約40年にわたってハリウッドを中心に映画記者活動を続けている筆者が、その期間にインタビューしたスターは星の数。現在の大スターも駆け出しのころから知り合いというわけです。ということで、普段はなかなか知ることのできないビッグスターの昔と今の素顔を語ってもらう興味津々のコーナーです。今回は、監督デビュー50周年作品『クライ・マッチョ』が絶賛公開中のクリント・イーストウッドに注目です!(文・成田陽子/デジタル編集・スクリーン編集部)

成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。

歳をとればさらに興味深い役が演じられるものだよ

クリント・イーストウッドに初めて会ったのは『バード』(1988)の時。音楽好きのクリントが大好きなジャズのサキソフォン奏者、チャーリー“バード”パーカーをフォレスト・ウィテカーに演じさせ、自分は監督のみを手がけた時。既に58歳だったものの、精悍なルックスとスリムな長身のせいだろう、40代にしか見えなかった。もっとも顔は既に皺が刻み込まれていたが。

ハリウッドは百万ドルの美脚とか百万ドルの笑顔などといって俳優に保険をかけたりするのだが、クリントの場合は「百万ドルの眩しい顔」だそうで、往年のマカロニ西部劇にしろ、“ゴー・アヘッド、メイク・マイ・デイ”と言う捨て台詞で有名になったダーティハリー刑事にしろ、直立したたたずまい、信念に篤い姿勢などなど、何としても頼もしい存在だ。

1989年ころのイーストウッド

2021年の5月31日に91歳になったクリントの主演、監督作『クライ・マッチョ』(2021)では、「マッチョという言葉は過剰に重んじられている。マッチョなどクソくらえ!」と少年に説いているのだが、彼自身、マッチョのシンボルのように敬われた過去に対する捨て台詞にも聞こえてくる。

主人公は元ロデオライダーという設定で映画の中では荒馬を調教したり、メキシコの女性とロマンスを展開したり、うーん、やり過ぎでは!と思ってしまうシーンもあるが「マッチョ」と言う名の闘鶏を持つ少年との友情の発展には心が暖まり、さすが!と感嘆してしまう。

今回はコロナのせいでインタビュー無しだったが、昔からやりたかった企画で、一時は自分は若すぎるからロバート・ミッチャム(!)を主演にして自分は監督に集中とも思ったそうだ。年齢のことばかり気にするハリウッドに対して「もちろん20歳の頃のルックスは無くなってしまったが、それがなんだって言うのだ。歳を取るに従って更に興味深い役が演じられるのだからね」と鼻息が荒いのも心強いではないか。

監督として幾つになっても前向きで新しいことに挑戦する姿勢でいたい

以前に年齢のことを質問した時は

「僕の長生きの背景はまずは遺伝子だろう。父は1906年に生まれ、大恐慌を経験しながら、ブルーカラーのハードワークを続けて84歳で亡くなり、母は健康で行動力を維持したまま97歳まで生きたという事実は決定的だろう。仕事に興味を持ち続けるのが要素でもある。仕事がなくとも何かに興味を持って、それに心身ともに浸ることが大事だ。

ポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラ監督(1908年12月11日生まれ。2015年に106歳で死去)は100歳を過ぎても精力的に映画を撮っている。数年前に彼に会ったとき、まだ彼は100歳前だったが常に新しいものに興味を持って、外に自分を置いて刺激を絶やさない。居心地の良い生活を避け、昔の事を思い出しては懐かしむ骨董品のような存在には絶対にならず、前向きに新しい挑戦に乗り出してゆく。素晴らしい姿勢だと思った」と嬉しそうに答えてくれた。

死後、馬とかライオンなどの動物に生まれ変わるとしたら、どんな動物になりたいかと聞いてみると、「ベッドバグ(マットレスに住むダニのような虫)かな(笑)。必ず食事にありつけるし、相手にとっては居心地の悪い思いをするだろうが。嫌いなやつの生き血を吸ってリベンジするのも良いだろう。きみは知らないだろうが、カリプソの曲で男がベッドバグになりたいというクレイジーな歌があるのだよ。若い時に聴いたのだが歌手の名前はマイティー・ゼブラといったかな。本当の事を言うと生まれ変わりなどを信じていない。与えられた人生を全うし、尽きた時はそれでおしまいと思いたいから。ライオンだの竜だのと強がるのは自分でコントロール出来なかった人生を暗示しているようだろう。もっと潔く往くべきだと私は思いたい」

といかにもクリントらしい「思想」が跳ね返ってきた。

画像: クリントと筆者

クリントと筆者

Photo by GettyImages

前回の連載はこちら

This article is a sponsored article by
''.