作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。カンバーバッチとネコ。相性がいいとは思えないが、手堅くまとめた日系の監督ウィル・シャープに脱帽!

金子裕子
映画ライター。本作の撮影監督がJ・ロバーツの夫D・モダーだと知って得した気分。はい、ミーハーです(笑)。

渡辺麻紀
映画ライター。今更ながら韓国ドラマにハマりました。ご贔屓は「ヴィンチェンツォ」です。

土屋好生 オススメ作品
ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ

ユニークな猫の絵で有名な画家とその妻の特別な絆に迫る人間ドラマ

画像1: ユニークな猫の絵で有名な画家とその妻の特別な絆に迫る人間ドラマ

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

父の死後一家を養う任を背負わされた当主のルイスは、5人の妹たちのために雇った家庭教師と恋に落ちて結婚。ところが半年後に妻の末期がんが判明する。その一方でネコの絵が大ヒット、一躍時の人に。

一度見たら忘れられないデフォルメされ擬人化された個性的なネコたち。そんなユニークなネコを終生描き続けた著名なイギリス人画家ルイス・ウェイン。その人生に迫る伝記映画である。いや、単に彼の内面をたどる型通りの伝記映画といったら語弊があるかもしれない。ネコを描きながら実は人間、それも他人にはうかがいしれない画家夫婦に肉迫する人間ドラマ。ネコを媒介とした男女の深い絆の物語である。

画像2: ユニークな猫の絵で有名な画家とその妻の特別な絆に迫る人間ドラマ

圧巻なのは末期がんの妻とその妻を励ます夫の信頼感に満ちた関係だろう。お互いに慰めあうような会話の後ふと妻はこうもらす。「世界は美しさに満ちている」と。そしてまたこうも言う「あなたはプリズム。人生の光線を屈折させるような仕事を」と。

ここで描かれるのは人間とネコの交流でもなければ人間同士の魂の触れ合いでもない。そこに流れるのは独立心旺盛なネコ=人間の人生哲学であり人生を達観する姿勢である。妻役のフォイの抑制の効いた演技もさることながら、演技巧者のカンバーバッチが出色の出来栄えで、いうことなし!

公開中/配給:キノフィルムズ
© 2021 STUDIOCANNAL SAS- CHANNEL FOUR TELEVISIONCORPERATION

金子裕子 オススメ作品
フラッグ・デイ 父を想う日

名優ショーン・ペンが実娘ディランと共演で偽札事件犯人と娘の物語を映画化

画像1: 名優ショーン・ペンが実娘ディランと共演で偽札事件犯人と娘の物語を映画化

評価点:演出4.5/演技4.5/脚本4/映像4.5/音楽4

あらすじ・概要

1992年。アメリカ最大級の偽札事件の犯人ジョン・ヴォーゲルが裁判を前に逃亡。ジャーナリストとして活躍するジョンの娘ジェニファーは事件の顛末を聞いて、優しくて素敵だった父との過去に思いを馳せる……。

『インディアン・ランナー』(1991)で鮮烈な監督デビューを果たしてから約30年。名優ショーン・ペンの監督第7作目は、映画を知り尽くした熟練の“技”が光っている。

原作はジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルが、アメリカ最大級の偽札事件の犯人である父ジョン・ヴォーゲルとの関係を見つめ直す回顧録。

本当の父はどんな人間だったのか? その悪行を知っても「大好きよ」とつぶやいてしまう娘のやるせない“心の旅”を綴る多くの回想シーンが秀逸。あえて16ミリフィルム撮影にこだわった効果は絶大だ。

画像2: 名優ショーン・ペンが実娘ディランと共演で偽札事件犯人と娘の物語を映画化

しかも自らジョンを演じたペンは、ジェニファー役に実の娘ディラン・ペンをキャスティングし、父と娘が一緒のシーンは一瞬「これって素顔?」と錯覚するくらいのリアリティ。みずみずしい演技を披露したディランは母ロビン・ライトからも才能と美貌を受け継いで、まさに注目の若手女優に。小品ながら、映画ならではの醍醐味をたっぷり味わえた。

2022年12月23日公開/配給:ショウゲート
© 2021 VOCO Productions, LLC

渡辺麻紀 オススメ作品
マッドゴッド

モデルアニメの可能性を追求するフィル・ティペットが作り上げた注目作

画像1: モデルアニメの可能性を追求するフィル・ティペットが作り上げた注目作

評価点:演出3/グロ度5(※)/技術5/映像4/音楽3
※ストップモーションアニメのため

あらすじ・概要

荒廃しきった地上から、下へ下へと降りて行くゴーグルを着けた男。彼がそこで目撃したのは不気味なモンスターたちがうごめく地獄のような暗黒の世界だった。果たして彼を待ち受けているものとは⁉

『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)等の最強のモデルアニメーター、フィル・ティペットが30年もの歳月をかけて作り上げたモデルアニメ映画。監督のみならず、脚本・製作・美術・SFX・VFX・キャラデザイン・編集も兼任した、彼の「らしさ」がもっとも詰まった作品になる。

画像2: モデルアニメの可能性を追求するフィル・ティペットが作り上げた注目作

では、その「らしさ」は何かというと、タイトル通りの「狂気」。84分、ずーっと地獄のような映像が続くのだ。冒頭に作品を象徴する聖書からの引用がテロップで流れるだけで、あとは一切セリフも説明もない。兵士らしき男がひたすら下へ下へと降りて行き、狂気に満ちた地獄のような世界を次々と目撃し体験する。

さまざまなモデルアニメ映画を観て来たが、ここまでダークで狂気を孕んだ作品は初めて。ティペットファン的には「こんな闇を抱えていた?」なんて思いもするが、やはり「モデルアニメで誰も創造したことのない世界を見せたい!」が正解なのではないか。ティペットは、いまだにモデルアニメの可能性を追求しているということだ。

公開中/配給:ロングライド
© 2021 Tippett Studio

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