東京・京橋の国立映画アーカイブで、2022年12月13日(火)から約4か月にわたり、展覧会「ポスターでみる映画史 Part 4 恐怖映画の世界」が開催される。

《めくるめく恐怖の世界へようこそ……『カリガリ博士』からJホラーまで》

誕生から120 年以上のあいだ、映画は見る人にさまざまな感情を呼び起こしてきた。中でも、「恐怖」は人々を抗いがたく引きつけてきました。スクリーンに現れる異形の怪物、人間の心の闇を暴くサイコホラー、あるいは鮮烈な映像表現で綴られる超常現象と、映画は幅広い形で観客に恐怖を提供してきた。
日本においても、無声映画の時代から怪談文化と結びついた時代劇映画が数多く作られてきただけでなく、1990 年代以降は「J ホラー」と呼ばれる作品群が生み出されるなど、恐怖映画は今なお大きな存在感を放ち続けている。

シリーズ「ポスターでみる映画史」の第4 回となる「恐怖映画の世界」は、国立映画アーカイブのコレクションを中心に、映画草創期から連綿と作り続けられてきた恐怖映画のポスターを取り上げる展覧会。
『カリガリ博士』といった古典から、ダリオ・アルジェントらのイタリアン・ホラー、『ジョーズ』などのパニック映画、そして日本の怪談映画やJ ホラーの最新作まで、観客を怖がらせ楽しませてきた諸作品の系譜をたどる。工夫の凝らされたポスターヴィジュアルや惹句を楽しみ、身も凍る恐怖の世界にどっぷりと浸かってみては。

第1 章 1910s-1950s  恐怖映画の古典―怪人・怪物

画像: 『オペラの怪人』(1925年、日本公開同年、ルパート・ジュリアン監督) 国立映画アーカイブ所蔵

『オペラの怪人』(1925年、日本公開同年、ルパート・ジュリアン監督) 国立映画アーカイブ所蔵

スクリーンに現れた恐怖の始まりは、怪人や怪物たちの姿だった。狂気の科学者や異形の怪人など、普通の人間からかけ離れた登場人物の容姿や言動を示す映画が、観客に衝撃を与えたのだ。サイレント映画の時代から始まった怪人・怪物たちの映画は、1920年代後半のトーキーへの移行、1930 年代前半のカラー映画の本格的導入、1950 年代前半の3D の勃興といった映画技術の発達に歩みを合わせるように作られた。

[主な展示ポスター]
『カリガリ博士』(1919 年、日本公開1921 年、ロベルト・ヴィーネ監督)/『フランケンシュタイン』(1931年、日本公開1932 年、ジェームズ・ホエール監督)/『キング・コング』(1933 年、日本公開同年、メリアン・C・クーパー&アーネスト・B・シェードサック監督)

第2 章 1950s-1960s 狂気と幻想を求めて―サイコホラー、ゴシックホラー

画像: 『サイコ』(1960年、日本公開同年、アルフレッド・ヒッチコック監督) 国立映画アーカイブ所蔵

『サイコ』(1960年、日本公開同年、アルフレッド・ヒッチコック監督) 国立映画アーカイブ所蔵

画像: 『回転』(1961年、日本公開1962年、ジャック・クレイトン監督) 国立映画アーカイブ所蔵

『回転』(1961年、日本公開1962年、ジャック・クレイトン監督) 国立映画アーカイブ所蔵

映画芸術が花開くにつれて、映画が描く恐怖は、見た目や行動による外面的なものから、人間の心の奥底に潜む闇や狂気を描く内面的なものへと移行していった。また、1950 年代後半から1970 年代にかけては、イギリスのハマー・フィルム・プロダクションを中心として、ドラキュラやフランケンシュタインといった怪人・怪物映画のリメイクに基づくゴシックホラーも隆盛を極めた。

[主な展示ポスター]
『顔のない眼』(1960 年、日本公開同年、ジョルジュ・フランジュ監督)/『血を吸うカメラ』(1960年、日本公開1961 年、マイケル・パウエル監督)/『吸血鬼ドラキュラ』(1958 年、日本公開同年、テレンス・フィッシャー監督)

第3 章 1950s-1980s 未知なるものの襲来―パニック、そしてゾンビ

画像: 『ジョーズ』(1975年、日本公開同年、スティーヴン・スピルバーグ監督) 国立映画アーカイブ所蔵

『ジョーズ』(1975年、日本公開同年、スティーヴン・スピルバーグ監督) 国立映画アーカイブ所蔵

画像: 『ゾンビ』(1978年、日本公開1979年、ジョージ・A・ロメロ監督) 国立映画アーカイブ所蔵


『ゾンビ』(1978年、日本公開1979年、ジョージ・A・ロメロ監督) 国立映画アーカイブ所蔵

目に見えないもの、あるいは得体の知れない存在の襲来も、やはり人々を恐怖させるもの。1950 年代に多数製作されたSF パニック映画や、『鳥』や『ジョーズ』といった動物パニック映画などが例として挙げられるが、その最たるものが、ジョージ・A・ロメロが生み出したゾンビ。そのもたらした衝撃はすさまじく、その後立て続けに関連作品が製作されるなど、ゾンビ映画はまさしく映画界に増殖・浸食していった。

[主な展示ポスター]
『遊星からの物体X』(1982 年、日本公開同年、ジョン・カーペンター監督)/『エイリアン』(1979 年、日本公開同年、リドリー・スコット監督)/『ザ・フライ』(1986 年、日本公開1987 年、デイヴィッド・クローネンバーグ監督)

第4 章 1960s-1990s より鮮烈に、より残酷に―オカルトとスプラッター

画像: 『サスペリア』(1977年、日本公開同年、ダリオ・アルジェント監督) 国立映画アーカイブ所蔵

『サスペリア』(1977年、日本公開同年、ダリオ・アルジェント監督) 国立映画アーカイブ所蔵

画像: 『クリスティーン』(1983年、日本公開1984年、ジョン・カーペンター監督) 国立映画アーカイブ所蔵

『クリスティーン』(1983年、日本公開1984年、ジョン・カーペンター監督) 国立映画アーカイブ所蔵

1968 年、アメリカ映画界は1930 年代からあった表現に関する自主規制を撤廃し、「一般向け」「成人向け」などのレイティング制度に移行した。そのような流れの中、映画が志向したのは、より鮮烈、より残酷な映像表現だった。これらを存分に発揮することができたのが、人知を超えた超常現象や際立った残酷描写を中心とするオカルトやスプラッターといったジャンルの作品群だ。

[主な展示ポスター]
『ローズマリーの赤ちゃん』(1968 年、日本公開1969 年、ロマン・ポランスキー監督)/『シャイニング』(1980 年、日本公開同年、スタンリー・キューブリック監督)/『死霊のはらわた』(1981 年、日本公開1985 年、サム・ライミ監督)

特別コーナー アジアの恐怖映画と欧米の新世代たちによる恐怖映画

日本のみならず、中国・韓国・東南アジア諸国など、アジアでは古くから民話や怪奇譚などに根差した恐怖映画が数多く作られてきた。また、近年はアリ・アスターといった新世代の監督たちによる欧米産の恐怖映画が映画市場を席巻している。そうした流れの中からも、ホラー作品のポスターを探し出して紹介する。

[主な展示ポスター]
『霊幻道士』(1985 年、日本公開1986 年、リッキー・ラウ監督)/『サスペリア』(2018 年、日本公開2019 年、ルカ・グァダニーノ監督)/『ミッドサマー』(2019 年、日本公開2020 年、アリ・アスター監督)

第5 章 日本の恐怖映画(1)

画像: 『四谷怪談』(1928年、古海卓二監督) 国立映画アーカイブ所蔵

『四谷怪談』(1928年、古海卓二監督) 国立映画アーカイブ所蔵

画像: 『怪猫赤壁大明神』(1938年、森一生監督) 国立映画アーカイブ所蔵

『怪猫赤壁大明神』(1938年、森一生監督) 国立映画アーカイブ所蔵

第5 章および第6 章は、日本の恐怖映画を取り上げる。本章では、日本に古くから伝わる怪談に根差した数多くの怪談映画を取り上げる。「四谷怪談」、「化け猫」、「番町皿屋敷」など、映画誕生以前から日本ではいくつもの怪談が生まれ語り継がれてきた。それに呼応するように、日本では怪談に基づく映画が早くから作られてきた。1920 年代から1990 年代の作品まで、幅広い怪談映画のポスターが楽しめる。

[主な展示ポスター]
『怪談 お岩の亡霊』(1961 年、加藤泰監督)/『藪の中の黒猫』(1968 年、新藤兼人監督)/『地獄』(1979 年、神代辰巳監督)

第6 章 日本の恐怖映画(2)

▼変身人間 1940s-1960s
終戦後、勢いを取り戻した映画界は、特殊撮影やカラーフィルムといった新しい技術も積極的に取り入れ、旺盛な映画製作を進める。そうした流れにうまく当てはまったのが、透明人間をはじめとする変身人間の特撮恐怖映画だ。
[主な展示ポスター]『美女と液体人間』(1958 年、本多猪四郎監督)/『電送人間』(1960年、福田純監督)

▼吸血鬼と異生物 1950s-1970s
欧米での恐怖映画のトレンドは、日本の映画界にも大きな影響を与えた。日本でも、『女吸血鬼』、『吸血鬼ゴケミドロ』といった吸血鬼映画が始まり、やがて『血を吸う薔薇』などの「血を吸う」シリーズも生まれた。さらに、『昆虫大戦争』などの動物パニック作品も盛り上がりを見せた。
[主な展示ポスター]『女吸血鬼』(1959 年、中川信夫監督)/『血を吸う薔薇』(1974 年、山本迪夫監督)

▼怪奇・ミステリ文学の映像化 1960s-1980s
1976 年公開の『犬神家の一族』の大ヒットは、それまで忘れられたミステリ作家の一人だった横溝正史の存在をあぶりだし、横溝作品の映像化を相次いで生み出す結果となった。横溝とともに映像化に恵まれた作家が江戸川乱歩。横溝と乱歩のほかにも、怪奇文学やミステリ文学の映像化が行われた。
[主な展示ポスター]『犬神家の一族』(1976 年、市川崑監督)/『八つ墓村』(1977 年、野村芳太郎監督)

▼J ホラーの興隆 1990s-2020s
1990 年代に、高橋洋や黒沢清といった映画製作者たちによって、従来の恐怖映画を更新する試みが行われた。その一連の作品群は国内を超えて世界的な話題を呼び、「Jホラー」と呼ばれる一大ジャンルへと成長を遂げた。展覧会の最後にはJホラーの最新作ポスターを掲示し、現在においても恐怖映画が続々と作られていることを示す。
[主な展示ポスター]『呪怨』(2003 年、清水崇監督)/『牛首村』(2022 年、清水崇監督)
『四谷怪談』(1928 年、古海卓二監督)『怪猫赤壁大明神』(1938 年、森一生監督)

ポスターでみる映画史 Part 4 恐怖映画の世界
(英題 / Film History in Posters Part 4: Horror Films)

2022 年12 月13 日[火]-2023 年3 月26 日[日]
午前11 時-午後6 時30 分(入室は午後6 時まで)
*1/27 と2/24 の金曜日は開室時間を午後8 時まで延長いたします。(入室は午後7 時30 分まで)
国立映画アーカイブ 展示室(7 階)

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