岩井俊二監督の長編映画デビュー作『Love Letter』(97)の4Kリマスター版と、竹中直人が主演と監督を務めた『東京日和』(97)デジタルリマスター版という中山美穂主演の代表作2本が、12月3日(水)にBlu-ray&DVDで同時発売される。これを記念し、岩井監督と竹中監督の史上初となる対談が実現した。
画像1: 『Love Letter』岩井俊二監督×『東京日和』竹中直人監督の初対談が実現 初めて語り合う“中山美穂”という特別な存在
画像2: 『Love Letter』岩井俊二監督×『東京日和』竹中直人監督の初対談が実現 初めて語り合う“中山美穂”という特別な存在
画像3: 『Love Letter』岩井俊二監督×『東京日和』竹中直人監督の初対談が実現 初めて語り合う“中山美穂”という特別な存在

『Love Letter』は亡きフィアンセに送った、届くはずのない1通のラヴレターが、2つの恋を浮き彫りにしていくというピュアなラブストーリー。中山美穂が一人二役を演じ、ブルーリボン賞、報知映画賞ほか数多くの主演女優賞を受賞した。第19回日本アカデミー賞でも優秀作品賞などを受賞した本作は、20カ国以上の国と地域で公開され、1999年に韓国で初公開された際には140万人を超える動員を記録。

『東京日和』は写真家の荒木経惟と彼の亡き妻・陽子の写真&エッセイ集をベースに、夫婦愛を丁寧に紡いだ物語だ。主演も兼ねた竹中監督が、主人公の島津巳喜男役を演じ、中山美穂が妻のヨーコ役を演じた。本作では、夫婦の悲喜こもごもが、東京の様々な風景をバックに生き生きと描かれる。

『Love Letter』岩井俊二監督×『東京日和』竹中直人監督 対談

――まずは、お互いの映画をご覧になった感想から聞かせてください。

竹中:『Love Letter』は公開当時に観て、本当に感動しました。今日、岩井監督と初めて対談させていただくことになり、改めて観直してみて、もう1つ思い出したことがあります。当時、日本映画はほとんどビスタサイズで撮られていたけど、『Love Letter』はシネマスコープで撮っていた!と、30年前にも感動したことを思い出しました!

本当に素敵な映画で、中山美穂さんがあまりにも美しかったし、酒井美紀さんもとても素敵でした。『Love Letter』を観た後、酒井さんと何かのお仕事で一緒になって、『Love Letter』の美紀さん、すごく良かったです!と話したことも覚えています。ただ、『東京日和』に美穂ちゃんをキャスティングした時に『Love Letter』が良かったとは言えなかった気がします。あまりにも素晴らしい映画でしたから。

――岩井監督からも『東京日和』についての感想をいただけますか?

岩井:本当に素晴らしい映画でした。美穂ちゃんを公私ともに知っている側からすると、彼女にとてもふさわしいキャスティングだったかと。あのヨーコの一風変わったところや、意表を突くところなど、美穂ちゃんに一番演じてほしい役柄でした。また、夫婦の純愛物語をあんなふうにのっぴきならないところまでを描き、純愛を貫くなんて。2人の関係性が非常にピュアなところまでたどり着いているところがすごいと思いました。最後は、柳川を2人で散歩するだけで、映画が進行していきますが、そういう境地にまでたどりつけるなんて非常に稀有なことです。夫婦の純愛ラブストーリーを実現した、奇跡のような映画だなと思いました。僕は大好きな映画です。

――では、中山さんの映画女優としての一番の魅力についてもお二人にお聞きしたいです。

竹中:美穂ちゃんは、何とも言えない危うさがあります。でもそれはご本人が発しているエネルギーなんだとも思います。美穂ちゃんご自身の魅力がスクリーンに反映される、反射するという感じですね。だから撮る側もちょっと危なっかしい気持ちになりながら見守る感じです。『東京日和』の役がそうだったという訳ではなく、美穂ちゃん自身がどこ揺らいでいるような空気感があって、それがたまらないのです。安定を望まず揺らぐ美しさとでも言うのでしょうか…。35ミリフィルムの世界に合うようなイメージです。撮影初日からそう感じた印象があります。

だから、『ここで泣いてほしい』なんて、余計なこと言っちゃダメなんです。ぼくはあるシーンでそんな事を言ってしまった。最低な演出家だなと、深く後悔しました。それでも美穂ちゃんは、想像していた以上に応えてくれました。とてつもない魅力のある人です。当たり前のことですが、ただただ見つめているだけでそのシーンが持ってしまう。「はい、カット」と言いたくない。ずっと長回しでいいのです。彼女は映画女優です。とてつもなく深く淡いエネルギーを持っていらっしゃった。

――確かに映画女優という言葉がしっくり来ます。

そういえば、こんなこともありました。ある日、日活の撮影所でセット撮影をしていた時、ライティングの準備でかなり時間がかかってしまって。美穂ちゃんを3時間以上待たせてしまったんです。あまりに申し訳なくて美穂ちゃんの楽屋を訪ねたんです。「時間がかかってごめんね」って。すると美穂ちゃんが「全然大丈夫です。」と言ってくれて。でもね、美穂ちゃんの楽屋に… なんと!壁いっぱいにクリスチャン・スレーターの写真をたくさんコラージュしてあったんです。待っている時間に作業したんでしょうね。日活撮影所のひとつの楽屋は2週間くらい美穂ちゃん専用の楽屋でしたからね。ぼくはびっくりして、「うわ!クリスチャン・スレーターだ!」と言ったら「はい!大好きなんです!」ってすごくうれしそうにこたえてくれて。本当に可愛かったです。

『東京日和』では、美穂ちゃんの少女の部分と、すごく大人の部分…そして、さらに変わっていく何かにつながっていくようなギリギリのところにいたんじゃないでしょうか…分かりにくい表現でごめんなさい。でもそれが、柳川という場所に行ったとき、美穂ちゃんが圧倒的に違う空気を見せてくれたんです。極端に言ってしまえば脱皮したというか、また新たな中山美穂が現れたというのかな…それはぼくにとってすごい体験でした。監督を務めたときにしか観ることの出来ない表情の変化を僕は見ることができました。今は“女優”という言葉を使っちゃいけないんだけれど、やはり“映画女優”という言葉だけは活かしてほしいと思います。女優です。女優と言う言葉はとってもロマンチックです。

――岩井監督からも中山さんの魅力をいただけますか?

岩井:『東京日和』を拝見した時、きっと本番中と、カットがかかった後の素の本人とのギャップが少なかったんじゃないのかなと勝手に思いました。美穂ちゃんって、本当にあそこに出てくるヨーコみたいな雰囲気の人だったので。ヨーコの奇行とはまた別の話ですが、雰囲気や竹中さん演じる旦那さんとの距離感、職場での居場所を見ても、ああ、美穂ちゃん本人も本当にこうだったよなと、自然に思えました。

日常的にも、本当に独特な雰囲気を持つ人で、人との距離感の取り方もああいうふうでした。芸能活動自体についても、おそらく本人の中でも噛み合っているような、噛み合ってないようなところがあり、どこかこうしっくりきてなかった面もあったのではないかと。でも逆に、そこがまた彼女の独自の魅力になっていたんです。

彼女は、すごくなりたくて芸能人になって「今すごく幸せです!」とは言い難いところにいた気がします。実際に、自己同一性みたいなところで逡巡されているようなところも、僕はお見かけしていました。女優や、タレント、歌手だったりする人生を目指す多くの人にとっての彼女は、ある種、人生の夢を手に入れた人だと思いますが、かなり早い段階でそこに行ってしまった彼女は、そのこと自体が人生となり、じゃあこれからどう生きたらいいんだろうということに直結していったんじゃないかなと、僕は思っていました。

――『東京日和』でカメラマンの荒木経惟さんをモデルにした役を演じるにあたり、竹中監督はどんなことを意識されましたか?竹中さんご自身も映画監督なので、同じように素敵な画を切り取るお仕事ということで、シンパシーを感じられましたか?

竹中:僕は荒木さんのエッチな写真にはあまり思い入れがなかった。荒木さんの撮る東京の風景がとても好きでした。それで荒木さんに直接お会いしたいと思っていたら、ちょうど雑誌「CREA」と言う雑誌が、荒木さんと新宿の街を歩くという企画を組んでくださった。初めて 2 人だけで新宿の街を歩いたんです。その時、荒木さんが写真を撮る様子を見ていました。多分、コニカだったかな?コニカのカメラを胸ポケットに入れていて、それをさっと、拳銃のように出して、ずっとカメラを横移動させながら、「竹中!東京は流れてる」ってシャッターを切るんです。それを見て「うわ!かっこいいな!」って思いました。

当時まだ 2000 年になってない頃でしたが、カシャカシャとカメラに内蔵されている日付のダイヤルを回して、それを2025 年ぐらいにして「俺は未来を撮っているんだ!」って。すごいでしょう?荒木さんとそういう時間を過ごすことができたので、『東京日和』は荒木さんと同じ髪型をして、同じ眼鏡も買って、「荒木経惟」として出ようと思っていました。実際に本当によく似せることができたのです。でも、ちょっとこれだと、変にモノマネをしているみたいになってしまうと思い、やはり「島津巳喜男」という名前にして、荒木さんを一つ越えたところで演じることにしました。東の街は僕自身も色々な映画の撮影で行っていたので、自分の好きな場所を中心に撮ることができました。中でも東京ステーションホテルや、東京駅、銀座の時計台は、絶対に収めたいカットでしたしね。銀座の不二家、世田谷線などもいっぱい撮ることができて、ありがたい経験が出来ました。

――荒木さんは、完成した映画を観て、どんな感想を?

竹中: 今、急に思い出したのですが、初号試写の時に荒木さんがいらっしゃって「竹中!俺が表に出してないものを全部、撮ってくれたな。すごいよ、お前」と言って褒めてくれたんです。でも、そのあとで淀川長治さんに『東京日和』をかなり否定されて…そうしたらね、荒木さんもコロッと態度が変わって「竹中、お前はまだまだだな」って。え!うそ!なんで〜!あんなに褒めてくれたのにって思いました(笑)。

――岩井監督は、観ていてどんなシーンが気になりましたか?

岩井:個人的には、3度見してしまったシーンがあります。巻き戻して、えっ!となったのが、ピアノの形をした石の前で夜、ヨーコが女装した子どもに算数を教えるというシーンです。美穂ちゃんの教え方や、セリフ回しになんかドキドキしちゃって、3回ぐらい見直しました。ヨーコがすごく不思議なことを言っているんですが、後で伺ったら、岩松了さんが考えた台詞だったそうです。あそこはちょっと狂気を感じたというか、言葉の選び方一つ一つが微妙に気持ち悪くて、本当に心に残っています。算数で「5から7は引けないけど、こっちから10を借りてきたら引けるでしょう」とかいうものです。

竹中:すごいんです。岩松了の脚本は。

岩井:確かに算数を教える時、そんなふうに言いますし、何も間違ってはいないんだけど、あのシチュエーションで、夜にあの場所で子どもにそれを教えるという感じがすごいなと。映画全体の中で一番狂気が極まったシーンだよなと思い、すごいなと感じ入ってしまいました。

――岩井監督もおっしゃられたとおり、溢れ出る夫婦愛だけではなく、綺麗事だけじゃない生々しさも感じられ、とても心を揺さぶられましたが、脚本の岩松さんとのやりとりについても聞かせてください。

竹中:本作において、岩松さんの第一稿を読んだ時から、まだ第一稿の段階から「もうこれでいけるじゃん」と思いました。そう言うと、ちょっと生意気ですが、42 歳の僕はそう思ったんです。何も変える必要はないと感じました。もちろんエンディングやオープニングをこうしたいというリクエストは岩松さんにお伝えしますが、それだけです。

――撮影の思い出やエピソードがあれば聞かせてください。

竹中:美穂ちゃんの最後の撮影日の事です。その日の夜は本当に寒くて、途中から雨が降ってきてしまって。美穂ちゃんのシーンが全て終わり、花束を渡して、お疲れ様でした!と美穂ちゃんは帰っていきました。なんだか寂しいな…と思いつつも、僕はまだ撮影があったので…。そのあとの僕のシーンは、ライティングをかなり変えて撮らないといけなくて、すごく時間がかかりました。でも無事撮影終了。僕は「これで撮影はもう終わりか」と思ったら、寂しくなってしまってね。そうして現場の撤収作業に入ったんです。すると… なんと!僕が終わるまで、美穂ちゃんがそっと静かに隠れて待っていてくれて!その瞬間、ぼくはもう泣きそうでした…。感動しました。「え…??うわ~!うそだ!ありえない!ありがとう、ありがとう」って言いました。僕たちは夫婦役をやっていたからなのかな…また岩井さんの『Love Letter』とは違う関係性ですよね。監督であり夫婦役でもあったから、不思議な想いが熱く込み上げてきて、とても感動してしまいました。

――とても素敵なエピソードですね。他にも中山さんを演出した際に思い出に残っているシーンがあれば教えて下さい。

竹中:1 回だけ、撮影の初日だったかな?あるシーンの撮影で、美穂ちゃんにそっと近づいていって、「ここで泣けるといいんだけど」言ったんです。すると美穂ちゃんが「そう言われたら泣けなくなる」って。もちろん、もう少し柔らかい言い方でしたが、俺はその瞬間、地獄に突き落とされた気持ちになりました。「ああ、余計なことを言ってしまった!」って。演出家として最低なことをしてしまったと後悔しました。 「もうこれで俺は嫌われたから、明日からもう全てがダメじゃん!」と思ってしまった。でも大丈夫でした。美穂ちゃんはそのあとも、僕を信じてくれていたと思います。

撮影:近藤誠司
竹中直人監督
ヘアメイク:和田しづか
岩井俊二監督
ヘアメイク:林摩規子

『Love Letter』

 
拝啓、藤井 樹 様。 お元気ですか? 私は元気です。
世界中で愛され続ける恋愛映画の金字塔。岩井俊二長編デビュー作が4Kリマスターで蘇る。
1995年/日本/113分/劇場初公開:1997年10月18日・2025年4月4日4Kリマスター公開/2025年12月3日(水) 4KリマスターBlu-ray&DVD発売/©フジテレビジョン

【スタッフ】 脚本・監督:岩井俊二/製作:村上公一/重村一、堀口壽一/エグゼクティブプロデューサー:松下千秋、阿部秀司/プロデューサー:小牧次郎、池田知樹、長澤雅彦/撮影:篠田昇/照明:中村裕樹/美術:細石照美/編集:/録音:矢野正人/音楽:REMEDIOS/Photo by MARK HIGASHINO/ラインプロデューサー:亀井宏幸/アソシエイトプロデューサー:加太孝明/協力プロデューサー:河井真也/製作:フジテレビジョン/製作協力:ROBOT
【キャスト】中山美穂/豊川悦司/酒井美紀/柏原崇/范文雀/篠原勝之/加賀まりこ

【イントロダクション】1995年に初公開された岩井俊二監督・長編デビュー作。小樽を舞台に中山美穂、豊川悦司が贈るピュアなラブストーリー。中山美穂が一人二役に挑戦し、女優として高く評価された。世界20カ国以上の国と地域で公開され、1999年に韓国で初公開された際には140万人を超える動員を記録。韓国では公開当時「お元気ですか?」が流行語となり、今では20代の若者からも絶大な支持を獲得している。初公開から30年を迎えた今もなお、世代を超え世界中で愛され続けている恋愛映画の金字塔作品。
一人二役を演じた主演の中山美穂は、ブルーリボン賞、報知映画賞、ヨコハマ映画祭、高崎映画祭などで主演女優賞を受賞した。また、1995第19回日本アカデミー賞では優秀作品賞に加えて、豊川悦司が優秀助演男優賞と話題賞(俳優部門)を、柏原崇と酒井美紀が新人俳優賞を、REMEDIOSが優秀音楽賞を受賞。1995年度『キネマ旬報』ベストテンで第3位、同・読者選出ベストテン第1位に輝くなど多数の賞を受賞している。
★オリジナル・サウンドトラックCD同時発売!「Love Letter ORIGINAL SOUNDTRACK」 KICS-4236/¥2,750(税抜価格¥2,500)

『東京日和』 

見ないでほしいのよ、私のこと─。竹中直人監督・中山美穂主演作品
1997年/日本/121分/劇場公開日:1997年10月18日/2025年12月3日(水)Blu-ray&DVD発売 発売元:フジテレビジョン/バーニングプロダクション ©フジテレビジョン/バーニングプロダクション

【スタッフ】監督:竹中直人/脚本:岩松了/原作:荒木陽子、荒木経惟/撮影:佐々木原保志/照明:安河内央之/美術:中澤克巳/編集:奥原好幸/録音:北村峰晴/音楽・主題歌:大貫妙子
【キャスト】竹中直人/中山美穂/松たか子/鈴木砂羽/浅野忠信/田口トモロヲ/利重剛/温水洋一/山口美也子/塚本晋也/中田秀夫/周防正行/森田芳光/中島みゆき/内田也哉子/荒木経惟/久我美子/藤村志保/三浦友和

【イントロダクション】写真集出版の準備を進める写真家が回想する、亡き妻との日々を綴った純愛ドラマ。監督は『無能の人』『零落』の竹中直人。写真家・荒木経惟とその妻・陽子による写真&エッセイ集『東京日和』をベースに、岩松了が脚本を執筆。撮影を『GONIN』の佐々木原保志が担当している。主演は『ヌードの夜』の竹中直人と『Love Letter』の中山美穂。第21回(1998年度)日本アカデミー賞音楽賞受賞。97年度キネマ旬報ベスト・テン第9位。

『Love Letter 4Kリマスター』 
2025年12月3日(水) 4KリマスターBlu-ray&DVD発売
©フジテレビジョン
発売元 フジテレビジョン 販売元 キングレコード
●オリジナル・サウンドトラックCD同時発売!2750円(CD)

『東京日和 デジタルリマスター』 
2025年12月3日(水)Blu-ray&DVD発売 
©フジテレビジョン/バーニングプロダクション
発売元 フジテレビジョン/バーニングプロダクション 販売元 キングレコード

Blu-ray&DVD発売記念トークショー付き特別上映開催!
日時:12/3(水)19:00
会場:池袋HUMAXシネマズ
ゲスト:竹中直人、大貫妙子 ※入場者プレゼントあり
お問い合わせ:池袋HUMAXシネマズ
https://www.humax-cinema.co.jp/ikebukuro/news/124572/

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