作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。テレビをつければウクライナか統一教会。情報を知るには便利だけど、中身は? イライラがつのる日々です。

稲田隆紀
映画評論家。加齢とともに肉体にガタが来ていることを自覚している。世界を視る拠りどころが映画であることは不変だが。

大森さわこ
映画評論家。同監督の短編の新作『ヒューマン・ボイス』(2020)もカラフルな映像とティルダ・スウィントンのひとり芝居に魅せられる。

土屋好生 オススメ作品
アフター・ヤン

SF映画の枠を超えて人間と人型ロボットが共生する社会はどうあるべきかを問う

画像1: SF映画の枠を超えて人間と人型ロボットが共生する社会はどうあるべきかを問う

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像5/音楽5

あらすじ・概要

舞台は人型ロボットが一般家庭にまで普及した未来社会。夫婦と幼い養女に人型ロボットのヤンという4人家族の茶葉の販売店も例外ではなかった。ところがある日突然、ロボットが故障、家族はピンチに。

「コゴナダ」という耳慣れぬ監督の名前を聞いて二の足を踏む人がいるかもしれない。が映画が始まると一瞬のうちにこの監督の長編デビュー作『コロンバス』(2017)の記憶が蘇るから不思議なもの。

一説によれば、脚本家・野田高梧をさかさまに読めば「コウゴ・ノダ」。さらにこれにアクセントをつければ「コゴナダ」と読めなくもないが、要するに韓国系米国人監督コゴナダは、日本の著名な脚本家の名前を自分の監督名にちゃっかり取り込んでしまったというわけだ。もちろん野田の盟友で尊敬する小津安二郎にあやかって。

いうまでもなく、一目で小津の映画を彷彿とさせるあたりはコゴナダ美学の真骨頂。ここでも家族の絆や友情というテーマを正面から見据え、個々の人物像をくっきりと浮かび上がらせる。

画像2: SF映画の枠を超えて人間と人型ロボットが共生する社会はどうあるべきかを問う

その表現方法は小津ならではの「ローアングルの固定カメラ」という正攻法に徹して人間社会に人型ロボットが溶け込んだ未来社会を予見するのだ。人間と人型ロボットが共生する社会はどうあるべきか。SF映画の枠を超えた人間洞察の模索が始まる。

公開中/配給:キノフィルムズ
© 2021 Future Autumn LLC. All Rights Reserved.

稲田隆紀 オススメ作品
アムステルダム

第1次と2次世界大戦の狭間を舞台に陰謀に立ち向かうアウトサイダー達を描くコメディ

画像1: 第1次と2次世界大戦の狭間を舞台に陰謀に立ち向かうアウトサイダー達を描くコメディ

評価点:演出4.5/演技5/脚本4.5/映像5/音楽4

あらすじ・概要

1933年、第1次大戦で傷を負った医師と弁護士がニューヨークで貧しい人々を助ける仕事に勤しむうち、殺人に巻き込まれ容疑者にされてしまう。事件をふたりで捜査するうち、背後の巨大な陰謀が明らかになっていく。

アメリカ映画界の異才、デヴィッド・O・ラッセルの7年ぶりの新作は、第一次大戦後の世界を背景にした“ほぼ実話”コメディ。隻眼の医師とアフリカ系の弁護士を主人公に据え、殺人の絡む陰謀に立ち向かう姿を軽快に描く。いずれも知性がありながらアウトサイダーという設定が監督らしい。

出演は製作にも絡んだクリスチャン・ベールを筆頭に、マーゴット・ロビー、ジョン・デヴィッド・ワシントン、ラミ・マレック、アニャ・テイラー=ジョイ、テイラー・スウィフト、ロバート・デ・ニーロなど、新旧ゴージャスなスターの競演が何より嬉しい。

画像2: 第1次と2次世界大戦の狭間を舞台に陰謀に立ち向かうアウトサイダー達を描くコメディ

第二次大戦までのはざまに暗躍した“持てる者”に対して、アウトサイダーが立ちはだかる趣向は監督の反骨精神の発露。娯楽作に仕上げながらメッセージが芯にある。

エマニュエル・ルベツキの撮影、ジュディ・ベッカーの美術も時代を巧みに再現してみごとの一語だ。題名の「アムステルダム」はアウトサイダーであっても差別されない楽園の象徴だ。いつもは台詞が過剰な欠点のある監督だが、本作は気にならない。

公開中/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2022 20 th Century Studios.

大森さわこ オススメ作品
パラレル・マザーズ

いま成熟の頂点にあるアルモドヴァル監督の奥深さが読み取れる“母たちの物語”

画像1: いま成熟の頂点にあるアルモドヴァル監督の奥深さが読み取れる“母たちの物語”

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像5/音楽4

あらすじ・概要

カメラマンとして生きるジャニスは既婚者である恋人の子供を出産し、シングルマザーとなる。そして、産院で知り合った若い母親、アナとの友情をはぐくむが、ある時、子供をめぐる衝撃の事実を知る……。

スペイン出身の大ベテラン、ペドロ・アルモドヴァル監督は今や成熟の頂点にいて、前作『ペイン・アンド・グローリー』(2019)も見事な仕上がりだったが、この新作でも艶のある世界観を堪能できる。監督が目をかけてきたペネロペ・クルスが貫禄ある演技を見せ、とにかく彼女から目が離せない。

画像2: いま成熟の頂点にあるアルモドヴァル監督の奥深さが読み取れる“母たちの物語”

内容はペドロお得意の“母もの”のバリエーション。産院で出会ったふたりの母たちの運命が交錯する。是枝裕和監督の『そして父になる』(2013)を思わせる“赤ん坊の取り違え”が題材だが、作風も展開も是枝作品とは違い、女ふたりのエモーショナルな世界にひきずり込まれる。

ペネロペ演じるジャニスの名前は60年代の自由な魂を持つ伝説の歌手、ジャニス・ジョプリンからとられている。彼女の「サマータイム」が流れる中盤から、女たちの(ただでさえ)複雑な関係がさらにこんがらがるが、最後はうまく着地する。かつてのスペイン内戦を再考する要素も取り込み、歴史と家族(血縁)をつなぐ展開にもベテラン監督の奥深さが読み取れる。

公開中/配給:キノフィルムズ
©Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

前回の連載はこちら

This article is a sponsored article by
''.