俳優としてのみならず、監督としてもハリウッドの第一線で活躍し続け、2度のアカデミー賞を受賞している名匠クリント・イーストウッド。そんな彼の最新作『クライ・マッチョ』は、監督デビューから50年、40作目となる本作は彼の念願の企画を映画化した人間ドラマだ。(文・相馬学/デジタル編集・スクリーン編集部)

元雇い主の息子を連れ戻す依頼を受け誘拐犯として追われる身に!

原作小説は1975年に発表され、イーストウッドはその頃から映画化を考えていたが、自分が演じるには主人公は年老いているとして棚上げしてきた。今回の映画化は、まさに“機は熟した”ということ。91歳のイーストウッドが主演を兼任し、人生の哀歓をリアルに体現する。

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主人公はロデオ競技のスターとして名前を馳せたが、落馬事故以来、落ちぶれてしまった老カウボーイ、マイク。そんな彼に、かつての雇い主ハワードが、メキシコにいる十代の息子ラフォを連れ戻して欲しいと頼んできた。ラフォはポークの別れた妻に引き取られているが、リッチな彼女は遊び好きで育児放棄状態にあるという。誘拐すれすれの危険な仕事だが、マイロはこれを引き受け、メキシコに飛ぶ。この波乱に富んだ旅は、彼の人生を変えることになる……。

ロードムービーのスタイルをとり、世代も考え方も生き方も異なるマイクとラフォが旅を通して理解し合う、そんな物語を描写。彼らのやりとりはユーモラスで人間味にあふれており、イーストウッドのキャラクター描写の鋭さに改めてうならされる。人間のおかしさや悲しさをサラリと浮き彫りにする点は、とりわけ注目すべきで、大げさな感情描写はない。あくまでも自然体で人間を描こうとするイーストウッドの作品の旨味を、ぞんぶんに堪能できる。

ハワード役にカントリー歌手としても知られる『ローガン・ラッキー』のドワイト・ヨーカム。ラフォにふんした15歳の注目株エドゥアルド・ミネットも、イーストウッドの演出に応えて、ナチュラルな存在感を発揮する。ハワードとラフォの旅の終着点は、どこなのか? 滋味深いドラマを味わいながら、彼らの人生の転換を見守って欲しい。

登場人物

マイク(クリント・イーストウッド)

画像: マイク(クリント・イーストウッド)

馬の調教師をして生計を立てる元ロデオスター。

ラフォ(エドゥアルド・ミネット)

画像: ラフォ(エドゥアルド・ミネット)

反抗的だが、離れて暮らす父に会いたがっている。

ハワード(ドワイト・ヨーカム)

画像: ハワード(ドワイト・ヨーカム)

牧場経営で財を成した実業家でマイクの元雇い主。

マルタ(ナタリア・トラヴェン)

画像: マルタ(ナタリア・トラヴェン)

田舎町で食堂を経営し、孫たちを養う気丈な女性。

本作に踏襲された〝イーストウッド節〟を考察

考察1:少年は老人から学び老人は少年から生き甲斐を得る

『グラン・トリノ』(2008)

画像: ©2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
©2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

イーストウッドの21世紀の代表作を問われたら、本作を挙げるファンも多いのでは? 朝鮮戦争の出征体験により心に傷を負い、頑固者となってしまった老人が、隣に越してきたアジア系移民の一家と交流することに。とりわけ、不良たちのいじめの対象になりやすい長男は老人と強い絆を築いていく。

孤独な老人と少年の交流という物語は、『クライ・マッチョ』に通じるものが。少年は老人から生きる術を学び、老人は少年から人と人のつながりという生き甲斐を得る。人間は道を間違える生き物だが、他者との交流から間違いに気づき改めることもある。そんなコミュニケーションの温かみこそが本作の魅力であり、『クライ・マッチョ』にもそれは受け継がれている。

考察2:カウボーイ姿と軽快なユーモアが『クライ・マッチョ』にも

『ブロンコ・ビリー』(1980)

画像: Photo by Warner Brothers/Getty Images
Photo by Warner Brothers/Getty Images

監督としてもスターとしても、脂の乗っていた50歳のイーストウッド、1980年の監督・主演作。彼扮する主人公ビリーは、西部開拓期を再現した曲芸ショー旅芸人の座長。そんな一座に、裕福な家を飛び出した勝ち気な女性が飛び込んできたことから、彼らの旅は騒動続きのものとなる。

まず注目したいのは、ビリーが一座の花形スターであること。馬を華麗に乗りこなすイーストウッドを見ると、『クライ・マッチョ』の主人公の若い頃も、こんなふうだったのではないかと思わずにいられない。さらに注目すべきは全編にあふれる軽やかなユーモア。主人公とヒロインのケンカ腰のやりとりをはじめ、クスッと笑ってしまう見せ場が。これもまた、『クライ・マッチョ』との共通点だ。

考察3:どうしようもないダメ男が十代の少年との旅で見せた男の生き様

『センチメンタル・アドベンチャー』(1982)

画像: 考察3:どうしようもないダメ男が十代の少年との旅で見せた男の生き様

1980年代のイーストウッドの一般的なイメージは、アウトサイダーの影を背負ったキャラクターを得意とするアクション・スター。そんな時期に監督・主演を務めた本作で、彼は意外にも旅回りの売れないカントリー歌手を演じた。豪放な性格だが、アル中でどうしようもないダメ男。そんな彼が、ひょんなことから十代半ばの甥っ子を連れて、故郷ナッシュビルへと旅に出ることに。

そんな基本的な展開からして『クライ・マッチョ』の原点。甥っ子を演じたのは、これが映画初出演となった実子カイル・イーストウッド。タフガイとは程遠い主人公像ゆえ、イーストウッドの監督・主演作の中では最低の興行成績となったが、後に最重要の監督作として再評価されている。

考察4:老いを笑い飛ばすイーストウッドの凄みを確信!

『運び屋』(2018)

画像: ©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BVI)LIMITED,WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND RA TPA C-DUNE ENTERTAINMENT LLC
©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BVI)LIMITED,WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND RA TPA C-DUNE ENTERTAINMENT LLC

高齢となったイーストウッドは、一時は役者業から身を引き、監督業に専念することを宣言していたが、そんな彼が『グラン・トリノ』以来、10年ぶりに監督・主演を兼任した本作。生活に困ったあげく、メキシコとの国境を渡り歩く麻薬の運び屋となった老人の実話を、ユーモラスに描いてみせた。

21世紀のイーストウッドの監督・主演作は老いを笑い飛ばす要素が多分に含まれているが、本作も同様で“ジジイだから怪しまれずに国境を越えられる”という視点が面白い。『クライ・マッチョ』には誘拐という犯罪の要素があるが、侮られがちなジジイでも法を犯すことはある。それを軽やかに体現してしまえるのが、現在の俳優イーストウッドの凄さなのかもしれない。

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