今年のカンヌ国際映画祭の「ある視点部門」正式出品、みごと「カメラドール スペシャル・メンション」(Caméra d'or Special Mention)を受けた日本映画『PLAN 75』。初監督作品にして、この特別な栄誉を手にした女性、早川千絵監督には受賞前から注目していた。ハードなテーマへの取り組みや、監督にとっての映画づくりとは? どうして映画を作り続けたいのかなどなど、うかがいたいことは山のようにあった。
カバー画像 写真撮影:西山勲

自分で死を選べる制度を、どう描くのか

少子化と高齢化が進み、2025年には5人に一人が75歳になるという日本社会。世界に誇る長寿国家である反面、消費の担い手ではない年寄りは、社会の厄介者とばかり風当たりが強まっていくことは必至。

そんな現実に警鐘を鳴らすかのように完成したのが、早川千絵監督作品『PLAN 75』だ。

画像: 自分で死を選べる制度を、どう描くのか

後期高齢者となった者には、自ら死ぬ権利を選ぶことが出来るという法律が成立したという架空の世界での物語だ。仕事がない、住む場所がない、病気が重いなど、社会で役に立たない高齢者は、国が全面的に尊厳死を促進・助成するという戦慄の法律のもと、人は人としてどのように生きていくのか。衝撃の問題作だ。

本作が初長編作品となる早川千絵監督が脚本も手がけた。2018年に作られた『十年Ten Years Japan』の一つとして、『PLAN 75』と同タイトルの短編を作り世に出した後、みごと長編に挑んで、大きく花開いたのだ。

物語が現実であるかのような錯覚に陥るほどの演技で観る者を惹きつける、名優の倍賞千恵子から目を逸らすことは出来ない。

彼女が演じる主人公角谷ミチは、勤勉で元気に働いていたが、年齢的なことで職と住まいを失い、生き続ける術がない。「プラン75」に申請する道を選んだ。一方で、磯村勇斗演じるこの制度を担当する市役所職員岡部ヒロムは、疎遠となっていた伯父が、この制度の申請に来たことで偶然再会することになる。

様々な葛藤が淡々と描かれるが、制度の是非が問われる結末まで緊張感がみなぎり、繊細で美しい映像に圧倒され、観る者は心を揺さぶられる。

日本の、今そこにある危機を目の当たりにさせられる『PLAN 75』。作品に込められた、早川千絵監督の想いをインタビューでじっくりとうかがえたのはラッキーなことだ。

初長編作品で、カンヌ国際映画祭入選・スペシャル・メンションの快挙

── まずは、今年のカンヌ国際映画祭(以降、カンヌ映画祭と表記)の「ある視点部門」入選、そして、みごとカメラドール(初監督作品のベストワンに与えられる賞)の「スペシャル・メンション」に輝かれて、本当におめでとうございます。

ありがとうございます。

── 私は入選されたと知った時点で、その前から必ずや受賞すると確信しておりましたので、発表の壇上で早川監督が、あのスペインの女優、ロッシ・デ・パルマさんから栄誉を表明されている姿が、今も我がことのように嬉しく、瞼に焼きついています。

発表された瞬間は、どんなお気持ちだったのでしょう。

そうですね、ロッシ・デ・パルマさん、何回もギューッとハグして下さって……。

── とても素敵な方ですよね。最初から私事で恐れ入りますが、パルマさんとは『サム・サフィ』(1992)という、日仏合作作品で私が共同製作のプロデューサーだったことで、バルセロナのロケでご一緒して面識が出来ました。

その後、カンヌ映画祭で彼女が出演している『踊るのよ、フランチェスカ!』(1997)がプレミア上映され、会場で彼女とお目にかかったら、「観て、日本で配給してね」なんて頼まれまして、作品を配給したり、ご縁があるんです。

フランスでもカンヌ映画祭でも人気があり、映画愛でいっぱいのお人柄ですね。

そうだったんですね。彼女は今年のカンヌ映画祭では、「カメラドール」の審査委員長でした。

賞についての説明を個別に受けるんですが、この賞の「スペシャル・メンション」というのは、もう数年来、出ていないことを教わりました。だから、まさか『PLAN 75』がいただくなんて夢にも思っていなかったんです。

ロッシ・デ・パルマからの熱烈なラブ・コール

── どの映画祭ででも、「スペシャル・メンション」って、最高賞に準ずるものですけれど、最高賞に並ぶ栄誉だと私は思って来ました。最高賞は審査委員全員の多数決みたいなものですが、それには漏れても、傑出していて何か賞をあげないままでは済まされないという、優れた作品に贈られるものだと。

実は(上映後の)パーティの場で、パルマさんと審査員の一人、撮影監督をしているジャン=クロード・ラリューさんが、この作品を絶賛してくれて、賞を獲るべき作品だと、こっそり推してくださっていたんです。

それで、ちょっと(受賞への)期待もしてしまいましたが。

── すごいですね、それって、すごいことです。

パルマさんが、「あなたは、(45歳の)今まで何していたのよ?(笑)。素晴らしいから、これからも映画をやっていきなさいね。次回作には、私、出るわよ」言って下さって。

上映の翌日には、フランスはもちろん、多くの国々からの取材依頼が相次ぎまして、反響の大きさに驚きました。

── いやー、それで「スペシャル・メンション」が出たんでしょうね。彼女も自分の想いが形になって嬉しかったことでしょう。

とても熱い方でした。

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