1980年に衝撃のデビューを果たしたパンクバンド「亜無亜危異(アナーキー)」。
そのギタリスト・藤沼伸一が初監督を務めた映画『GOLDFISH』が3月31日より公開される。
藤沼自身のすべてをモチーフにしたという本作は、「ニルヴァーナ」のカート・コバーンの自殺を機に多く語られるようになった「27クラブ」や、人生の折り返し地点を迎えた年代に自分の人生を問い直すことでアイデンティティが揺れ心の葛藤が起きる「ミッドライフクライシス」など、多くのミュージシャンやアーティストに襲いかかる「死の波」を泳ぐ金魚のような者たちの苦悩を描いている。そして、観る者に自分自身と向き合うことの大切さ、そして希望を見出してくれる物語でもある。
藤沼伸一監督が語る、『GOLDFISH』公開への想いとは──。

きっちりとした設計図があったから、その上で遊ばしてもらえた

──『GOLDFISH』は初の映画監督作品となりますが、映画への興味というものは、もともとあったんですか? それとも、最近湧いたもの?

「もともとです。俺、一人っ子だったから、よく一人遊びしてたんですよ。絵を描いたり、本を読んだり。という中に、映画を観るっていうのもあって。映画館にもよく遊びに行ってました」

──近い存在ではあったんですね。では、影響を受けた監督だったり、作品だったりは?

「それはもう、たくさんいます。黒澤明さんの作品なんて、誰もが楽しめてすげえなって思うし。北野武さんの乱暴なカット割りも好きだし。海外だとミヒャエル・ハネケとか、ラース・フォン・トリアーとかも好きだし」

──でも、ご自身で撮るとなると、好きというだけではいかないですよね。

「今回、幸運だったのは、〈アナーキー〉のメンバーが1人亡くなってしまって、“4人でどう活動しようか……”って時に、昔の〈アナーキー〉を手伝ってくれたスタッフさんが今、映画のプロデューサー業やってるんですけど、“〈アナーキー〉をモチーフにして映画を撮ってみない?”って言ってくれて。俺が映画好きなの知ってたから。俺、YouTubeをしばらく、もう10年ぐらい前からやってたんで、カメラで撮って編集してっていうのも好きだったし。ただ、本格的な映画って言われたら、さすがに“ええぇー!”ってなりましたけど」

──快く引き受けて?

「題材が自分たちのことじゃないですか。そこそこ知られてるバンドだから、あとあと“いやそうじゃねぇだろ”“ああじゃねえよ”って、絶対意見出るじゃないですか。それが面倒くせぇなと思ったんです。“じゃあ、モチーフにはしているけど、この中で俺のテーマがぶつけられるよう、フィクションでやりたいんだけど、それでOKかな”ってことで、OKしてもらって。そこから脚本家とディスカッションを重ねました」

──観る側からしたら、これは〈アナーキー〉だなっていうのはわかるんだけど、当然のことながらフィクションを前提として。

「うん。全然違う感じもあるし、似せたところもあるし。すっごいデフォルメしちゃってるところもあるし。ドラマって、デフォルメしてないと感情移入できないじゃないですか」

──物語性は大切にした。

「ですね。脚本家の港(岳彦)さんがとてもきちんと書かれる人なので、きっちりとした設計図があったから、俺がその上で遊ばしてもらえたっていうか」

画像1: ©2023 GOLDFISH製作委員会

©2023 GOLDFISH製作委員会

──『GOLDFISH』というタイトルについては?

「「GOLDFISH」って金魚なんですけど、金魚は似ても焼いても食えないし、そもそも食べないじゃないですが、観賞用に作られた、言い方悪いけど奇形みたいなもんじゃないですか。これがセリフの中に入ってるんですけど、俺、金魚はエンターテインメントの象徴であって。金魚鉢の中にいる金魚は、アーティストだったり、アイドルだったり。それこそ〈アナーキー〉だってそう。その金魚である苦痛だったり、苦悩だったり、解放だったりていうところを“〈アナーキー〉というベースで描いたらどうだろう”って、俺は思ったんですよね」

──バンドも結局は観賞用に作られただけの可能性もあるよ、と。

「そう。だから(主人公の)イチが“これから俺たちがそれを利用してやんだぜ”って言っても、“いや、お父さん、パンクロックの奴隷じゃん”って言われて、ドキッとするという。パンクだって、大きい括りだと娯楽の一つじゃないですか。要はそれをコントロールしてる人たちもいるわけだと思うんです。お金儲けも含めて。そうじゃなかったら、例えば、日本のストリートで演ってるだけじゃ海外で知られるわけないし。セックス・ピストルズがロンドンで、ただ唾吐いてるだけなら、世界中で盛り上がるわけじゃないじゃないですか。誰かが手を加えてるわけですよ」

──マルコム・マクラーレン(ピストルズのマネージャーであり仕掛人)がいい例ですよね。

「そう。てことは、演者は、もしかしたら金魚じゃないかなと。俺の考えね。これ、主観ですよ。それで、映画をそこに持っていっちゃおうっていう」

──でも、そこをぶち破らなきゃっていうような想いは、永瀬正敏さんと町田康さんが対峙するシーンで特に感じましたけど。

「そこはどう取ってもらっても。俺もあの辺、論理的に全然説明できなくて。何となくカッケーということで(笑)」

──そこは受け手の自由で?

「もう全然。映画なんて、観客のもんなんだからさ。“こう観てくれ”なんて言っといて、観客が何も感じられなかったら、“おまえの技量があれなんじゃねぇの?”って思うけどね。新人監督がこんな生意気な口を利いて、皆さん、すいませんね。ギターの弾ける映画監督なんで(笑)」

画像: きっちりとした設計図があったから、その上で遊ばしてもらえた

“こんな新人監督に……”ってやきもち焼くんじゃないかなって思うぐらい(笑)

──藤沼さんならではだなと思ったのは、例えば、アニマルは葉巻を吸うじゃないですか。(〈アナーキー〉のヴォーカル)仲野茂さんも葉巻でしたもんね。

「シゲルは葉巻だね。永瀬さんが“監督、この映画って煙草吸ってもいい?”って言うから、“全然いいっすよ”って言ったんです。永瀬さんが煙草吸うんだったら、じゃあ、若いヤツは電子タバコで、アニマルは葉巻にして、有森(也実)さんは二本吸いにしちゃおうかって。今のご時世、煙草って悪者扱いされてるから、“いいんじゃね?”みたいな(笑)。

──ハルのリンゴ型のギターなんかも、マリ(逸見泰成)さんが使っていたギターを思わせて。

「あれは本人のものを借りてきたか。あと、北村(有起哉)さんが着たヒョウ柄の服、あれも本人が着てたやつを。マリと親しい友達がいて。親衛隊やってたやつなんですけど、そいつが管理してるのを借りて」

──それはファンには嬉しいチョイスですね。そういうディテールはこだわりたかった?

「でも、さっき言った通り、脚本という設計図があって、そこにどう組み込もうっていう作業ですから。脚本が大変でした」

──どのぐらいかかったんですか?

「たぶん、延べ2年ぐらいかかってると思います。俺もベタでやれないじゃないすか。音楽活動、泉谷(しげる)とかもやってたし」

──変更などはあったり?

「めちゃくちゃありましたよ。最初、すっごい分厚くなって、“これ、3時間だよ。『ゴッドファーザー』になっちゃうぞ”みたいな(笑)。今どき観ないじゃないですか。俺もDVD借りる時に、“177分!? えぇ〜”ってなる(笑)」

──キャラクター設定に関しては、等身大に近く描かれてるんだろうなって思う方もいる一方で、アニマルとかかなり誇張していて。

「あんなもんですよ、本物のシゲルも(笑)。まぁ、キャラ立ちはしといたほうが、観る側は面白いわけじゃないすか」

──メンバーの方は、もうご覧になられているんですか?

「観ました。“良かった”って」

──「俺、こんなんじゃねぇよ!」なんて言うメンバーは?

「いや、なんにも言わせませんよ、あんな野郎どもには(笑)」

画像2: ©2023 GOLDFISH製作委員会

©2023 GOLDFISH製作委員会

──「逸見泰成に捧ぐ」とありますが、マリさんの話を軸にしたいというのは、前々から思っていた?

「プロデューサー側もそれをたぶん、望んでたと思うし、このプロジェクト自体がそういうことも全部含まれていたので」

──マリさんに対して、それぞれが、いろんな想いを持っていると思うんですけども、藤沼さんは同じバンドで、同じギタリストじゃないですか。特に投影したかったことを教えていただけますか。

「いわゆる金魚の苦悩だったり、人が亡くなったりしたことに関して、ああだこうだ自分の主観を入れるのは、俺、あんまり好きじゃないんです。だって、もしかしたら明日、俺が死ぬかもしれないじゃないですか。それはわかんないじゃないですか。そういう感じなんですよ。“こうだからこうやって嫌になっちゃったのかな……”とか、そういう主観を観客に押し付けるの、あんまり好きじゃなくて。ただ画だけ撮って、ぽんって投げたっていう感じです」

──実際に当時のマリさんがああだったところもあったんですか?

「ちょこっとあったけど、デフォルメしてるので、あんなに酷くはないんですよ。ただ、お話として、脚本家の港さんは、“ここ、もっとえげつないほうがいいよ”って言って。“絶対そっちのほうがドラマとして面白いからさ”って。で、どっちを取るんだとなったら、じゃあ、俺はドラマを取ると」

──リアルな〈アナーキー〉は、ドキュメンタリー(08年公開の映画『アナーキー』)もありますしね。キャスティングに関してはどうでしたか?

「永瀬さんは脚本を選ぶというのを噂に聞いてたんで。脚本が面白ければ出ると。で、“怖いけど、脚本送ってみよっか”ってなったら、“監督と会いたい”って返事が来ました。“面白そうですね”って。そこでディスカッションして、”このほうがいい”“ああじゃない”とかしゃべって」

画像3: ©2023 GOLDFISH製作委員会

©2023 GOLDFISH製作委員会

──まず永瀬さんが決まって、他のキャストがだんだん決まっていった。

「いや、同時進行です。イチの娘役(成海花音)をオーディションで決めたり。一番最初に決まったのが、実は、町田なんですよ。俺が“バックドアマンは絶対、町田がいい!”って。バックドアマンって死神なんですけど、普通だったらそれは、黒のフードを被るとかになるでしょ。俺、そういうのって絶対嫌だから。“町田がいいって! あいつが死神だったら気味悪くて、良くね?”って言って」

──町田さん、はまっていましたね。失礼なのかもしれないですけど。

「北村さんと町田くんがやり取りするところも、脚本では標準語なんですけど、“なんか面白くねぇな。いつもの関西弁でやって”って言って。“いや、全部おまえでええわ”“そんなん、もろ俺やんけ”ってやってもらったら、今度は北村さんが“間を取れなくって困った”って。だからあの変な感じの空気が生まれたんですけど。役者さんって、あんまり被んないんだって。普通はちゃんと間があって、ドラマに沿ってやるんだけど、町田が暴走するからすげぇよくて。北村さんがたじたじしてるのを見て、“すっげぇこれ”と思いましたね」

画像4: ©2023 GOLDFISH製作委員会

©2023 GOLDFISH製作委員会

画像5: ©2023 GOLDFISH製作委員会

©2023 GOLDFISH製作委員会

──やっぱり近しい方に声をかけられたんですか?

「「ウォーリーをさがせ!」じゃないですけど、ちょこちょこと。ニューロティカのあっちゃん(ATSUSHI)とか、まちゃまちゃとか。あと、PANTAさん(頭脳警察)。“フジサンぱっかーん”だけですいません、みたいな(笑)」

──キャスティングも合格点なんじゃないですか?

「だって、永瀬さん、北村さん、KEE(渋川清彦)くん、有森さんとか出てくれるだけでも十分じゃないのって思うもんね。他の映画監督の方たちがさ、“こんな新人監督に……”ってやきもち焼くんじゃないかなって思うぐらい(笑)」

──では最後に、作品のPRコメントをお願いしたいのですが。

「俺、この映画をバンドものとして扱われるのが嫌だなと思ってて。間口が狭くなるじゃないですか。映画って、共有してる話題があるじゃない。戦争だったり、暴力だったり、恋愛だったり、セックスだったり。恋愛する人は、恋愛映画に“わあー”ってなったり。バンドって、どうでもいい人はいいんだもん。聴かなくても全然生きていける人いるし。共有感ないんですよね。だから、バンドの枠だけじゃなくて、“みんなが共有できる話題が入ってるよ”っていうのを言いたいです。あとはもう、冷やかしでいいんで、観てもらえたら」

──これを機に、〈アナーキー〉自体に興味をっていうことも。

「それは、それぞれでいいんじゃないすかね。お好きにどうぞ。“昔、こういうこと演ってた人たちがいるんだ”でもいいし、今やってるライブに来てもらってもいいし。おっさんたちですけどね(笑)」

──実際にライブを観たら、ビックリするかもしれないですね。失礼ですけど、“こんな高齢の方が、こんなパンクを……”って。

「昔からのファンなんて、4曲ぐらいで息切れしてますからね。“俺らのほうが元気じゃんかよ!”みたいな(笑)。今年、64歳になるんですよ。『ヒッチコック』っていう、アンソニー・ホプキンスなんかが出てる映画観たら、“そろそろ引退では?”っていうセリフがあって。その時(『サイコ』撮影時)のヒッチコックって、60歳ぐらい。“俺、これから映画撮るのに……”って思いましたよ。“どうしてくれんじゃ!”みたいな(笑)」

──2作目もやりたいなんて。

「全然やりたいですね」

──今後は「映画監督・藤沼伸一」という肩書きでも。

「ギターの弾ける映画監督。“スピルバーグ、待ってろよ! 俺はギターが弾けるぞ!”ってね(笑)」

撮影/大西 基 取材・文/辻 幸多郎

画像: “こんな新人監督に……”ってやきもち焼くんじゃないかなって思うぐらい(笑)

PROFILE

藤沼伸一 SHINICHI FUJINUMA

1959年11月7日生まれ、東京都出身
1980年、伝説のパンクロックバンド「アナーキー」のギタリストとしてデビュー。その独自のギタースタイルが様々なアーティストから評価され、42年間で参加したレコーディングアルバムは100枚に近い。2002年には、これまでの集大成的なソロアルバム「Are You Jap?!」をリリース。現在も、舞士、REGINA、泉谷しげるなどとライブ活動を精力的にこなしている。本作が映画初監督となる。

『GOLDFISH』

画像6: ©2023 GOLDFISH製作委員会

©2023 GOLDFISH製作委員会

画像7: ©2023 GOLDFISH製作委員会

©2023 GOLDFISH製作委員会

〈STORY〉
1980年代に社会現象を巻き起こしたパンクバンド「ガンズ」は、人気絶頂の中、メンバーのハル(山岸健太)が傷害事件を起こして活動休止となる。そんな彼らが30年後、リーダーのアニマル(渋川清彦)の情けなくも不純な動機をきっかけに、イチ(永瀬正敏)が中心となって再結成に動き出す。
しかし、いざリハーサルを始めると、バンドとしての思考や成長のズレが浮き彫りになっていく。ためらいながらも音楽に居場所を求めて参加を決めたハル(北村有起哉)は、仲間の成長に追いつけない焦りから徐々に自分を追い詰めていった。以前のように酒と女に溺れていったハル。彼の視線の先に見えてきたものは──。

3月31日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

監督:藤沼伸一
脚本:港 岳彦、朝倉陽子
音楽:藤沼伸一、山下尚輝
エンディングテーマ:「心の銃」(作詞 / 作曲:アナーキー)
出演:永瀬正敏
   北村有起哉 渋川清彦 / 町田 康 / 有森也実
   増子直純(怒髪天) 松林慎司 篠田 諒 山岸健太 長谷川ティティ 成海花音
配給:太秦 パイプライン

画像: 『GOLDFISH』

This article is a sponsored article by
''.