『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)のバズ・プーンピリヤ監督が名匠ウォン・カーウァイと組んだ最新作『プアン/友だちと呼ばせて』が2022年8月5日(金)に公開!サンダンス映画祭でも絶賛された同作の魅力をご紹介します!(文・金子裕子/デジタル編集・スクリーン編集部)

バンコク、チェンマイ、パタヤ…
記憶と思い出を辿る二人の旅

長編映画2作目の『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)で注目を集めたタイのバズ(ナタウット)・プーンピリヤ監督。待望の3作目『プアン/友だちと呼ばせて』は、なんと香港映画の巨匠ウォン・カーウァイ監督が製作だ。

この監督に注目! バズ・プーンピリヤ

Photo by Brad Barket/Getty Images

1981年、タイ・バンコク生まれ。ホラー・サスペンス『COUNTDOWN』(2012・日本未公開)で、長編映画監督デビュー。続くクライム・サスペンス『バッド・ジーニス 危険な天才たち』( 2017)が、緻密なストーリーとスタイリッシュな映像が評判となり、アジア全域で大ヒット。いまや“期待の新星”となった監督だが、本作ではウォン・カーウァイ監督の“特訓”を受け、前2作とはガラリと違うジャンルに挑戦。何度も脚本を書き直し、すべて即興の撮影を試みた。その映画作りへの真摯な思いと柔軟性があれば、世界での活躍も夢じゃない。

画像: 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』

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聞けば、前作に惚れきった巨匠が「一緒に映画を作ろう」とラブコールをし、脚本執筆の段階から「自分らしく、自分自身のストーリーを綴れ」、「物語を閉じる音楽が重要だ」と多岐にわたってアドバイス。いわば巨匠の“秘技”を次世代監督に伝授したといえる。

それだけに幾何学を思わせるスタイリッシュな『バッド・ジーニアス〜』とはまったく味の違う仕上がり。エモーショナルな即興演技とそれを追う流動的なカメラによるノスタルジックで切なくて苦い、だけど美しい青春ロードムービーとなった。ちなみに、これがプーンピリヤ監督の半自伝的物語と知れば、なおさら心揺さぶられる。

ニューヨークでバーを経営するボスのもとに、タイで暮らすかつての友人ウードから電話が入る。白血病で余命宣告を受けたので、「最期に頼みたいことがある」と言うのだ。急ぎ帰国したボスが頼まれたのは、元カノを訪ねる旅の運転手。最初は渋るが、ウードが拒否してきた化学療法を受けることを条件にハンドルを握ることにした。

カーステレオから流れる懐かしの曲が親友だった頃の青春の記憶をよみがえらせ、苦い思い出に彩られた元カノたちに「ごめん」と「ありがとう」を伝えれば旅は終わるはずだったが……ウードは“もうひとつの秘密の物語”を語り出す。

画像: バンコク、チェンマイ、パタヤ… 記憶と思い出を辿る二人の旅

この後半の切り返しが、ボスの過去も未来も塗り替えるほどに衝撃的。そのスリリングな語り口はクライム・サスペンス『バッド・ジーニアス〜』の監督ならでは。しかもあまりにも大きな“秘密の告白”なのに、それが導く穏やかで幸福なラストに涙してしまう。さすが傑作『ブエノスアイレス』のウォン・カーウァイが惚れた才能だ。

青い海と空を走り抜けるクラッシックカー、赤いネオンの輝きの中でのキス、黄色からオレンジに変わる夕日など、いかにも熱帯アジアの風を感じさせる色彩設計もロマンチック。

役者の動きやフレーミングなどすべてが即興(アドリブ)で撮影されたという演出に応えたキャストたちも素晴らしい。ウードを演じたアイス・ナッタラットは17キロも減量して役作り。対するトー・タナポップもチャラさの奥に優しさと孤独を秘めたボスを好演。また、ウードの元カノのひとりを『バッド・ジーニアス〜』のオークベープ・チュティモンが演じているのも注目だ。

是枝裕和監督が単身韓国に乗り込んで作った『ベイビー・ブローカー』を例に出すまでもなく、いまやアジア映画界に新しい風が吹いている。本作も国の境を超えて、香港の巨匠とタイの新しい才能がタッグを組んだ新鮮な試み。そういう意味でも、必見の一作だ。

ここに注目!
『プアン/友だちと呼ばせて』見どころ

珠玉のロードムービーで、タイ観光!

画像: 珠玉のロードムービーで、タイ観光!

“元カノを巡る”珠玉のロードムービーは、子供だった監督が家族と一緒に車で旅をした “楽しい思い出の地巡り”でもある。物語は地域によって異なる美しさを映像に残せるように組み立てられている。懐かしい雰囲気の街並みや青々と茂る熱帯植物と激しいスコール、抜けるように蒼い空と海。一変してネオン瞬く歓楽街や荘厳な寺院、白亜の教会など、まさにタイ・ツアーの気分も味わえる。

物語を切なく彩るオリジナル・カクテル

画像: 物語を切なく彩るオリジナル・カクテル

ボスの職業をバーテンダーにしたのは監督自身が経営に乗り出すほどバーが好きということで、当然、登場するカクテルにも意味がある。ウードに作る元カノを表する「アリス・ダンス」「ヌーナーの涙」「雨上がりのルン(虹)」。そして自分の母に作る「キモセラピー(化学療法)」は、この旅が“苦い人生の化学療法”になったというメッセージが込められている。

ノスタルジックなアイテム&サントラ

画像: ノスタルジックなアイテム&サントラ

時代背景は2019年〜20年だが、若き日の監督がハマった懐かしのアイテムが数多く登場。ウードとボスが乗る亡き父の愛車はヴィンテージのBMW。カーステレオにセットするカセットテープ、そこから流れるラジオはDJだった父の番組であり、エルトン・ジョンやザ・ローリング・ストーンズなどのヒット曲が物語を盛り立てる。

ちなみにラストに流れる「Nobody knows」は、バンコク出身のSTAMP & Christopher Chuの書き下ろし。至福の余韻を残してくれる。

プアン/友だちと呼ばせて
2022年8月5日(金)公開

タイ/2021/2時間9分/ギャガ
監督:バズ・プーンピリヤ
製作総指揮:ウォン・カーウァイ 
出演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、オークベープ・チュティモン
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