『アマンダと僕』(2018)で、ヴェネチア国際映画祭マジック・ランタン賞、東京国際映画祭で、グランプリ&最優秀脚本賞のダブル受賞に輝いた映画監督ミカエル・アース。
彼の最新作となる『午前4時にパリの夜は明ける』は、80年代に遡り、日々の暮らしの中で自分らしく生きることに懸命な“普通の人々”たちを描いて、その時代へのオマージュを捧げた。
静かで美しい映画がまた一つ誕生した。80年代への熱い想いを、アース監督にうかがってみた。

80年代へのオマージュが珠玉の傑作に

画像: 80年代へのオマージュが珠玉の傑作に

ミカエル・アース監督の80年代へのこだわりが際立つ『午前4時にパリの夜は明ける』は、2022年ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされ、フランス映画祭横浜2022で日本での初上映を果たした。そして、いよいよ待望の劇場公開を迎える。

アース監督は、80年代にデビュー以来、フランスを代表する女優の一人としてセザール賞やカンヌ国際映画祭などでの多数の受賞歴を持ち、国際的にも活躍するシャルロット・ゲンズブールを本作の主演に起用。
加えて、同時代から多数の映画作品で活躍し続けているエマニュエル・べアールも登場させた。

まだ、SNSなどがない時代の80年代のパリ。深夜ラジオが繋ぐ、愛おしく大切な時間と7年間の歳月が定点観測され、織りなされたドラマは興味深い。

夫と離婚してシングルマザーとなった一人の女性が出会った、孤独な少女。彼女を受け入れた“家族”が築く新たな絆。謙虚ではかなげだった女性が、人生の新たな一歩を踏み出しながら、自分を見つめていく姿勢に、観る者は胸を熱くさせられ勇気づけられもする。

独自性の強い、世界的に知られる多くの名監督たちが出演を熱望してやまない女優、シャルロット・ゲンズブールの新たな側面を、本作で惹き出したアース監督。
子供時代を過ごした80年代を描くことに取り組んだアース監督の感覚と才能に注目だ。
日常の中にこそ最大のドラマがあり、それが人生の喜びにもなるということに気づかせてくれる珠玉の傑作である。

シャルロット・ゲンズブールが演じる新たな女性像

画像: シャルロット・ゲンズブールが演じる新たな女性像

1981年のパリ。結婚生活が破綻して、一人で子供たちを養うことになったエリザベートは職探しを余儀なくされる。自分に合った仕事とは何か模索するが、深夜放送のラジオ番組の仕事に就くことになり、新たな人生へと踏み出していく。
そこで出会った家出少女のタルラを自宅へ招き入れることにするが、家族のかたちに変化が起きる。

──今回の作品の主演、エリザベート役のシャルロット・ゲンズブールは、母が女優のジェーン・バーキン、父が作曲家で映画監督でもあるセルジュ・ゲンズブールという、個性的な両親のもとに生まれた女優です。

彼女のいくつかの出演作品の中でも、ラース・フォントリアー監督の『アンチクライスト』(2009 )『ニンフォマニアック』(2013)などは過激で異色な役柄でした。彼女は、そういった稀有な才能を発揮してきたことでも印象が強い存在です。

そんな彼女が、本作ではそういう役柄とは全く逆な、穏やかで静かな、しかし強い内面も持つ人間味溢れる、母であり妻であった市井の女性像を演じて観る者を魅了します。監督はどのような演出をして、彼女のそういう側面を惹き出されたのでしょう?

そうですね。彼女はとても神秘的なんです。私自身は彼女の多くを知らなかったと言ってもよいし、彼女の過去の作品もよく知りませんでした。また、今回の役柄について二人でじっくり話し合うということもしませんでした。
しかし、彼女が実に素早くこの役に入り込むという、その直感的な才能には驚かされました。か弱そうでナイーブでもありながら、力強さもあり、内気でありながらも、とても勇気があるというような、両面を持った、ごく普通の女性を演じ切りました。実人生とは違うであろうキャラクターになり切ったのです。

夭折の女優パスカル・オジェへのオマージュ

──素晴らしいですね。

そして、彼女の両親のことでの私的な面や、これまで演じた過激な役柄から、彼女のイメージが印象づけられがちですが、もともと優しくてデリケートな面を持っている女性だと思わされもしました。

──なるほど。今回の作品は、80年代の7年間が舞台になっています。その時代を標榜するともいえる、エリック・ロメール監督作品『満月の夜』(1984)で一躍注目を浴び、若くして夭折した伝説的女優のパスカル・オジェへのオマージュでもあるとのことですが、監督にとってパスカル・オジェはどのような存在なのでしょう。

画像: 夭折の女優パスカル・オジェへのオマージュ

確かに、彼女へのオマージュを捧げた作品です。私自身、彼女の出演しているエリック・ロメールの作品を観たとき、役柄を通り抜けた女優がいるということを初めて感じさせられました。ですから、そのオジェへ“目くばせ”するというか、オマージュとして、エリザベートというよりは、タルラ役を設定したんです。
タルラ役のノエ・アビタには、パスカル・オジェの持つ“音楽的な”声の質なども意識して演じてもらいました。

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