ラブストーリー、アクション、コメディ…あらゆるジャンルの作品で成功を手にしてきたニコラス・ケイジが101作目に選んだのは、自身を思わせる俳優ニック・ケイジが主人公の『マッシブ・タレント』。当て書きされたニックという人物をリアルと哀愁をもって演じ、批評家や観客から大絶賛されました。“ニコケイ史上最高のエンターテインメント”と評される本作、前知識なしでも十分楽しめますが、本人のキャリアを知ることで、より堪能できること間違いなし!(文・相馬学/デジタル編集・スクリーン編集部)

ニコラス・ケイジのキャリアを振り返ろう!

ハリウッド・スターは文字通り星の数ほど存在するが、ニコラス・ケイジほど面白いキャリアをたどっている俳優は、いないのでは? アカデミー賞俳優でありながら、近年はラジー賞の常連アクターに。メガヒット級の人気映画がある一方で、地味なインディーズ作品にも出演。大物ではあるが、微妙に小物感も… ⁉ いずれにしても、愛される俳優であることに疑問の余地はない。映画ファンなら誰でもその名を知っているが、意外に知られていない、そんなニック(=ケイジの愛称)のキャリアを、改めて振り返ってみよう。

画像: ニコラス・ケイジのキャリアを振り返ろう!

キャリア初期は偉大なる叔父の監督作に続々出演

1964年に米カリフォルニアで生まれたニックは現在59歳。本名はニコラス・コッポラ。『ゴッドファーザー』の巨匠フランシス・フォード・コッポラの甥にあたり、父は作家、母はバレエ・ダンサーという、芸術一家の出だ。17歳のときに『初体験/リッジモント・ハイ』(1982)で俳優デビュー。当時は本名で活動していたが、何度も「あのコッポラの血縁?」と問われることにウンザリして芸名を名乗るようになった。とはいえ、偉大な叔父フランシスのサポートをちゃっかり受けて(?)、『ランブルフィッシュ』(1983)や『コットンクラブ』(1984)などのコッポラ監督作に出演し、『ペギー・スーの結婚』(1986)では主演級の役をもらうまでに成長する。

同作以後、『ハネムーン・イン・ベガス』(1992)をはじめとするコメディの分野で活躍していたが、一方でカンヌ国際映画祭パルムドールに輝く『ワイルド・アット・ハート』(1990)のようなアート映画にも積極的に取り組み、人気も評価もうなぎのぼり。そして1995年、アルコール依存症の作家を演じた『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞を受賞し、名実ともにハリウッドのトップに立つ。

その後に主演した『ザ・ロック』(1996)、『コン・エアー』(1997)、『フェイス/オフ』(1997)、『60セカンズ』(2000)、『ナショナル・トレジャー』(2004)などのアクション大作で、初めてニックに触れたファンは多いのでは? さらに『SONNY ソニー』(2002)では念願の監督デビューを果たす。客観的に見れば、この頃が売れっ子としてのピークであったのかもしれない。

低予算映画への出演がジワジワと増え始める

A級のエンタメ作品に出演こそしていたが、実はニック自身はB級映画の大ファン。そちら方面の作品にも積極的に出演するようになり、1973年の伝説的な同名カルト・ホラーをリメイクした『ウィッカーマン』(2006)では主演と製作を兼任。ところが、そんなやる気にもかかわらず、同作が最低映画を選出するゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)で最低主演男優賞にノミネートされたあたりから雲行きが怪しくなってくる。

大のアメコミファンであるニックは念願かなってマーベル原作の『ゴーストライダー』(2007)に主演するが、こちらも皮肉なことにラジー賞ノミネート。以後、低予算映画への主演がジワジワと増えてきて大作への出演は激減。折しも、浪費による借金苦がゴシップ欄を賑わせるようになり、口さがない人々には「金に困って仕事を選ばなくなった」とささやかれるようになる。

それは、半分は正解だが半分は間違っている。ロジャー・ドナルドソンの『ハングリー・ラビット』(2011)、サイモン・ウェストの『ゲットバック』(2012)、ポール・シュレイダーの『ラスト・リベンジ』(2014)など、旧知のベテラン監督の低予算映画に進んで出演し、一方で才能を見込んだ若い監督を積極的にサポート。自身の知名度を生かし、米国外の監督のハリウッド進出にも積極的に手を貸しているのは見過ごされがちだ。

これは筆者の私見ではあるが、近年のニックの主演作は決してつまらないものばかりではない。『俺の獲物はビンラディン』(2016)はセルフパロディのような落ちぶれキャラを嬉々として演じた良質のコメディだったし、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)は非ハリウッド作品(製作国はベルギー)ゆえにフィルモグラフィー的には目立たないが、筆圧の強いバイオレンスアクションで、こちらも印象に残る快作だった。

ニコケイのキャリアごと愛したくなる最新主演作

そんなニックの最新主演作『マッシブ・タレント』。このコメディアクションが、また抜群に面白い。本作で彼が演じるのは、俳優ニック・ケイジ。つまり究極のセルフパロディだ。

家庭に問題を抱え、キャリアにも行き詰まった主人公ニックは、いいかげん俳優を引退しようと考えている。その矢先、スペインの富豪から破格のギャラで、パーティーに出席して欲しいとの依頼が。ペドロ・パスカル演じる富豪ハビはニックの熱烈なファンで、財力にモノを言わせて彼に会おうとしていた。気が進まないながらも、金に困っていたニックはスペインの孤島に飛ぶ。しかしハビはただの金満実業家ではなく、純真なまでに映画愛にあふれた男だった。ニックは彼との交流に温かいものを覚える。ところが、CIAがハビを武器商人としてマークしていたことから、ニックは思いもよらぬ事態に巻き込まれていく。

CIAのおとり捜査に担ぎ出されたニックだったが、過去に彼が演じてきたアクションヒーローのようにはいかず、ヘマも多い。それがコミカルな要素として機能しているばかりか、離婚歴があり借金に苦しんでいるというニック自身のプライベートをもパロディにしている点が笑いを呼び起こす。劇中のカーチェイスやガンファイトも、ニックの過去の映画をほうふつさせ、アクションの点でもスリルとおかしさが同居。『コン・エアー』(1997)を筆頭に、劇中で語られる映画はすべてニック自身の主演作で、こうもセルフパロディに徹すると嬉しくなってしまう。

『マッシブ・タレント』は67か国でトップテン入りをするヒットを記録。改めて、ニックが世界中で愛されていることを証明してみせた。また、全米賞レースでは批評家主体の映画賞で想定外の(?)好評を博している。本作を見れば、ますます彼と、彼のキャリアを愛さずにいられなくなる⁉

『マッシブ・タレント』
2023年3月24日(金)公開
アメリカ/2022/1時間47分/フラッグ
監督:トム・ゴーミカン
出演:ニコラス・ケイジ、ペドロ・パスカル、シャロン・ホーガン

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