作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。狂気のウクライナ侵攻で関係国の映画人に思いを馳せる毎日。どうかご無事でと祈るしかないこの虚しさ。

北島明弘
映画ライター。日活SP映画を見に行った阿佐ヶ谷で、阿佐ヶ谷姉妹のロケ現場を目撃。本当にピンクの衣装だった。

杉谷伸子
映画ライター。コロナ禍でご無沙汰だった来日単独インタビュー。先日なんと2本立て。社会の動きが戻ってきていると実感。

土屋好生 オススメ作品
アメリカから来た少女

アメリカの生活から台湾に帰郷した少女が向き合う現実、彼女の内面を「超新星」が描く

画像1: アメリカの生活から台湾に帰郷した少女が向き合う現実、彼女の内面を「超新星」が描く

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像5/音楽3

あらすじ・概要

母と妹の3人で米国のロサンゼルスで暮らしていた13歳の少女。母のがん治療のために台湾で働きながら一家を支える父のもとへ帰郷したのだが、そこで予期せぬ様々な困難に直面する。

自由を享受するアメリカでの生活から突然の帰郷へ。何とも劇的な展開を見せる家族劇なのだが、主人公の少女の目を通して見た窮屈な現実世界はどれもこれも一筋縄ではいかない難題ばかり。病身の母との微妙な関係やスパルタ教育を実践する教師への反抗などを丁寧に描きつつ、作り手の目は次第に少女の内面へと向かっていく。

それは家族それぞれの苦悩にとどまらず家族という存在そのものがかかえる普遍的な葛藤や軋轢を表出しているようでもある。がしかし観客の目をとらえて離さないのは少女が体現する底なしの孤立感だろう。それを深く感じれば感じるほど新しい道が開けてくるのだから不可解な人生というものもまんざら捨てたものではない。

画像2: アメリカの生活から台湾に帰郷した少女が向き合う現実、彼女の内面を「超新星」が描く

いうまでもなくここには悪者はいない。極めてまっとうな人間がいるだけ。何ごとにも真摯に立ち向かう人々への連帯と共感を表明しているように見える。女性監督のロアン・フォンイーは今年32歳。ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンを大先輩に仰ぐ将来有望な「超新生」だ。

公開中/配給:A PEOPLE CINEMA
© Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).

北島明弘 オススメ作品
ソングバード

コロナ禍が極端に悪化した世界のサスペンス劇をスピーディな展開で楽しませる

画像1: コロナ禍が極端に悪化した世界のサスペンス劇をスピーディな展開で楽しませる

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

コロナが猖獗をきわめるパンデミック世界。服従が義務、免疫者が神となったLAで、主人公は隔離キャンプ送りになった恋人の救出のため、バイクで奔走する。廃墟と化したほとんど無人の市街が不気味。

Covid-19からCovid-23に進化し、致死率56%、死者数が1億1千万人を越えた2024年。LAではロックダウンが4年半続き、感染者は隔離キャンプに収容され、非感染者も外出はできない。緊急状態が監視社会をうみ、ウイルスに免疫のある者のみ外出が許され、他人の豪邸や車も盗み放題。偽造免疫パスで金儲けをする連中もいる。免疫者ニコは恋人サラとアパートのドアごしに愛を語り合い、励ましていた。

画像2: コロナ禍が極端に悪化した世界のサスペンス劇をスピーディな展開で楽しませる

コロナ禍が極度に悪化した世界を背景に、ニコが宅配配達員をしているというキャラクターを存分に生かしたアクション描写が盛り込まれている。製作者に名を連ねているマイケル・ベイのこれまでの作品のような大爆発、大炎上はないものの、時間との競争といったサスペンス、ロマンス、スピーディな展開が楽しめる。

ニコにニュージーランド出身のKJ・アパ。冷酷な仇役だけど、娘思いの母親をデミ・ムーア、とことんワルの公衆衛生局長をピーター・ストーメアが演じている。監督・脚本はアクション映画の多いアダム・メイソン。

公開中/配給:ポニーキャニオン
© 2020 INVISIBLE LARK HOLDCO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

杉谷伸子 オススメ作品
秘密の森の、その向こう

SFめいた設定で紡ぐ物語だが静謐の中に女たちの想いを見つめさせるのはシアマ的

画像1: SFめいた設定で紡ぐ物語だが静謐の中に女たちの想いを見つめさせるのはシアマ的

評価点:演出5/演技4/脚本5/映像5/音楽4

あらすじ・概要

母が子供時代を過ごした亡き祖母の家を、両親とともに訪れたネリー。悲しみを抱える母マリオンが何も言わずに姿を消すなか、母が子供時代に作った小屋を探しに森へ出かけたネリーは、母と同じ名の少女と出会う。

母が姿を消した日に出会った少女は、自分と同じ8歳だったときの母。18世紀が舞台の『燃ゆる女の肖像』(2019)で愛と情念を視線に託したセリーヌ・シアマが、SFめいた設定で物語を紡ぐのは意外だったが、静謐の中に女たちの想いを見つめさせるのはまさにシアマ。

もう一つの祖母の家に通じるのは、森の小道という何気ない風景。不思議な出会いに動揺はしても大騒ぎするわけでもなく、ハリウッド映画のように母を救うべき大事件が起きるわけでもない。目の前の出来事を受け入れ、共に過ごす時間が当たり前の日常のように描かれるからこそ、ネリーが祖母に言いたかった言葉をはじめ、登場人物が交わす短い言葉に託された喪失感や癒しが沁みてくる。

画像2: SFめいた設定で紡ぐ物語だが静謐の中に女たちの想いを見つめさせるのはシアマ的

そんな2人の少女を演じるジョセフィーヌ&ガブリエル・サンスの姉妹が素晴らしい。母と娘は親子である前にまず対等な人間同士だということまでも、思慮深い顔立ちに映し出す彼女たちは、この出会いのあとのマリオンの日々にも想いを馳せさせ、物語の余韻をさらに深くするのだから。

公開中/配給:ギャガ
© 2021 Lilies Films / France 3 Cinema

前回の連載はこちら

This article is a sponsored article by
''.