開催中の第75回カンヌ国際映画祭 「コンペティション」部門に正式出品された『ベイビー・ブローカー』の是枝裕和監督とキャスト陣が公式上映に続き、フォトコールと記者会見に参加した。

物語のきっかけとなる「赤ちゃんポスト」や複雑な役へのアプローチを語る

日差しの強いカンヌ。快晴の中サングラスをかけ、公式上映の正装とはうって変わってカジュアルな装いでフォトコールに登場した是枝裕和監督。白い爽やかなジャケットに身を包んだソン・ガンホと、個性的なハーフパンツスーツでラフに決めたカン・ドンウォン、タイトな白いミニスカートのスーツからのぞくスラリとした足が目を引くイ・ジウン、さらに白いパンツスーツの胸元がセクシーなイ・ジュヨンも揃って世界から集まったスチールカメラマンたちの前で笑顔で撮影に応じた。
カメラマンたちからは「コレエダー」という声が飛びかい、サングラスをつけるよう指示されたり、監督もそれにこたえたりと、和気あいあいとしたフォトコールとなった。

画像1: 物語のきっかけとなる「赤ちゃんポスト」や複雑な役へのアプローチを語る

その後会見場へ向かった5人だったが、場内には多くのメディアが詰めかけ、質問も飛び交い、作品への注目度が伺える熱気に包まれた会見となった。

Q:(監督へ)キャラクターたちはみな孤独です。それでいて親密なグループを形成する家族の話ですが、今回もまた自分たちが選んだ家族の物語を描いていますが、どうしてそういう作品にしたのですか?

監督:まずは沢山お集まりいただいて有難うございます。
今回、車に乗り込む者たちの疑似家族の旅を描こうとおもって書き始めたプロットで、そこに乗り合わせる人たちが、あらかじめ色々な形で、一般的に考えられる普通の家族、親子という者から排除されている、切り離されて生きてきたという人たちが、ほんの短い間同じ車に乗るという話にしたいなと思って書きました。そのことによって、わたしたちが考えている、考えて捉えている“家族”というものを捉えなおしたいという気持ちもありましたし、彼らが一瞬だけ手にすることで何かひとつだけいいことをする、すごく小さな悪人だったり、悪意をもって旅に同行した人たちが、ひとついいことをする、そんな物語を紡いでみたいと思って作った映画です。

Q:(監督へ)ブローカーたちが犯していることは重罪ですが、視点はとてもヒューマニズムであったり、彼らに対する視線が優しい。だから少し混乱しました。どういう風にどうしてこういうキャラクターたちを生んだのでしょうか?人権的なことと犯罪的なところとそのキャラクターの視点が混乱するところでした。どうしてそのような設定にしたのかおしえてください。

監督:描かれるモチーフが深刻であればあるほど、ディティールの描写にはある種の軽やかさやおかしみのようなもの、コメディではないですが、人間が本来持っている存在のおかしみみたいなものを表現したいと思い、それを表現するにはソン・ガンホさんという役者さんは一番ピッタリだなと思いました。

画像2: 物語のきっかけとなる「赤ちゃんポスト」や複雑な役へのアプローチを語る

Q:(役者さんへ)4名とも素晴らしかったです。是枝監督と他の韓国監督たちとの一番大きな差はなんですか?教えてください。
(監督へ)釜山は映画人にとってとても大切な場所だと思いますが、その釜山を舞台にした理由を教えてください。

ソン・ガンホ:是枝監督と韓国の監督との違いは、是枝監督は食が大好きなところです。美食を好み、食べることが好きで韓国料理が好きです。他の韓国の監督との大きな違いでした。

カン・ドンウォン:監督と仕事して、他の監督の監督はわからないですが、現場では本当にそこに一緒にいてくれた。それは本当に素晴らしかったです。役者と共にいてくださる。そして感情をディティールにわたって捉えて下さる。

イ・ジウン:私にとっては監督と違うのはまず同じ言語を話しません。なので努力をします。ちょっとしたディティールも見逃さないように。原語のバリアがあるから、より集中しました。他の参加した映画に比べて面白い体験でした。

イ・ジュヨン:監督との仕事はすばらしいもので、もちろん通訳は入れましたけども、それ以外はそんなに大きな差は感じませんでした。国籍が違うというだけで、非常に監督はリラックスしてましたし、私たちといても、そして現場の雰囲気もリラックスしたものを作ってくださったので撮影も快適でした。

監督:釜山のロケーションについては、映画祭には度々参加しているのですが、いつも食べるのに一生けん命で、撮影を前提に街を見ていなかったというのもありまして、今回ロケハンで結構色んな場所を候補として回らせていただきました。その中でやはりあの町は坂道が多い。山が迫っている。その立地の高低差みたいなものを活かした場所を、撮影のホン・ギョンピョさんと一緒に探して、結果的にああいう場所を選んで撮影しました。とても魅力的な街で、ソウルとの違いもワンカットで出るという、とても面白い撮影でした。

画像3: 物語のきっかけとなる「赤ちゃんポスト」や複雑な役へのアプローチを語る

Q:(監督へ)あなたの作品は悲劇として描かれてもおかしくない。でも時にはコメディだしセンチメンタルコメディだと感じました。人間を信じているということでしょうか?人類を信じている気持ちを表現しようとしたのでしょうか。

監督:うん。あの、まぁ置かれている状況は本当に登場人物誰一人として楽観できる人はいないというか、深刻な状況だからこそ深刻に語るというよりは、どこかで軽やかにということは意識しますし、逆の場合は逆を考えるんですよね。それは、あの、まぁ一つの戦略でもありますけれども、何かを語って聞かせる時に、悲しい話を悲しそうに語っても聞いてくれないので、そこはむしろ笑える話として届ける。そういう様子を描いていくっていうのは考えますし、この作品に限らず僕自身は現実味を厳しさというものをどこかにきちんと描きこみながらもやはり最後に人間の可能性とか、ある種の善性みたいなものは、今回特に赤ちゃんを巡る話でもあるので、描きたいなという風に思いました。

Q:(ソン・ガンホさんへ)監督はパルムドールを2018年に受賞して、フランスで、そして韓国で撮影されてこられてました。監督のチャレンジをどうおもわれますか?

ソン・ガンホ:監督は素晴らしい作品を手掛けられてきた。例えば『真実』。フランス映画です。今もいろんな作品企画を手掛けられていることを知っています。監督は常に挑戦を受ける方で、そこに感銘をうけます。あるいは感服しています。この作品もそうです。最もワクワクさせる作品の一つです。日本と韓国では文化的な違いがある。そういうことがあっても私たちはそれを乗り越えて幸せに一緒に仕事をすることができましたし、そのことが逆にこの仕事を面白いものにしてくれました。

Q:(監督へ)監督はトリロジー三部作をこの作品で完成させているような感覚はありますか?『そして父になる』、『万引き家族』、この作品で終わらせている感覚はありますか?またフランスで映画を作りたいと思っていますか?

監督:繋がりがあるといえばそうかもしれない。
『そして父になる』を撮って、こういうインタビューに答えていると、女性は子供を産むとみんな母親になれるけど、男性はなかなか実感が持てなくて、父親になるには何か階段をのぼっていかないとなれないんです、というような実感を話したときに、友人から批判をされまして。女性でも産んだ人たちがすぐに母になるわけではない。母性というものが生まれつき備わっているのだということ自体が、やはり男性からみた女性に対する偏見であるということを指摘されて、それはすごく反省しました。そのことから、『万引き家族』の安藤サクラさんが演じた産まないんだけど母親になろうとする女性と、今回イ・ジウンさんが演じた産んだんだけれども、色んな事情で母になることを諦める女性という、その2人の女性像というのが、自分なりにそこの反省から生まれた2人の女性像という形で。これは本当に姉妹として描いているんですね。だから僕の中でも直線的に『そして父になる』からこの『万引き家族』と『ベイビー・ブローカー』はつながっております。

画像4: 物語のきっかけとなる「赤ちゃんポスト」や複雑な役へのアプローチを語る

Q:(ソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、イ・ジウンさんへ)素晴らしい演技でした。とても強烈なキャラを演じつつも、社会背景だったり、複雑な部分を理解させなければならなかったでしょうからどんな風に役に命を吹き込みましたか?

カン・ドンウォン:ドンスは孤児です。でも彼は赤ちゃんを売っている仲介役です。なので、リサーチでそういう孤児院とか環境で育った方にお話を伺いました。その方々の内に痛みを感じ、それを映画のなかで表現しようとしました。ソヨンと会うときに、彼の痛みは少し和らぎます。それを表現したいと思いました。

イ・ジウン:私にとって初めての母親役。しかも未婚の母でした。なのでスクリーンで表現するのに自分が実際経験したことがほとんどなく緊張しました。またベイビー・ボックスについてはそれが何であるかを知るのに調べなければいけませんでした。シングルマザーという役は慣れ親しんだものではなく、シングルマザーに対しても知識がなかったのでお話をしたり、いろんなインタビューやドキュメンタリーを見たりして、ある程度理解することができました。彼女たちが強い事、でも社会が彼女たちを見下しているということ。この経験で私の彼女たちを見る目がかわりました。

ソン・ガンホ:同じですね。この映画のすべてのキャラクターはいままで人生で幸せを感じていない。幸福だった過去もないし、今も幸福ではない。出会うまでは幸福ではなかった。監督が描いたのは彼らの日常。それは普通の日常かもしれないが、同時にそこにある暴力性やその恐怖心、苦しみも描いている。それぞれの人生でそう言ったことが積み重なってきているわけです。そして客観的な距離のある形でこの世界がどんなに冷たいものか描きつつ。私たちの心を同時に溶かしてくる。僕らはみなキャラクターのアプローチは似たようなものがあったと思います。

Q、(監督へ)捨てられる赤ちゃんについてデリケートな形で語られた映画だと思いますか?ベイビー・ボックスはすばらしい発明だと思います。そういう状況の見方は変わりましたか?

監督:日本でも韓国でも、この「ベイビー・ボックス」というものへの評価というのは定まっておらず、賛否色々とあると思います。多くは、この物語の冒頭でぺ・ドゥナさんが演じたスジンが発する「捨てるなら、産むなよ」という一言のような、母親に対するバッシングが多分大半を占めるんじゃないかと思います。あえて、そのスジンのセリフから始めつつ、彼女の目線を通して、車の外から見ていたら単なる犯罪者の集まりである彼ら、そして売られていく赤ん坊を見る目線を、2時間の映画を通して色々なところから揺さぶっていきながら、スジンの中で彼女の言葉や、考え方、目線、母親に対する意見がどういう風に変わっていくのか、それが、映画の縦軸になるのだろうなと思いながらつくっていました。何か、僕が意見を表明するというよりは、映画をご覧になった皆さんがスジンと同じようにあの旅に同行しながら、スジンがそうしたように、それぞれの今までの価値観をちょっとだけ見終わった後にもう一度見つめ直していただけるような、そんな映画であれば良いなと思っています。

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『ベイビー・ブローカー』
2022年6月24日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー 配給:ギャガ

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