作品選びにお悩みのあなた!そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。「コロナ禍」なんて安易に使いたくない。明らかにこれは一つの時代の終わりであり、始まりなのだから。

大森さわこ
映画評論家。待望の『ザ・ビートルズ:Get Back』100分のスペシャル版の劇場上映会に参加。映像と音質がクリアで驚く。

杉谷伸子
映画ライター。発売当時にお迎えしそこねたスパーキーのBIGフィギュア。めぐり逢える日を待ってます。

土屋好生オススメ作品
ダ・ヴィンチは誰に微笑む

オークションで史上最高額で落札されたダ・ヴィンチの絵は果たして本物か?

評価点:演出4/演技3/脚本4/映像3/音楽4

あらすじ・概要

モナ・リザといえばレオナルド・ダ・ヴィンチを思い浮かべるが、ここに登場するモナ・リザはダ・ヴィンチの最後の作品といわれるキリストを描いた肖像画サルバトール・ムンディ。が、この絵にニセモノの疑惑が…。

大富豪や美術商、コレクターやジャーナリストらへのインタビューを中心に構成されたシンプルかつ中身の濃いドキュメンタリー。イエス・キリストを正面から描いた渦中の肖像画「サルバトール・ムンディ(通称=男性版モナ・リザ)」)が、その筆遣いや色合いがレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」にそっくりなことから誰しも心騒ぐものがあるのだろう。

が何と言ってもこの騒ぎの発端はオークションでの落札価格。その額たるやわれら庶民には縁遠い510億円の史上最高額というのだから何をか言わんや。しかも肝心の肖像画は行方知れず……。これでは手の施しようがない。

画像: オークションで史上最高額で落札されたダ・ヴィンチの絵は果たして本物か?

それにしてもこの肖像画にまつわるエピソードの数々はドキュメンタリーの枠を超えてよく練り上げられたミステリー小説を思わせ手ごたえ十分。果たしてこの肖像画はダ・ヴィンチの手になる本物なのか。その真偽もさることながらそこに人間の底知れぬ欲望と真実探求の熱意を垣間見る思いがする。監督はアントワーヌ・ヴィトキーヌ。

© 2021 Zadig Productions © Zadig Productions-FTV

大森さわこオススメ作品
パワー・オブ・ザ・ドッグ

ジェーン・カンピオン監督が人間の“性的な力学” を意外な方向から描く

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像5/音楽5

あらすじ・概要

1920年代。大衆食堂の経営者、ローズは優しい性格のジョージと再婚し、彼の兄フィルが仕切る牧場に移り住む。気難しい兄は彼女と対立するが、彼女の息子、ピーターがフィルに接近すると、意外な変化が起きる。

始まるとすぐにジョニー・グリーンウッドの音楽にひきつけられる。不安をかきたてるが、妙に魅惑的な曲。荒々しさと優雅さの合体。やがて、それは主人公の役柄そのものだと分かる。舞台は1920年代のアメリカで、彼は裕福な牧場のカリスマ的カウボーイとして君臨。弟の妻を嫌い、対立関係となるが、彼女と前夫の間に生まれた息子の登場によって、主人公の意外な面が見え始める。

原作はアメリカの作家、トーマス・サヴェージの67年の小説。不穏な空気が漂い、オチも衝撃的だが、映画版も緊張感が途切れない。『ブロークバック・マウンテン』(2005)を思わせる内容で、主人公の内なるマチズモが崩壊する過程が詩的な映像でとらえられる。

画像: ジェーン・カンピオン監督が人間の“性的な力学” を意外な方向から描く

主演のB・カンバーバッチは傲慢さの向こうの孤独や繊細さも見せ、圧倒的な存在感(オスカーも有力?)。母子役のK・ダンストとK・スミット=マクフィーも好演。J・カンピオン監督の12年ぶりの映画で、傑作『ピアノ・レッスン』(1993)に通じる人間の“性的な力学”を今回は意外な方向から描き、ずばぬけた演出力を発揮する。

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』独占配信中

杉谷伸子オススメ作品
パーフェクト・ケア

判断力が衰えた高齢者を狙う法廷後見人を演じるロザムンドがまさにはまり役!

評価点:演出5/演技5/脚本5/映像4/音楽3

あらすじ・概要

“完璧なケア”で裁判所の信頼も厚い法的後見人マーラ。新たな獲物である老女ジェニファーをケアホームに送り込むが、身寄りのないはずのジェニファーをめぐり、不穏な動きを見せる男たちが…。

ロザムンド・パイクには、完璧な女性の皮を被った悪女がよく似合う。判断力の衰えた高齢者を守るふりをして、実は資産管理の名目で合法的に財産を搾り取っている法廷後見人なんて、『ゴーン・ガール』(2014)のエイミーを超えるハマり役。裁判所の信頼と法律を武器に、狙った獲物はケアホームに送り込み、不動産も勝手に売却。本人不在で重大事が進められる制度に戦慄し、マーラのえげつない手口に半端ない怒りが湧いてくる。おかげで、身寄りがないはずの老婦人ジェニファー奪還に動き出す男の成功を願わずにいられなくなるのが、本作のユニークなところ。主人公の敗北を願い、敵に叩きのめされることにこれほど痛快感を覚える映画が未だかつてあっただろうか。

画像: 判断力が衰えた高齢者を狙う法廷後見人を演じるロザムンドがまさにはまり役!

パイクの快演はもちろん、ジェニファーの二面性を抑えた演技の中に鮮やかに浮かび上がらせるダイアン・ウィーストもさすがの貫禄。アクションエンタメとしても、息詰まるサスペンスとしても楽しませてくれるだけではなく、高齢者社会に増えそうな犯罪への警鐘としてもいい仕事してます。

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