『ゲット・アウト』『アス』などのブラムハウス・プロダクションが新たに贈るホラー『ブラック・フォン』(2022年7月1日全国公開)で、謎の連続誘拐犯を演じるイーサン・ホーク。まさに新境地を拓いたといえそうなイーサンに、彼と面識のある映画評論家の大森さわこさんが、本作で演じた役への思いや、製作のジェイソン・ブラムについてなど、様々なことを聞きだしてくれました!

50歳になったら、いきなり“悪役へのドア”が開いてしまった!(笑)

アメリカの実力派男優、イーサン・ホークとのインタビューが実現した。
サイコ・スリラーの新作『ブラック・フォン』の公開に合わせて今の心境をズームで語ってくれた。イーサンとは妙にご縁があり、これが3回目の筆者との取材。こちらの顔を見るなり、「君のこと、覚えているよ」と言ってくれたので、和やかな感じで取材がスタートした。

これまで『いまを生きる』(89)や『リアリティ・バイツ』(94)など、数多くの話題作に出演し、俳優としては2回、脚本家としても2回、オスカー候補となっている。この新作では謎の誘拐犯、グラバー役を演じて俳優として新境地を見せる。

画像1: 50歳になったら、いきなり“悪役へのドア”が開いてしまった!(笑)

舞台は1970年代後半のコロラド州デンバーで、そこでは少年たちの謎の誘拐事件が起きている。黒装束で奇妙なマスクをかぶったグラバーの新たなターゲットとなるのは気弱な少年フィニー(新人のメイソン・テムズ)。彼は黒電話しかない地下室に閉じ込められ、絶体絶命の状態を迎える。

不気味な存在感を放つ悪役への挑戦について、イーサンはこう語り始めた。
「これまで映画で悪役を演じたことは一度もなかったが、とても楽しく演じることができた。今回の監督、スコット・デリクソンはどう映画を作ればいいのか、このジャンルのツボを理解している。この役には演劇的な要素がかなり入っている。ずうっとマスクをかぶっていて、狂気が漂う役。どこかギリシャの古典演劇を思わせる設定ではないかと思う」

今年、イーサンはディズニー・プラスで配信された『ムーンナイト』でも謎めいた悪役を演じていた。
「公開は逆になったが、最初に出演したのは『ブラック・フォン』の方だった。そして、この映画に出演している時、マーベル物の『ムーンナイト』の話もやってきた。50歳になったら、いきなり、“悪役のドア”が開いてしまったんだよ(笑)」

今回のデリクソン監督とはすでに不気味なヒット・ホラー『フッテージ』(12)でも組んでいて、この時は不可解な殺人事件を調査する作家役だった。
「『ブラック・フォン』は『フッテージ』の“姉妹編”と呼べる作品かもしれない。ただ、『フッテージ』はもっと辛辣だが、『ブラック・フォン』には希望がある。主人公の少年と妹の温かいハートと愛が物語の中心にあり、ふたりはお互いをいつも思いあっている。実は心温まる作品だ。2本とも強烈だが、ここで監督は成熟したところを見せている」

今回の新作では70年代の小さな町が独特の雰囲気で描かれていく。
「この時代の描写は僕もすごく気に入っている。あの時代、確かにニュースで、テッド・バンディなどおそろしい連続殺人鬼のことが報道されていた。ただ、今回の誘拐犯の役は少年の“夢の中の風景(ドリーム・ランドスケープ)”と考えて演じた。グラバーの正体は不明で、すべてが少年の視点で貫かれているからね。主人公役のメイソン・テムズは14歳でこの映画に出演している。僕自身が『エクスプローラーズ』(85)でデビューしたのは80年代前半で、彼と似たような年だった。だから、かつての自分を見ているような気にもなった。」

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演技のエキササイズはどの映画も同じだが、役によって違う筋肉を使うことになる

製作はジェイソン・ブラムで、いま、勢いに乗っている会社、ブラムハウスの最高責任者でもある。
「ジェイソンの映画作りに賭ける情熱は素晴らしい。彼は映画に枠を作らない。これが高尚なアートで、こちらは低級みたいな区別はない。いい映画が完成すれば、それは質が高く、ダメな映画なら質が低いという判断になる。映画に分け隔てがない。そこが僕と彼の共通点だ。そして、作り手に“創造上の自由”を与えてくれる」

画像1: 演技のエキササイズはどの映画も同じだが、役によって違う筋肉を使うことになる

ブラムハウスでの作品はホラーやサスペンス系のものも多いが、近年のイーサンはリチャード・リンクレイター監督の『6才のボクが、大人になるまで。』(14)、ポール・シュレイダー監督の『魂のゆくえ』(17)、日本の是枝裕和監督と組んだ『真実』(19)など、心に残るヒューマン・ドラマでも味のある演技を見せている。
「もし、プロの俳優を続けたければ、さまざまなジャンルの仕事をすることも大切だ。是枝のような監督の場合、彼が探しているのは、本物の人間関係の中にひそむ真実だと思う。彼は心の中にあるものを描こうとする。その手法は友人のリチャード・リンクレイターに似ているね」

伝説のジャズマン、チェット・ベイカー役の『ブルーに生まれついて』(15)の好演も忘れがたく、「もともとチェットが好きなので、あなたの演技、感動的でした」と切り出したら、「僕も彼が好きで、生前の彼が日本で録音したライブ盤もすばらしいね」と音楽好きの一面ものぞかせた。
「『ブルーに生まれついて』のような作品で求められるのは、その人物の描写だ。だから、自分がチェット・ベイカーの肖像画を絵筆で描いている気分になる。演技のエキササイズはどの映画も同じだが、役によって違う筋肉を使うことになるんだよ」

俳優として40年近いキャリアを築いてきたイーサンの真摯な役作りへの姿勢がうかがえる取材だった。最後に「また、会えるとラブリーだね」とイーサンが言葉を添えてくれて、3回目の再会はお開きとなった。

画像2: 演技のエキササイズはどの映画も同じだが、役によって違う筋肉を使うことになる

『ブラック・フォン』
7月1日(金)公開
東宝東和配給
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殺人鬼に拉致された少年は、監禁された地下室で断線しているはずの黒電話のベルが鳴るのを耳にする……スティーヴン・キングの息子ジョー・ヒルの同名短編を『ドクター・ストレンジ』のスコット・デリクソンが監督したサイコ・スリラー。主演はTV出身の新鋭メイソン・テムズ。殺人鬼役を『6才のボクが、大人になるまで。』のイーサン・ホークが演じている。
 コロラド州デンバー北部の小さな町では子どもの失踪事件が頻発していた。内気だが頭のいい13歳の少年フィニーもまた、と呼ばれる誘拐犯に拉致され防音の地下室に監禁される。その部屋の壁にはなぜか断線した黒電話があったが、その電話が突然鳴り出す。それはグラバーに殺された被害者たちからのメッセージだった。

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