作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。泥沼化の一途をたどるウクライナとロシアの戦い。ドキュメンタリー映画を見ているようで、ほんとに辛い。

稲田隆紀
映画評論家。最近も元気いっぱい、少くなった試写会を走り回る日々が続く。老骨に鞭打って、終生、現役のつもり。

大森さわこ
映画評論家。10年前に取材を始めた東京のミニシアターの歴史をたどる本が再始動。7月の岩波ホールの閉館が本当に残念です。

土屋好生 オススメ作品
さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について

1930年代の大都会ベルリンを舞台にある青年の魂の彷徨の軌跡を追う

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像5/音楽4

あらすじ・概要

1931年、ベルリン。ドレスデン出身の作家志望の青年ファビアンは偶然出会った女優志願のコルネリアと恋に落ちる。やがて2人は時代に翻弄されつつも、自らの生きる道を信じて一歩一歩確実に前へと進み始める。

原作者は「飛ぶ教室」や「点子ちゃんとアントン」で知られるドイツの児童文学者エーリヒ・ケストナー。とはいえ、そこで描かれるのは「児童文学」の世界ではない。原作は彼の長編小説「ファビアン あるモラリストの物語」で、1930年代、狂騒の大都会を舞台にした1人の青年の魂の彷徨の軌跡を追う。

それにしても冒頭から観客の目をとらえて離さないのは人物や背景からにじみ出る濃厚な時代色である。具体的にはドイツの大都会ベルリンの一画をとらえた鮮やかなモノクロのドキュメンタリー映像であり、人物や街並に命を吹き込んだ映像美の世界である。そしていつしか観客はナチの足音が忍び寄る享楽と退廃の時代へと引きずり込まれてしまう。

画像: 1930年代の大都会ベルリンを舞台にある青年の魂の彷徨の軌跡を追う

そこで描かれる漠とした不安と緊張はやがて音を立てて襲ってくる恐怖感を呼び起こすのだ。そのあたり、ナチとかネオナチとか口論かまびすしい不毛の現代に通じるものがあるのは監督のドミニク・グラフの意図したところだろう。まさに歴史は繰り返すのである。

ムヴィオラ配給/公開中
© Hanno Lentz / Lupa Film

稲田隆紀オススメ作品
トップガン マーヴェリック

手に汗握る圧倒的な映像でトム・クルーズが自身の出世作の続編を自ら製作

評価点:演出4.5/演技5/脚本4.5/映像5/音楽4.5

あらすじ・概要

現役にこだわり続けてきたマーヴェリックに特殊任務の教官としてトップガンたちを指導する命が下りる。自信満々の若者たちを教えるうち、任務はより過酷な状況に変わって、マーヴェリックも出撃することになる!

トム・クルーズほどセルフ・プロデュースに長けた“スター”はいない。自らの輝きを増すためにはあらゆる努力を惜しまない。1986年の出世作から36年、その続編をつくるにあたって、クルーズはあくまで主人公のマーヴェリックが、現役のパイロットであることにこだわった。自ら製作も兼ねるのだから発言権は大きい。

監督のジョセフ・コシンスキーは『オブリビオン』(2013)で気心が知れている。かくしてストレートにマーヴェリックを称える内容に結実した。

画像: 手に汗握る圧倒的な映像でトム・クルーズが自身の出世作の続編を自ら製作

教官としてトップガンの若者たちを訓練し、卓抜した技術で押さえ込む。シンプルな若者たちの傲慢さ、素直さを紡ぎながら、最後はマーヴェリックのヒロイズムが立ち上がる。実際のジェット戦闘機を駆使した臨場感あふれる、圧倒的な映像に思わず手に汗を握る。ケニー・ロギンスの第1作の挿入歌も織り込まれて思わずニヤリとさせられる。

相手役のジェニファー・コネリーも色香は維持されているし、なによりヴァル・キルマーの出演に胸が熱くなる。トニー・スコットを偲ぶ最後の一文が心に沁みる。

東和ピクチャーズ配給/公開中
© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

大森さわこオススメ作品
帰らない日曜日

メイドから作家へ転身するヒロインがたどる愛の軌跡を美しい映像で綴る

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

1924年の3月の日曜日。その日はメイドの里帰りが許された“母の日”。孤児でメイドのジェーンはある屋敷の跡取り、ポールと秘密の関係を持つ。しかし、思わぬ悲劇がポールを襲い、ジェーンの運命まで変える。

最初に主人公の見開かれた瞳が映し出される。印象的なクローズアップで、劇中ではその瞳が見つめた出来事(出会いと別れ)が描かれ、やがて彼女は作家となっていく。

始まりは1920年代の英国で、彼女は大きな屋敷のメイドである。別の屋敷の裕福な青年と秘密の関係を持っているが、身分違いの恋は思わぬ展開を迎える。そして、後に書店で職を得た彼女には哲学を学ぶ黒人の恋人ができる。階級差も、人種の違いも乗り越えるヒロインの大胆な性格がうかがえる。

画像: メイドから作家へ転身するヒロインがたどる愛の軌跡を美しい映像で綴る

グレアム・スウィフトの小説の映画化で、主人公がたどる愛の軌跡を美しい映像で綴る。過去に現在の描写を入れ込む構成もスリリングで、見る者を飽きさせない(ここは原作を踏襲している)。しなやかな肢体で官能場面も演じる新星、オデッサ・ヤングも輝く。

ジョシュ・オコナー、コリン・ファース、オリヴィア・コールマンと共演陣も贅沢。さらに『恋する女たち』(1969)の伝説のオスカー女優、グレンダ・ジャクソンも80代のカムバック。その登場に拍手を送りたくなる。

松竹配給/公開中
© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021

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