうか。監督をオファーされた園監督のこだわりは、キャステイングや演出など幅広く行き渡っている。

ヒーローという名の「ヒーロー役」を演じるニコラス・ケイジ

「サムライタウン」で銀行強盗として逮捕され、殺人の嫌疑までかけられ牢に繋がれている犯罪人のヒーローという名の男を演じるのは、ニコラス・ケイジ。

画像1: ヒーローという名の「ヒーロー役」を演じるニコラス・ケイジ

悪徳の限りを尽くす、この街の支配者ガバナー(ビル・モーズリー)が、彼の手から逃れた女バーニス(ソフィア・ブテラ)を見つけだして連れ戻す条件で、ヒーローを釈放するも、その猶予は5日間。時間切れになればヒーローが着せられたボディースーツが爆発する。

しかも、バーニスがいる世界は、一度踏み込んだら二度と戻れないと言われる「ゴーストランド」。時が刻まれれば、原子力発電所が爆発を起こし「ゴーストランド」は壊滅するという。一触即発のギリギリのミッションに、ヒーローはどう挑むのか。

画像2: ヒーローという名の「ヒーロー役」を演じるニコラス・ケイジ

彼の活躍で「ゴーストランド」に囚われている民衆たちをも救うことが出来る可能性もある中、彼はその名のとおり、「ゴーストランド」や「サムライタウン」を救う「ヒーロー」になり得るのか?

こんな筋書きの、徹頭徹尾、お約束のハリウッド映画の誕生か!となるのだが、そこは園監督独特の世界観溢れる「味付け」が満載なのだ。

ニコラス・ケイジをどうイジるのか

── アメリカでの上映、次いで日本での公開おめでとうございます。

ありがとうございます。やっぱり、劇場での公開は良いものですよ、映画ですからね。

── 本作の前には、ご病気から回復された後、『緊急事態宣言』(2020)の中の一作品、『孤独な19時』(2020)をネット上映作品として、作られていましたよね。実に精力的で、監督のエネルギーは留まるところを知らないという印象ですが。

『孤独な19時』のことですか。あれは、30分のドラマです。ですから、劇場用の作品としては、病気回復後に作ったのは、やっぱり今回の作品ということになります。

── そうでしたか。ニコラス・ケイジを思いのままにするエネルギーが、作品からほとばしっていました。

私はニコラス・ケイジ大好きで、ハリウッド映画ってスターをイジって追いつめてサド的に演じさせていく。演じる方はマゾ的に演じ、観客は気持ちを揺さぶられる。最後にそれを乗り越える姿を観て、胸がすく。この流れが王道だと思いますが、監督は本作で、それを成し遂げられました。何しろ、のっけから彼を「スッパダカ」にしちゃうんですから(笑)。

いや、彼は自分の(今の)肉体(の見映え)で、それでもいいのかって心配していましたが、ちゃんと言うことを聞いてくれましたよ。お尻をうつされることを、とても恥ずかしがっていましたけれど、まあ、ふんどし姿ですから。

彼は、これまでの僕の作品を気に入ってくれていまして、僕が病気になった時もとても心配してくれて、回復を待ってくれたり、メキシコで撮るはずだったロケを、僕の体調を考え、彼が日本国内に来てくれての撮影に承諾もしてくれたんです。

── 思いやりとリスペクトのある方ですね。ロケ地はどちらですか?

滋賀県の彦根です。それと、ニコラスは日本にいる間に、出演者の中からフィアンセを見つけて帰りましたよ。「ゴーストランド」に閉じ込められて、マネキンみたいにされている女性の一人を演じていますけれど。

── ああ、あの中のお一人ですね。「囚われる」という概念を園監督の美意識でアートのように描かれていたシーンです。それにしても、女優のリコ・シバタさんとの出会いが、この映画だったなんて。その後、結婚もされたとのことで。映画づくりが愛も育んだというミラクルで、素晴らしい出来事です。

画像: ニコラス・ケイジをどうイジるのか

アクションとしての、「チャンバラ」

── 本作の見どころの一つは、ニコラス・ケイジの殺陣のシーンが圧巻でした。西部劇風味だということで、銃撃戦はもちろん想像していましたが、刀をニコラスが振り回す!というのには興奮させられます。今までにない、彼の演技力の側面を見せつけました。

やはり、クエンティン・タランティーノ監督作品『キル・ビル』(2003)とかもそうだったと思いますが、ハリウッド勢が魅せる「チャンバラ」シーンは、観る者にとっても見どころがありますし、演じる方々にとってもやりがいがあるんでしょうね。

そうですね、ニコラスもそれはぜひ、やってみたいと言っていて、もの凄く熱心に指導を受けていました。(ヤスジロウ役を演じた)TAK∴こと、坂口拓が殺陣の専門家なので、彼が指導してくれて。

── そして、本作には様々な映画作品のオマージュが感じられたのですが、今回、初のハリウッド映画との取り組みということで、今までと違うやり方での準備とかお考えがあったことでしょうね?

今まで自分が観て来た数々の作品のパロディ的な要素も入っています。あくまでも筋書きはシンプルに。いわゆる僕たちが観て来たアメリカ映画、今回はニコラスが立ち上がって「悪いヒト」をやっつけるという王道で行く。その分、ディテールやビジュアル的なことにはに凝りたいというのが、こだわりです。

オマージュを込めたディテールに凝ってみる

── 具体的な作品として、オマージュしたものと言いますと?

一つには、マカロニ・ウエスタンです。クリント・イーストウッドより、ジュリアノ・ジェンマとかフランコ・ネロ主演のもの。ニコラスが犯罪人として牢獄に収監されている、その建物の屋根を歩き回る男たちの靴の陰なんかを、あえて気にして描いてみたのも、僕にとってのマカロニ・ウエスタンの印象的な記憶です。

画像: オマージュを込めたディテールに凝ってみる

── さらに、園監督の今までの作品に関わられたキャストの方々も揃い踏みですし、ご自身の作品へのオマージュも込められているように感じられました。自転車が登場したりするのは、監督の初期の『自転車吐息』(1990)への想いの現れなんじゃないかとか?

(その作品は)ずいぶんと前のことですね(笑)。まあ、そうですね……、ハリウッド映画と日本の自主映画の融合みたいな取り組みだと言ったら良いのかな。だから撮影も本当に、アットホームに進みました。

── そういう時に、ニコラスさんもご一緒に?

もちろんそうですよ。ウチの役者たちも、撮影終って居酒屋でニコラスに、寄ってよってたかって、「演技の仕方教えて下さい」とか聞いたりして。

── そうなんですね、いい感じですね。日米で作品を作ると、独特の違和感が作品に生まれる、滲むというようなこともありがちですが、今回の監督の作品には、そういうものが全く感じられなかったんです。上手く融合して独特のエキゾチシズムな園監督のオリジナルな世界観が生れていて。

ありがとうございます。

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