いよいよ2023年6月9日(金)に『リトル・マーメイド』が公開」! ディズニー作品には数多くのプリンセスが登場しますが、その姿勢や志は時代と共に絶えず変化しています。今回はそんなプリンセスの変容について、児玉美月さんの特別寄稿をお届けします。(文・児玉美月/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:© 2023 Disney

王子様との結婚が“幸せ”だった初期のプリンセスたち

歴代のディズニープリンセスたちが勢揃いした『シュガー・ラッシュ:オンライン』(2018)には、自分もプリンセスだと話すレーサーのヴァネロペが「一番大事な質問」として、「男の人がいなければ、何もできない女の子だと思われている?」とプリンセスから聞かれるシーンがある。

ヴァネロペが「そう、それってムカつくよね」と答えると、プリンセスたちは「本物のプリンセス」だと彼女を自分たちの仲間として一堂に認めるのだった。

画像: 『白雪姫』

『白雪姫』

ディズニープリンセスたちの物語は、1937年の『白雪姫』からはじまる。初期の三作品『白雪姫』『シンデレラ』(1950)『眠れる森の美女』(1959)のプリンセスたちには、幸せな結婚を夢見てひたすら王子様を健気に待つ受動的な女性のイメージが強くあった。

彼女たちは家父長制が支配する不遇の境遇から抜け出すには王子様との結婚が必要であり、「男の人がいなければ、何もできない」かのような人生を生きるほかなかった。

画像: 『リトル・マーメイド』

『リトル・マーメイド』

1959年の『眠れる森の美女』から1989年の『リトル・マーメイド』までの空白の期間は、政治や経済活動などの公的領域は男性、家庭の家事労働などの私的領域は女性、とジェンダーで社会上の役割を割り振る構造を問い直そうとした第二波フェミニズムが台頭した時代と重なる。

女性の地位や権利についてラディカルな変化が起きているさなかに現れたのが、『リトル・マーメイド』のアリエルだった。海の世界にいるアリエルの夢は人間の世界に行くことであり、彼女は自分の夢に対して能動的なプリンセスとして登場した。

画像: 『美女と野獣』(実写版)(2017)

『美女と野獣』(実写版)(2017)

続く『美女と野獣』(1991)のベルは、初めて知性を最も押し出されたプリンセスだった。それまでは基本的に王子様とプリンセスは一目惚れによって恋に落ちていたが、呪いによって王子は野獣の姿に変えられており、外見によって惹かれ合う定石が覆された。

実写版『美女と野獣』ではベルと野獣がシェイクスピアについて語り合う場面もあり、ふたりは一目惚れではなく、知性を基盤として内面を知り合いながら結ばれてゆく。

様々な人種のプリンセスが登場しジェンダー規範に切り込む1990年代

画像: 『アラジン』(実写版)(2019)

『アラジン』(実写版)(2019)

1990年代に入るとそれまでの人種的偏りが見直された結果、非白人のプリンセスたちが登場しはじめる。それが『アラジン』(1992)『ポカホンタス』(1995)『ムーラン』(1998)だった。

中東の架空都市を舞台にした『アラジン』では、アラブ系のジャスミンがプリンセスに。実写版『アラジン』でジャスミンが歌う劇中歌「スピーチレス〜心の声」には「私はもうこれ以上 黙っていられはしない 心の声あげて」とフェミニズム的な意思が込められ、「黙らない」プリンセスの強い姿が前景化された。

画像: 『ムーラン』

『ムーラン』

『ムーラン』は、「女性らしさ」を押し付けようとするジェンダー規範に鋭く切り込む。冒頭では「理想的な花嫁」になるための教育を受けさせられていたムーランが、徴兵令が下った父親の代わりに出征を決意して家を出てゆく。男装して従軍したムーランは当初こそ訓練に苦労するものの、その能力を周りに認められ、それまでヒーローが担っていた役割をプリンセスが踏襲する。

アニメ版ではムーランは負傷によって事故的に男装が露呈してしまうが、実写版『ムーラン』では自らまとめていた髪を解いて女性の姿へと戻り、自らの意思で「本当の自分」の受容を目指すプリンセスとなっている。

2000年代には、初めて黒人のプリンセスを迎えた『プリンセスと魔法のキス』の一本がある。ティアナの夢は王子様との結婚ではなくレストランの開業であり、ここでは現代的な働く女性像がプリンセスを形作った。

『塔の上のラプンツェル』(2010)まではプリンセスの在り方が変容したとしても、彼女たちが望むと望まざるとにかかわらず、男性たちとの恋愛や結婚が物語に大きく関わっていた。ラプンツェルは閉じ込められていた塔の上の部屋から、男性の手を借りることなく自らの魔法の髪を駆使して自力で脱出し自由を謳歌するが、『塔の上のラプンツェル』でも結末では彼女の結婚について語られる。

2010年代に形を変えた“永遠の愛” 理想を持ち自分の人生を歩む女性へ

しかし『塔の上のラプンツェル』以後の2010年代のディズニープリンセスたちにとって、もはや恋愛や結婚が人生の重要な出来事にはならない。

『シュガー・ラッシュ:オンライン』でヴァネロペが「お母さんがいない」というとプリンセスたちが「私たちも」と答える通り、ディズニープリンセス作品では父親に比べて母親の存在が希薄な物語が多かった。

そんななか『メリダとおそろしの森』(2012)では、プリンセスと母親との関係性に光が当てられた。スコットランドの地方で王女としての教育を受けさせられているメリダは、結婚を夢見るどころかむしろ断固として拒絶さえする。弓使いのメリダは、「自分を獲得する」ためにこそ弓を引く。

画像: 『アナと雪の女王』

『アナと雪の女王』

すぐ翌年に製作された『アナと雪の女王』(2013)ではプリンセスと王子との愛よりも、エルサアナの姉妹愛に軸足が置かれる。『アナと雪の女王』と同時期に製作された『眠れる森の美女』のヴィランであるマレフィセントのスピンオフ作品『マレフィセント』(2014)では、オーロラの真実の愛のキスの相手は王子ではなくなっており、マレフィセントのキスによって眠りから目覚める改変がなされた。ここでもやはり、男女の異性愛よりも女性同士の親密さが強調されたのだ。

画像: 『モアナと伝説の海』

『モアナと伝説の海』

2016年の『モアナと伝説の海』から2021年の『ラーヤと龍の王国』のあいだに起きたのは、ハリウッドの有名プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインに対する性暴力及びハラスメントの告発に端を発する#MeToo運動だった。

そうしたなかで世に送り出された『ラーヤと龍の王国』では、世界の平和のために戦うラーヤナマーリという女性同士の連帯がテーマになった。

ディズニープリンセスの物語は、このように時代とともに絶えず変化してきた。プリンセスたちはもはやそれぞれにまったく異なる理想と夢を持ち、自分だけの人生を歩む。これからどんなプリンセスがまた生まれてゆくのか、ますます目が離せない。

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