今年のカンヌ国際映画祭のコンペティションに、日本を代表して選出された河瀨直美監督最新作『光』。ヒロインに抜擢された水崎綾女の素顔に迫ることが出来たインタビューは、女優として映画に身を置く本気の覚悟を感じさせるものでした。

髙野てるみ(たかのてるみ)
髙野てるみ 映画プロデューサー、エデイトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』ほか多数。
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3000人から選ばれ、体当たり演技が話題作となった、大富いずみ監督作品『ユダ-Judas-』(13)でも、本作でも、水崎綾女の出演のきっかけは、まずオーディションからでした。
挑戦的姿勢を感じさせるオーラには、力強いものがあります。本作では数ページのシナリオの一部を渡されるままに挑んだと言います。

河瀨直美監督を知らないという気持ちで臨んだ、オーディション

画像: 河瀨直美監督を知らないという気持ちで臨んだ、オーディション

「挑戦への思い入れがどのくらいだったかと聞かれたら、期待を裏切るかも知れないんですが、勉強不足で全く知りませんでした。今までの仕事のスタンスとして、事務所からお話しを頂いたのを一生懸命やるということに徹していましたから」

好き嫌いなく、仕事としての女優を全うしたいという姿勢で挑む。その気持ちを大切にしたいと言います。

カンヌ映画祭で高い評価を得て、これまでも多くの受賞歴を持つ、河瀨直美監督の新作『光』のオーディションョンについても、淡々として語ります。

「最初は河瀬直美監督を知らず、どんな監督だろう?という感じで受けました。監督の前知識や情報は無しで、作品もあえて見ませんでした。自分で確かめたい、その監督を、その方をと、思っていたので、気に入られるだけでなく、実際にお会いしてみないと出演を願っても良い結果を出せないのではないか……という思いを込めて。そんな中、『怒ってみて』という監督の指示にも、最後まで応えられなかったりしました。だから、ご縁がないのかなと、思いましたね、オーディション終わってみて」

自分に嘘はつけないからこそ、河瀨監督が出した指示には応えられなかったと、そのときの気持ちを思い出しながら語る水崎。が、結果はオーライ!

「やっぱり嬉しかったですね。監督と向かい合うものがあったんだという嬉しさ。もっと、有名な女優さんを選ぶことも出来るのに、私を選んでくださった監督に感謝です」

やはり、監督をよく知らなくって良かったと思う。そういう自分を感じてくれて、素のままで受け止めてくれたのかと思うと、喜びを隠せなかったとも言う水崎綾女。

視覚障碍者のための、映画の音声ガイド役に挑む

『光』は言わば、『ユダ-Judas-』で演じたトップ・キャバクラ嬢とは間逆の生き方の、若い女性の心情を細やかに、かつ激しく描き出す秀作です。

奇しくも二つの作品の監督が女性であったことは、「男性監督より、心に刺さるような言葉や表現での指示がわかりやすく、それが強さでもあった」という点で、共通するものがあったと言う水崎。しかし、前回のようにヌードにもならないのが本作で、むしろ、その淡々とした所作に挑む難しさは、否めなかったことでしょう。

水崎が演じるのは、視覚障碍者のための劇場用映画の音声ガイドの制作に従事している美佐子。視力を失いつつある天才とうたわれるカメラマン雅哉と出会い、ぶつかり合いながらも彼への無償の愛に目覚め、自分と自分の仕事にも新たな思いを抱くようになる日々が描かれます。

画像: 視覚障碍者のための、映画の音声ガイド役に挑む

障碍者との接し方には、つい戸惑ってしまうのが、健常者というものではないでしょうか。同情や哀れみを持ち過ぎてはいけないと思いつつも、その場その場で戸惑うものです。そういう表情を、実に緻密に演じた水崎。たびたびアップでとらえられるその表情に魅了されます。終始抑えた演技が光ります。

河瀨監督といえば、その映画づくりのメソッドは独特で、撮影前の一ヶ月前後、ロケ地(今回は奈良)にメイン・キャストを住まわせ、演じる役柄になりきることを強いる!と、いうもの。このメソッドが効を奏してこそ、他の追随を許さない独自の世界観が生れるのですが。

「何でも自分でやるんです。音声ガイドの原稿も、制作担当がふつうは作ると思うんですが、全部私が作る。撮影もシナリオと同じに進行していくから、シーンについてはわかりやすいですが、監督の指示はあんまりないです。本人になりきっているから、指示はいらないんだと。こっちが、わかっているはずなんですから」

女優という仕事に自分の居場所を見つけ、必死にもがく

美佐子は監督なんだ、監督が美佐子になりたいんだ、なり切って美佐子の生きるひとコマひとコマを、映像に写し撮ってみたいんだということが次第にわかって来る水崎。そんな監督の思いを感じながら、水崎は美佐子になり切っていったのです。

「でも、演じる、なり切るじゃ、まだ、足りない。ダメなんですね。『美佐子を生きて欲しい』と、監督。『まだまだ(美佐子として)生きてない』と見抜かれます」

戦える、この女優なら自分を受けて立てる、戦い合えると、オーディションで直感し選んだ水崎への監督の期待は、水崎が想像する以上のものだったようです。それに応える水崎のプロ魂が、監督の情熱とぶつかり合ったという話は、真に力強く迫力に満ちていました。

カンヌ映画祭のコンペティションに出品が決まり、その審判も間近かですが、国際的女優としてのデビューを果たす水崎。カンヌは有名・無名に等しくも独自の評価をもたらす場ですから、彼女の勝算には大いに期待が持てるというもの。

「監督に思ったものが撮れたと言ってもらったので、もうそれで充分で、カンヌへの欲なんて全くなかったです。でも、行けるとなったからには現地の方にしっかりと見てもらうために、御挨拶したいです」

『ユダ-Judas-』を撮り終え、この後は純愛ものを演じてみたいと言っていた水崎にとって、本作で願いは叶ったのでしょうか。

「肉体的な愛の繋がりを越えた愛。で、美佐子は音声ガイドという仕事に自分の居場所を見つけて必死に生きて行こうともがいている。その彼女の光になったのが雅哉だったんです。そういう愛の形ってあるんだってわかって、良かった」

と、答える水崎。自分も美佐子によく似ていて、女優という仕事に自分の居場所を見つけて必死にもがいている人間なんです。と言います。そんな彼女を起用した河瀨監督の選択眼は鋭いばかり。これからが楽しみな水崎綾女、頼もしい女優さんです。

『光』
2017年5月27日(土)新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国公開
出演 :永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴、小市慢太郎、早織、大塚千弘/大西信満、堀内正美、白川和子/藤竜也ほか
2017/日本・フランス・ドイツ合作/カラー/102分
監督・脚本:河瀬直美
製作:木下グループ、COMME DES CINEMAS、組画
製作統括:木下直哉
製作:『光』製作委員会
制作プロダクション:組画
制作協力:カズモ
配給:キノフィルムズ/木下グループ
宣伝協力:フリーストーン

画像: 河瀨直美監督 映画『光』カンヌ国際映画祭コンペティション部門選出決定 youtu.be

河瀨直美監督 映画『光』カンヌ国際映画祭コンペティション部門選出決定

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