国際的映画祭などでの数々の受賞歴がその実力の証し。フランスの名監督の一人、ジャック・オディアール。新作の『パリ13区』(2021)は、観光地としてのパリとは真逆な、13区に生きるミレニアム世代の男女の愛やセックスへの渇望、不安や孤独感をモノクローム映像で迫った作品だ。70歳を前にした監督の新たな取り組みや、作品への想いをうかがうことが出来た。
カバー画像:director photo JA ©EponineMomenceau

受賞歴が華々しい、オディアール監督作品

ジャック・オディアール監督と言えば、確かな映画づくりで知られるフランスを代表する一人だ。注目すべきは、彼の作品が世に出るたびに数々の賞に輝くということ。いつも目が離せない。

1994年に『天使が隣で眠る夜』で監督デビューするやいなや、セザール賞で新人監督賞のみならず、新人男優賞、編集賞を獲得。『預言者』(2009)はカンヌ国際映画祭でグランプリに輝く。

『君と歩く世界』(2012)はゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞と主演女優賞にノミネイトされ、国際的にもその存在を広めていく。

『ディーパンの闘い』(2015)は、カンヌ国際映画祭で三度のノミネイトにして、ついに最高賞のパルムドールとなる。次いで、『ゴールデン・リバー』(2018)はセザール賞4冠、リュミエール賞3冠、ベェネチア国際映画祭銀獅子賞を獲得するという快挙を得る。その他作品も受賞多数で、負けを知らない逸脱した映画の作り手だ。

そんなオディアール監督の新作となれば、期待と注目が集まる。それが、本作、2021年のカンヌ国際映画祭に、またまたノミネイトを果たした『パリ13区』である。

画像: 受賞歴が華々しい、オディアール監督作品

13区は、セーヌ川南岸にあり、1970年代の都市再開発で生まれ、高層マンションやビルが林立する新興地区。観光都市として知られるシックなパリのイメージとは大きく違って、アジア系移民なども多く住む多様性溢れる場所。

本作の原題に表される『les Olympiades』は、高層ビル街の総称であり、1968年に開催されたグルノーブルの冬季オリンピックを記念して、各タワーには開催都市の名が、通りには競技の名前がつけられているそうだ。

新たな取り組みは、多様性を活かしたコラボレーション

今回注目すべきは、今最も旬で才能溢れる二人の女性監督との共同脚本づくりにオディアール監督が取り組んだこと。

『燃ゆる女の肖像』(2019)で、一躍世界的評価を得たセリーヌ・シアマ監督と、注目の若手監督で脚本家のレア・シミウスのまなざしが鋭く注がれる。

日系アメリカ人作家のエイドリアン・トミネの短編小説3作品(『アンバー・スウィート』『キリング・アンド・ダイニング』『バカンスはハワイへ』)から着想し、数々のウイットに富んだ会話を生み出し、登場人物4人のキャラクターを際立たせていった。

登場人物に中国系、アフリカ系フランス人を設定し、キャスティングした点も含め、『パリ13区』は、その地域の持つ多様性さながら、実に多様なコラボレーションの成果によって完成した斬新な作品となっている。

奔放な愛と性愛、孤独感をモノクロームで描く

描かれるのは、13区に祖母のアパートがあり、そこに住まう活動的で自由な20代台湾人のエミリー。ルームメイトの募集広告を出した彼女の部屋を訪ねるカミーユというアフリカ系フランス人で教師の30代青年。ソルボンヌ大学に法学生として復学する32歳の女性ノラ。元ポルノスターで、カムガールを職業にしている「アンバー・スウィ―ト」名の女。

画像1: 奔放な愛と性愛、孤独感をモノクロームで描く

エミリーとカミーユはルームメイトになるも、すぐさまセックスフレンドにもなる。ノラはヴァーチャルな性的キャラクターであるアンバー・スイートに似ていることで本人と思われ、大学での居場所を狭めていくのだが、自身もアンバーに惹かれ、ヴァーチャルな世界へとのめり込み親密になっていく。同時に、あるきっかけで、カミーユとも繋がっていき濃密な時間を共にする……。そんな4人の出会いが交差し、デジタル、SNS、ヴァーチャル時代の象徴として浮き彫りにされる。

そこには自由奔放でありながらも、孤独感に抗うことが出来ず、自分はいったい何者なのかを模索する不安定な魂が見え隠れする。

どこかハートブレイクな、どこかユーモラスな、そんな彼らの毎日は、フランス、パリ13区のみならず、世界的に、また、日本に住まう我々そのものの毎日のようにも思えてきて胸が熱くなる。

全編でたびたび描かれる性愛シーンは迫力だが、モノクロームが効果的で大胆で美しくアーティスティック。

ダンスの振り付け師の指導の下での演出だそうで見どころの一つでもある。

画像2: 奔放な愛と性愛、孤独感をモノクロームで描く

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